農業革命と支配関係の成立
人類の歴史において、農業革命は社会構造を根本から変えた出来事の一つである。農耕の開始によって社会が余剰を生産する能力を獲得し、それが支配と被支配の関係を生み、やがて国家の形成へとつながった。本稿では、余剰生産がいかにして支配関係を成立させ、社会集団間の関係を変容させたかを整理する。
余剰の生産と支配関係の成立
農業革命以前の社会では、生産物は生産者とその家族の生活を維持するのにちょうど足りる程度であった。ところが農耕技術の発達により、生活維持に必要な量を超える超過分、すなわち余剰が生まれるようになる。ここでいう余剰とは、生産者と家族の生活維持に必要な生産物を超える超過分のことである。
余剰の出現は、社会に新たな構造をもたらした。余剰を生み出す生産者(農民)と、その余剰を獲得して自らのものとする非生産者(支配層)とが分化し、前者が被支配層、後者が支配層となる関係が成立したのである。
この論理を裏返せば、余剰を生産できない社会では支配関係は成立しない。生産物が生活維持にちょうど足りるだけであれば、他者の生産物を奪い取って我が物とする余地がそもそも存在しないからである。したがって、支配関係の成立条件は、社会が余剰を生産できるだけの高い生産力を持つに至ることであり、農耕の開始がまさにこの条件を満たした。
国家間競争の発生
余剰生産能力の獲得は、社会内部の変化にとどまらず、社会集団間の関係にも大きな変化をもたらした。それぞれの社会が余剰を生む能力を持つようになると、社会間にも支配と被支配の関係、すなわち余剰を奪い奪われる関係が生じる。余剰の獲得が争いの新たな要因となり、社会集団間の衝突は単なる領域をめぐる争いから、経済的利益をめぐる争いへと性質を変えたのである。
征服の経済的合理性
争いの結果として勝者が征服した土地を支配し、そこに住む農民を隷属民(奴隷等)として支配下に置くことが生じる。これは単なる暴力の帰結ではなく、明確な経済的合理性に基づいている。支配下に置いた隷属民に余剰を生産させ、その余剰を我が物とすることが可能になるからである。
ここで重要なのは、征服した土地の農民が余剰を生む力を持たなければ、その農民を支配する意味が生じないという点である。征服と支配は、被征服者の生産力によって初めて経済的に意味をなす行為である。
余剰なき社会間の関係との対比
余剰を生まない社会同士の間では、争いの帰結はまったく異なる様相を呈する。一方が他方に勝利したとしても、隷属させた人々から余剰を得ることができないため、征服して支配する経済的理由が存在しない。
したがって、余剰なき社会間の争いの帰結は、新たな共存関係が築かれるか、一方が他方を撲滅ないし地域外に追いやることによって排除するか、そのいずれかとなる。征服して支配するという選択肢は、余剰を生む社会においてのみ成立するのである。この対比は、余剰の有無が社会間関係の性質を根本的に規定していることを明確に示している。