ごみ処理と拡大生産者責任
ごみの処理は、自治体が担う最も身近な公共サービスの一つであると同時に、費用負担や処分場の確保といった構造的な課題を抱えている。本稿では、高知市の清掃事業を事例にごみ処理の現状と課題を分析し、拡大生産者責任(EPR)の考え方を取り入れた制度設計について考察する。
高知市のごみ処理事業
高知市のごみ処理事業は、段階的な制度改革を重ねてきた。特筆すべきは、平成元年(1989年)に開始されたプラスチック系ごみの分別収集である。当初は全市の8.3%の世帯を対象としたモデル地区から始まり、翌年の平成2年1月には全市域での分別収集が実現した。これは容器包装リサイクル法の完全施行(2001年)に12年先行する取り組みであった。
現在の分別区分は、可燃ごみ、プラスチック製容器包装、ペットボトル、資源物、可燃粗大ごみ、家電品、水銀含有廃棄物、不燃ごみ、発火器具・ライター類の9区分である。こうした分別収集体制のもと、平成19年度(2007年度)以降は焼却灰・焼却飛灰の全量をセメント資源化するゼロ・エミッションを達成している。
処理体制の中核を担うのは平成14年(2002年)に完成した高知市清掃工場で、600t/24h(200t/24h × 3基)の処理能力を有する。焼却時の熱エネルギーは発電に活用され、工場内での利用に加えて電気事業者への売電も行われている。
経済的な課題
処理費用の負担構造
高知市のごみ処理における重要な課題の一つは、処理費用の負担構造にある。ごみ処理手数料は平成8年(1996年)の改定以降長期間据え置かれ、処理原価に占める収入の比率が年々低下していた。その後、段階的な料金改定が実施されたものの、ごみ袋の有料化(排出量に応じた従量制課金)には至っていない。
最終処分場の逼迫
三里最終処分場は、当初の埋立容量23万m³から31万8,000m³、さらに隣接地の取得により38万m³まで段階的に拡張されてきた。こうした拡張を繰り返さなければならない状況そのものが、最終処分場の確保がいかに困難であるかを物語っている。
ごみ排出量の減少傾向
日本全体のごみ排出量は2005年頃を境に減少傾向に転じており、一人当たりの排出量も同様に減少している。環境意識の高まりが一因とも考えられるが、意識の変化だけでは排出量の持続的な削減には限界がある。制度的な枠組みによって、ごみを生み出しにくい構造を社会に組み込んでいく必要がある。
拡大生産者責任に基づく制度の提案
現行制度の構造的問題
現行のごみ処理制度は、消費者が分別に協力し、自治体が処理費用を負担するという構造を基盤としている。この構造では、製品を設計・製造する生産者に対して、ごみの発生を抑制するインセンティブが十分に働かない。
特にプラスチック製品は、製造コストが低く利便性が高いために、包装・容器をはじめ広範に使用されている。環境負荷の低い代替素材を選択すると製品コストが上昇する場合が多く、現行の価格体系のもとでは、生産者がプラスチックを選択する経済的合理性が存在する。
生産者負担とデポジットの組み合わせ
こうした構造を変えるために、ごみ処理の費用を消費者や自治体ではなく生産者に課す制度を考える。
具体的には、生産者が製品の製造段階であらかじめごみ処理費用に相当する金額を負担する。この費用は製品価格に転嫁されるため、使い捨て前提の製品は相対的に価格が上昇し、ごみになりにくい設計の製品が価格面で有利になる。一方、消費者は使用後の製品を適切に分別・返却することで、製品価格に含まれたデポジット相当額の還元を受けられる仕組みとする。
この提案は、一見すると既存のデポジット制度(消費者が預かり金を支払い、容器返却時に回収する制度)と似ているが、費用負担の起点が異なる。通常のデポジット制度では消費者が預かり金の支払者であるのに対し、ここでの提案は生産者を費用負担の出発点に置いている。生産者がごみ処理の経済的責任を負うことで、使い捨てになりやすい製品を大量に供給するインセンティブが弱まり、製品設計の段階からごみの発生を抑制する動機が生まれる。
この「製品のライフサイクル全体に対する責任を生産者にまで拡張する」という考え方は、環境経済学において**拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility, EPR)**と呼ばれる原則に基づいている。OECDが2001年にガイダンスマニュアルを策定して以降、各国の廃棄物政策において中心的な概念となっている。日本でも容器包装リサイクル法や家電リサイクル法にEPRの要素が取り入れられているが、処理費用の大部分を依然として自治体(つまり住民の税金)が負担している点で、EPRの原則が徹底されているとは言いがたい。
実装上の課題
この制度にはいくつかの課題がある。
第一に、製品ごとのごみ処理コストの算定が困難である。単一素材の製品であれば処理コストの見積もりは比較的容易だが、複数の素材が組み合わさった複雑な製品では、分解・分別の工程が加わり、各素材の処理費用を単純に合算するだけでは実際の処理コストを反映できない。すべての製品について正確な処理コストを事前に算出することは現実的ではなく、製品カテゴリーごとの概算や段階的な精緻化といった運用上の工夫が求められる。
第二に、中小企業への配慮が必要である。処理費用の負担は企業の経営規模を問わず発生するため、体力の限られた中小企業にとっては重い負担となりうる。一定の売上規模や生産量を基準とした段階的な適用が考えられるが、基準の設定次第では制度の抜け道が生じる可能性もあり、公平性と実効性を両立する制度設計には慎重な検討が求められる。
高知市のようにすでに先進的な分別収集システムを有する自治体において実証実験を行い、段階的に制度を拡大していくことが現実的であろう。
おわりに
高知市の事例は、自治体主導のごみ処理・リサイクルシステムが到達しうる水準と、その限界を同時に示している。ゼロ・エミッションの達成や9区分の分別収集といった先進的な取り組みがある一方で、処理費用の負担構造や最終処分場の確保という問題は根本的な解決に至っていない。ごみ処理の経済的責任を生産者にまで拡張する制度への転換は、より持続可能な社会を実現するための一つの方向性である。
参考文献
- 高知市(2024)『清掃事業概要 令和6年度版』(PDF、最終閲覧日 2025年7月9日)
- 大沼あゆみ・柘植隆宏(2021)『環境経済学の第一歩』有斐閣ストゥディア