ロックにおける一次性質と二次性質
ロックは『人間知性論』第2巻において、物体の性質を「一次性質」と「二次性質」に区別した。この区別は近代認識論における物体の性質理解の基本的枠組みのひとつである。
性質と観念
ロックにおいて「性質」とは、私たちの心の中に「観念」を生み出す「力」のことである。ここで重要なのは、心の中にある観念と、物体に存する性質とを明確に区別している点である。私たちが直接知るのは心の中の観念であり、物体の性質はその原因として推論されるものである。
一次性質
一次性質とは、物体そのものに内在し、いかなる変化を受けても物体から分離できない性質である。ロックは次のように述べる。
まったく分離できないような物体のうちの性質。(『人間知性論』、187頁)
具体的には、固性(solidity)、延長、形、運動あるいは静止、数がこれにあたる。ロックは「たとえば一粒の小麦をとってこの部分に分割しよう。やはり固性・延長・形・可動性をもっている」(同上、187頁)と例示し、どれだけ細かく分割しても一次性質は失われないことを強調する。
一次性質の重要な特徴は、物体の一次性質が私たちの心の中に「それに類似する」観念を生み出すという点である。物体の形が四角であれば、私たちの心の中にもつ形の観念もまた四角である。一次性質と、一次性質が生み出す観念は類似している。
固性について
ロックが一次性質として挙げる「固性」は、日常的な「硬さ」とは異なる概念である。固性とは「ある物体がその占有する場所を去るまで、この場所へ他の物体が入らないようにする」(同上、165頁)抵抗から生じる観念であり、いわば空間を排他的に占有する性質のことである。
硬さは物体の構成部分の凝集の度合いにすぎない。机が硬いのは構成部分が強く結合しているからであり、水が柔らかいのは触れた部分の分子が容易に移動するからにすぎない。しかし、水であっても空間的な存在を小さくすること(圧縮)は困難である。水も机も、他の物体と同じ空間を共有することはできないという点では同じである。この空間の排他的占有が固性であり、硬い/柔らかいという程度問題とは切り離されたあらゆる物質に共通する性質である。
また、固性の概念から物体の延長と空間の延長が区別される。物体の延長は固性をもち、分離可能で運動できる部分の連続であるのに対し、空間の延長は固性をもたず、分離不可で運動できない部分の連続である。
二次性質
二次性質とは、物体に内在するのではなく、物体の一次性質が私たちの感覚器官に作用することで心の中に観念を生み出す力のことである。色、音、匂い、味などがこれにあたる。
物体に内在せず、その一次性質に依存して、私たちの心の中に、それとは類似しない諸観念を生み出す力。(下川潔『哲学の歴史 第6巻』、114頁)
一次性質との決定的な違いは、二次性質が生み出す観念は物体そのものの性質に「類似しない」という点である。ロックは「マナは白くて甘い」(『人間知性論』、192頁)という例を挙げ、白さや甘さといった二次性質が、物体の微粒子の配列(一次性質)が私たちの感覚器官に作用することで生じると説明する(同上、193-194頁)。
りんごの赤い色も同様である。りんごの表面の微粒子が光を特定の仕方で反射し、それが私たちの視覚器官に作用することで「赤い」という観念が生じる。りんごの表面そのものが「赤い」わけではなく、特定の物理的構造(一次性質)をもっているだけである。砂糖の甘さもまた、砂糖の分子構造(一次性質)が舌の味覚受容体と相互作用することで生じる感覚であり、砂糖そのものに「甘さ」が内在しているわけではない。
歴史的背景とバークリの批判
一次性質と二次性質の区分自体は、ロックの独創ではない。「二種の性質の区分自体は経験主義に特有のものではなく、近代ではガリレオやデカルトにも見られる」(下川潔『哲学の歴史 第6巻』、114頁)。ガリレオは『贋金鑑識官』(1623年)において、物体の客観的性質(形、大きさ、運動)と主観的感覚(色、音、匂い)の区別をすでに論じていた。ロックの独自性は、この区別を経験主義的認識論の体系の中に位置づけた点にある。
しかし、この理論には批判の余地がある。「ロックの二次性質の位置づけに関しては、それが物体に属する実在的性質であるのか、それとも心に属する非実在的性質なのかが曖昧だとしばしば指摘される」(同上、114頁)。ロックは二次性質を物体の「力」として物体の側に帰属させつつも、その観念は物体に類似しないと述べているため、二次性質の存在論的身分が不明瞭になっている。
この問題を鋭く突いたのがバークリである。バークリは「一次性質のみが実在的なのではなく、一次性質も二次性質も、ともに知覚する心に依存している点で同じ身分をもつ」(同上、114頁)と批判した。バークリによれば、形や大きさ(一次性質)もまた知覚の条件に応じて変化するのであり、一次性質だけが物体そのものに属すると見なす根拠はない。
参考文献
- ロック, J.『人間知性論』岩波文庫.(原著: Locke, J. (1689). An Essay Concerning Human Understanding.)
- 下川潔「ロック」『哲学の歴史 第6巻 知識・経験・啓蒙【18世紀】』松永澄夫編, 中央公論新社.