品詞・活用・誤用分析
日本語の文法には、学校教育で学ぶ「国文法」と、日本語学習者向けに整理された「日本語教育文法」という2つの体系がある。本稿ではその違いを踏まえながら、品詞の判定方法、動詞の活用体系、そして学習者の誤用分析について概観する。
国文法と日本語教育文法の根本的な違い
国文法は古文の文法との歴史的なつながりを重視した体系であり、学術的な完全性を志向している。一方、日本語教育文法は学習者が実際に日本語を運用することを重視し、国文法をもとに必要なものを吸味して整理しなおしたものである。
その典型的な違いが動詞の分類に現れる。国文法では活用の種類を5つ(五段・上一段・下一段・サ変・カ変)、活用形を6つ(未然・連用・終止・連体・仮定・命令)で整理する。一方、日本語教育文法では活用の種類を3グループに簡素化し、活用形も「ます形」「辞書形」「ない形」「た形」「て形」など機能別に提示する。「話さない」を国文法では「はな(語幹)+さ(未然形)+ない(助動詞)」と分析するが、日本語教育文法では単に「話します」の「ない形」として提示する。
日本語教育では「文型」という概念が重要で、述語を中心とした単純なパターンに整理して、頻度や難易度に沿って段階的に提示する。基本的な文型として「~はNです」(名詞文)、「~はAdjです」(形容詞文)、「~はVます」(動詞文)がある。
品詞判定の実践的方法
日本語教育において品詞判定は重要なスキルである。以下に主要な判定基準を整理する。
名詞と動詞の判定: 名詞は格助詞(「が」「を」「に」など)を直接つけることができ、単独では述語になれない。動詞はそのまま述語になることができ、ていねい体にする際は「ます」をつける。
い形容詞と動詞の判定: 両者は「い」で終わる点が似ているが、ていねい形(動詞は「ます」、い形容詞は「です」)、過去形(動詞は「た」形、い形容詞は「かった」)、否定形(動詞は「ない」形、い形容詞は「くない」)で明確に区別できる。
い形容詞とな形容詞の判定: い形容詞はそのままの形で名詞を修飾できる(「高い山」)が、な形容詞は「な」が必要(「きれいな水」)。否定形ではい形容詞が「~くない」、な形容詞が「~ではない」となる。なお「きれい」は語尾が「い」で終わるためい形容詞と誤解されやすいが、実際はな形容詞である。
名詞とな形容詞の判定: 名詞を修飾する際の形で判断する。な形容詞は「~な+名詞」、名詞は「~の+名詞」となる。ただし「自由」「平和」のように文脈によって名詞にもな形容詞にもなる語が存在する。
色彩語の品詞的特徴
品詞判定の興味深い例として色彩語がある。「赤い」「青い」「白い」「黒い」「黄色い」など基本的な色彩語はい形容詞だが、「グレー」「ピンク」「オレンジ」など外来語由来の色彩語は名詞として機能し、修飾には「の」を使う(「グレーの帽子」)。「緋色」「群青色」など伝統的な色彩語も名詞として機能する。
動詞の3グループ分類
日本語教育文法では動詞を活用の仕方によって3つのグループに分類する。
Iグループ(五段活用)は、ます形から「ます」を取った部分の最後がイ段になる動詞で、語幹がア・イ・ウ・エ・オの5段にわたって変化する。「書きます」「飲みます」「話します」などが該当する。
IIグループ(一段活用)は、語幹の最後がエ段またはイ段で、辞書形が「~る」で終わる動詞である。語幹が変化せず「る」の部分だけが変わる。「見ます」「食べます」「起きます」などが該当する。
IIIグループ(不規則活用)は「来る」と「する」の2つのみである。
判別に迷った場合は、「ない形」にして確認するのが実践的だ。Iグループは「ア段+ない」(書かない、読まない)、IIグループは語幹不変(見ない、食べない)となる。ただし「帰る(かえる)」はIグループ、「変える(かえる)」はIIグループというように、同音でもグループが異なる場合があるので注意が必要である。
重要な活用パターン
ない形(否定形)
Iグループは語幹の最後をア段に変えて「ない」をつける(書かない、読まない)。IIグループは語幹にそのまま「ない」をつける(見ない、食べない)。IIIグループは不規則(来ない、しない)である。
て形とその音便変化
て形は多くの文型の基礎となる最も重要な活用形のひとつである。「Vています(進行・状態)」「Vてください(依頼)」「Vてから(時間的前後関係)」など、多様な文型に展開される。
IIグループとIIIグループは比較的単純だが、Iグループのて形は音便変化を伴うため複雑である。「く・ぐ」で終わる動詞は「いて・いで」(書く→書いて、泳ぐ→泳いで)、「む・ぶ・う」で終わる動詞は「んで」(読む→読んで、遊ぶ→遊んで、買う→買って)、「つ・る・す」で終わる動詞は「って・って・して」(待つ→待って、帰る→帰って、話す→話して)となる。
可能形
Iグループは語幹をエ段に変えて「る」をつける(読める、書ける)。IIグループは語幹に「られる」をつける(見られる、食べられる)。IIIグループは不規則(来られる、できる)である。
学習者の誤用とその分析
学習者の誤用を分析することは、日本語教育において重要なスキルである。いくつかの典型的なパターンを見ていこう。
品詞混同による誤り
「きれい水」(正: きれいな水)は、「きれい」が「い」で終わるためい形容詞と誤解した例である。「食べるです」(正: 食べます)は、動詞のていねい形に名詞・形容詞用の「です」を使った誤りである。
活用グループ混同による誤り
「着っています」(正: 着ています)は、IIグループ動詞「着る」をIグループと混同した例である。「降りらなかった」(正: 降りなかった)は、IIグループのIグループ化である。
音便変化の誤り
「飲みたり、歌いたり」(正: 飲んだり、歌ったり)は、「~たり」の形でも音便変化が必要であることへの理解不足によるものである。
格助詞と品詞の関係の誤り
「広島へ旅行」(正: 広島への旅行)は、「広島へ」が動詞にかかる修飾句であり、名詞「旅行」を修飾する場合は「の」が必要だという理解の不足である。「あるだから」(正: あるから)は、理由表現の接続形式が品詞によって異なること(名詞は「Nだから」、動詞・い形容詞は「だ」なし)を理解していない例である。
誤用分析の際は、まず問題となっている語の品詞を特定し、その品詞の機能的特徴を確認し、正しい用法との比較を行い、修正方法を提示するという段階的なアプローチが効果的である。