考古学の年代測定法

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本稿は筆者が大学の授業で学んだ内容をもとに、独自の考察を加えて再構成したものである。

考古学において、出土した遺物や遺構がいつの時代のものであるかを明らかにすることは、歴史を読み解くうえで根本的に重要な作業である。年代測定にはさまざまな手法が存在するが、本稿では有機物の年代を推定する放射性炭素年代測定法と、木材の伐採年代を特定する酸素同位体年輪年代法について概説する。

放射性炭素年代測定法

原理

放射性炭素年代測定法は、大気中の放射性炭素(¹⁴C)の挙動に基づく年代測定法である。宇宙線が大気上層で窒素原子(¹⁴N)に衝突すると¹⁴Cが生成され、一方で¹⁴Cは放射性崩壊により減少する。この生成と崩壊が動的平衡を保つため、大気中の¹⁴C濃度はほぼ一定に維持される。

生きている生物は呼吸や光合成を通じて大気と炭素を交換するため、体内の¹⁴C濃度は大気と同程度に保たれる。生物が死亡すると炭素の取り込みが停止し、体内の¹⁴Cは放射性崩壊によって一方的に減少する。¹⁴Cの半減期は約5,730年(±40年)であり、この一定の崩壊速度を利用して、試料中の¹⁴C残存量から死後の経過時間を算出できる。

測定手法

測定対象となる試料は炭素を含む有機物であり、木材、骨、種子、炭化物、土器に付着した焦げなどが該当する。現在ではAMS法(加速器質量分析法)が普及しており、¹⁴C原子を直接計数できるため、ミリグラム単位の微量試料からでも高精度の測定が可能となっている。

測定結果の解釈

測定結果はBP(Before Present)で表記される。BPは1950年を基準とした年数であり、基準年が1950年である理由は、それ以降の核実験によって大気中の¹⁴C濃度が大きく撹乱されたことにある。測定値には統計的な不確実性が伴い、1σで約68%、2σで約95%の信頼区間として示される。

ただし、大気中の¹⁴C濃度は厳密には一定ではなく、太陽活動や地磁気の変動などによって時代ごとに変動している。そのため、BP値をそのまま暦年代(西暦)に換算することはできず、年輪年代法やサンゴ年輪などの独立した年代資料から構築された較正曲線を用いた補正が必要となる。

試料選択の注意点

試料の選択は測定結果の信頼性を大きく左右する。注意すべき主な誤差要因に、古木効果と海洋リザーバー効果がある。

古木効果は、樹齢の長い木や枯死後に長期間放置された木材が燃料として使われた場合に生じる。その木材の¹⁴Cはすでに長期間崩壊が進んでいるため、実際の使用時期よりも古い年代値が算出される。

海洋リザーバー効果は、海洋深層水が大気との炭素交換から長期間隔離されていることに起因する。海洋深層水中の¹⁴C濃度は大気より低いため、海産物やそれを摂取した生物を試料とすると、実際より数百年古い年代値が出る。

こうした影響を避けるため、土器の年代を測定する場合には、外面のスス(燃料の木材に由来)ではなく、内面の焦げ(調理された食材に由来)を測定する工夫が行われる。また、海産物ではなくシカなどの陸上動物の骨を選択することで、海洋リザーバー効果を回避できる。

酸素同位体年輪年代法

年輪年代法の原理

酸素同位体年輪年代法の理解には、その基盤となる年輪年代法を先に知る必要がある。

年輪年代法は、樹木が1年に1層ずつ年輪を形成し、その幅が気象条件によって変動する性質を利用した年代測定法である。同じ地域の樹木は共通の気候変動を経験するため、年輪幅の変動パターンが類似する。現生木から出発して、年代の重なる古い木材のパターンを順に接続していくことで、数千年にわたる標準年輪パターン(マスタークロノロジー)が構築される。未知の木材の年輪パターンをマスタークロノロジーと照合すれば、伐採年代を1年単位で特定できる。

年輪年代法の限界

年輪年代法にはいくつかの制約がある。年輪幅のパターンは樹種や生育環境の影響を強く受けるため、マスタークロノロジーは樹種ごとに構築しなければならない。日本ではヒノキ、スギ、コウヤマキなど限られた樹種のデータしか蓄積されていない。また、伐採年を確定するには樹皮直下の最外周年輪が試料に残存している必要があり、樹皮が失われた試料では伐採年を特定できない。

酸素同位体比を用いた年代測定

これらの限界を克服するために開発されたのが酸素同位体年輪年代法である。この手法では、年輪中のセルロースに含まれる酸素同位体比(¹⁸Oと¹⁶Oの比率)を測定し、その変動パターンをマスタークロノロジーと照合する。

酸素には質量の異なる安定同位体が存在する。自然界では¹⁶O(約99.76%)、¹⁷O(約0.04%)、¹⁸O(約0.20%)の3種が存在し、水の蒸発や凝結の際に軽い¹⁶Oを含む水分子は重い¹⁸Oを含む水分子よりも蒸発しやすい。この現象を同位体分別と呼ぶ。

樹木の葉では、根から吸収した水のうち軽い¹⁶Oが気孔から優先的に蒸散される。大気の湿度が高い(降水量が多い)年は、蒸散量に対して外部から供給される水蒸気の割合が大きいため、葉内の水のδ¹⁸Oは相対的に低くなる。逆に乾燥した年は蒸散が卓越し、葉内の水のδ¹⁸Oが高くなる。この値がセルロースに固定されるため、年輪の酸素同位体比は各年の湿潤度を記録する。

酸素同位体比は次の式で定義される。

\[ \delta^{18}\mathrm{O}=\left(\frac{^{18}\mathrm{O}/^{16}\mathrm{O}}{^{18}\mathrm{O}/^{16}\mathrm{O}}-1\right)\times1000\text{ ‰} \]

δ¹⁸Oの値が大きいほど、試料中の¹⁸Oの割合が高いことを意味する。

従来の年輪年代法に対する利点

酸素同位体年輪年代法の最大の利点は、酸素同位体比の変動が樹種や立地に依存せず、広域の気候条件を反映する点にある。これにより特定の樹種に限定されず幅広い木材に適用できるため、従来の年輪年代法では対応できなかった試料にも年代測定が可能となる。

測定結果は折れ線グラフとして可視化され、δ¹⁸Oが低い年は湿潤な気候、高い年は乾燥した気候を示す。このため、年代特定だけでなく過去の気候変動の復元にも応用される。

ただし、伐採年の確定に樹皮直下の年輪が必要という条件は年輪年代法と共通しており、樹皮が残存していない試料ではこの制約を免れない。

参考文献

  • 中塚武(2015)「酸素同位体比年輪年代法がもたらす新しい考古学研究の可能性」『考古学研究』第62巻第2号、17-30頁
  • 中塚武(2021)『酸素同位体比年輪年代法』同成社
  • 長友恒人編(1999)『考古学のための年代測定学入門』古今書院
  • 平尾良光・山岸良二(1998-1999)『文化財を探る科学の眼①』国土社

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