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写真の物理学 ㊱ フレームレートと運動知覚

📐写真の物理学シリーズ ㊱ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 なぜ24 fpsの映画が滑らかに見え、60 fpsのゲームがさらに滑らかに見えるのか。この問いに答えるには、光の物理学だけでなく、人間の視覚系が時間的な変化をどう処理するかという心理物理学の知見が必要になる。本記事では、フレームレートと運動知覚の関係を物理学と心理物理学の両面から記述する。 仮現運動:静止画が動いて見える条件 映画もテレビもモニターも、表示しているのは静止画の連続だ。しかし私たちはそこに「運動」を知覚する。この現象は仮現運動(apparent motion)と呼ばれ、1912年にマックス・ヴェルトハイマーがゲシュタルト心理学の文脈で体系的に研究した。 仮現運動の最も基本的な形式がベータ運動(beta movement)だ。位置Aに表示された図形が消え、短い時間間隔の後に位置Bにほぼ同じ図形が表示されると、観察者は一つの図形がAからBへ移動したと知覚する。 ベータ運動が成立する条件はコルテの法則(K

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写真の物理学 ㊵ 太陽光と大気の物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊵ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真のもっとも基本的な光源は太陽である。その光が大気を通過する過程で何が起こるかを物理学で記述する。空が青い理由、夕焼けが赤い理由、雲が白い理由。これらはすべて、太陽光と大気中の粒子との相互作用として統一的に理解できる。 太陽のスペクトル 太陽の表面(光球)は有効温度約5778 Kの熱放射体として振る舞う。プランクの放射法則により、温度 $T$ の黒体から放射される分光放射輝度 $B(\lambda, T)$ は $$ B(\lambda, T) = \frac{2hc^2}{\lambda^5} \cdot \frac{1}{e^{hc/(\lambda k_B T)} - 1} $$ で与えられる。ここで $h$ はプランク定数、

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写真の物理学 ㊴ アナモルフィックレンズの光学

📐写真の物理学シリーズ ㊴ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 映画のスクリーンを水平に横切る光のストリーク、楕円形に滲むボケ、被写体を包み込む没入感。これらはすべて、水平と垂直で異なる屈折力を持つアナモルフィックレンズがもたらす描写だ。本稿では、シリンドリカルレンズの屈折からスクイーズ比の幾何学、楕円ボケや水平フレアの物理的起源までを順に解き明かす。 アナモルフィックレンズの歴史的背景 映画産業が直面した「画面比率」の問題 アナモルフィックレンズの起源を理解するには、まず映画フィルムの物理的制約を知る必要がある。 35mmフィルムの1コマ(フレーム)は、サウンドトラック領域とパーフォレーション(送り穴)を除くと、撮影に使える面積が限られている。標準的なアカデミー比(Academy ratio)は約1.375:1で、横にわずかに長い程度の、ほぼ正方形に近いフレームだった。 1950年代初頭、テレビの普及によって映画館の観客動員数が激減した。映画産業は、家庭のテレビでは体験

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写真の物理学 ⑪ 被写界深度の厳密な導出

📐写真の物理学シリーズ ⑪ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 絞りを開ければボケが大きくなり、絞ればパンフォーカスに近づく。焦点距離が長いほど、被写体が近いほどボケやすい。本記事では、これらの経験則を幾何光学の原理から厳密に導出し、4変数がそれぞれどの程度被写界深度に効くのかを偏微分で定量化する。 許容錯乱円(Circle of Confusion)の定義 被写界深度を定義するには、まず「ピントが合っている」とはどういう状態かを定量的に定める必要がある。 薄肉レンズの結像公式により、ある距離 $d$ にある被写体は、レンズの後方のある一点に結像する。この合焦面から前後にずれた位置にある被写体は、センサー上で点ではなく円(ボケ円)として記録される。このボケ円の直径が十分に小さければ、人間の目には「点」と区別がつかない。この「点と区別がつかない最大のボケ円の直径」を許容錯乱円(Circle of Confusion, CoC)と呼び、$c$ で表す。 被写界深度とは、ボケ円の直

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写真の物理学 ⑤ センサーサイズと換算焦点距離の正体

📐写真の物理学シリーズ ⑤ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 「35mm換算50mm」。カメラの仕様表で頻繁に目にする表記だが、この「換算」が何を保存し何を保存しないかを厳密に理解している人は少ない。本稿ではクロップファクターをセンサー対角線の幾何学から導出し、換算焦点距離と換算F値の物理的意味を明確にする。「換算焦点距離が同じなら同じ写真が撮れる」という素朴な理解が、なぜ物理的には誤りなのかを示す。 画角とセンサーの幾何学 シリーズ第1回で示したように、焦点距離 $f$ のレンズが無限遠に合焦しているとき、像はレンズの後方焦点面に結ばれる。像距離 $b = f$ であり、センサーはこの焦点面に置かれる。 このとき、センサーの寸法が画角を決定する。幅 $w$ 、高さ $h$ のセンサーの対角線長を $d_s$ とすると $$ d_s = \sqrt{w^2 + h^2} $$ 無限遠に合焦した状態での対角画角 $2\alpha$ は $$ \tan\

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写真の物理学 ㊺ 印刷の物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊺ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真の最終出力にはディスプレイともうひとつ、印刷がある。ディスプレイが自ら光を発して色を作るのに対し印刷は光を吸収して色を作るという根本的な違いがあり、この物理を理解しないまま「モニターで見たとおりに刷れない」と嘆くのは問題の入口にすら立てていない。本稿ではインクジェット・銀塩プリント・オフセット印刷の物理的原理とそれぞれが抱える色再現の限界を記述する。 減法混色の物理 ディスプレイの物理学で論じたとおり、ディスプレイはRGBの加法混色で色を作る。赤・緑・青の光を足し合わせ、すべて足すと白になる。印刷はその逆で、白い紙に反射した光からインクが特定の波長を吸収し、残った光が目に届くことで色が知覚される。これが減法混色である。 CMYの三原色は、それぞれRGBの補色にあたる。 * シアン(C) は赤の光を吸収し、緑と青を反射する * マゼンタ(M) は緑の光を吸収し、赤と青を反射する * イエロー(Y) は青の

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写真の物理学 ⑥ パースペクティブは撮影距離だけで決まる

📐写真の物理学シリーズ ⑥ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 「望遠レンズには圧縮効果がある」、「広角レンズは歪む」。写真を撮る人なら一度は耳にした言い回しだが、どちらも物理的には不正確だ。パースペクティブを決めるのはレンズの焦点距離ではなく、カメラと被写体の距離だけである。本記事では、透視投影の幾何学からこの事実を厳密に導く。 透視投影の幾何学的定式化 カメラの結像を最も単純に記述するモデルがピンホールカメラモデルだ。レンズの収差や厚みを無視し、光がひとつの点(光学中心)を通過してセンサー面に像を結ぶと仮定する。 光学中心を原点とし、光軸方向を $z$ 軸にとる。光軸からの距離 $Y$ にある物体が、光軸方向に距離 $Z$ だけ離れた位置にあるとき、焦点距離 $f$ のレンズによってセンサー面上に結ばれる像の位置 $h$ は $$ h = f \, \frac{Y}{Z} $$ で与えられる。この式は、写真の物理学 ① 光の直進と薄肉レンズの結像で導いた結像公式を、無限

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写真の物理学 ㉝ ガンマとトーンカーブの知覚心理物理学

📐写真の物理学シリーズ ㉝ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 デジタルカメラのセンサーは光を線形に記録するが、そのまま表示すると人間の目には不自然に暗く見える。原因は輝度知覚が物理的光強度に対して強い圧縮的非線形性を持つことにある。本稿ではウェーバー・フェヒナーの法則からsRGBの伝達関数、S字トーンカーブの設計思想までを知覚心理物理学の観点で導出する。 ウェーバーの法則 19世紀ドイツの生理学者エルンスト・ハインリヒ・ウェーバーは、刺激の弁別閾(丁度可知差異、JND: Just Noticeable Difference)が、元の刺激強度に比例することを発見した。暗い部屋でろうそくを1本追加すれば違いに気づく。だが100本のろうそくが灯る部屋で1本追加しても、誰も気づかない。 数式で書けば単純だ。刺激強度 $I$ に対する弁別閾 $\Delta I$ の比は一定値 $k$ をとる。 $$ \frac{\Delta I}{I} = k $$ この $k$ をウェーバー比と

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写真の物理学 ㊲ シャッターアングルとモーションブラー

📐写真の物理学シリーズ ㊲ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 映画を観ていて「映画っぽい」と感じる動きの質感は、被写体が各フレームに残すモーションブラーの量に由来する。その量を決定するのがシャッターアングルであり、フィルム映画カメラの回転シャッターから生まれたこの概念は露光時間とフレームレートの比率を角度で表現する。本稿では、シャッターアングルがモーションブラーの幾何学と運動知覚をどう規定するかを物理的に記述する。 回転シャッターの物理 フィルム映画カメラでは、フィルムゲートの前に円盤状のシャッターが置かれている。この円盤はフレームレートと同期して回転し、円盤に設けられた開口部がフィルムゲートの前を通過する間だけ光がフィルムに到達する。開口部が通り過ぎると円盤の不透明な部分がフィルムを遮光し、その間にフィルムが1コマ分送られる。次の開口部が来ると、新しいコマへの露光が始まる。 この開口部の角度がシャッターアングルである。円盤全体を360°としたとき、開口部が占める角度で露光時

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写真の物理学 ㊽ すべてを統合する

📐写真の物理学シリーズ ㊽ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 全48回にわたって導いてきた関数と法則を、ここで一望する。光子がシーンを離れ、レンズを通り、センサーまたはフィルム上で信号に変わり、現像・表示を経て、人間の意識に「像」として届くまで。この全過程を貫く変数の連鎖と、各段階を支配する物理法則の相互関係を整理することが、最終回の目的である。 入力変数と出力の全体像 写真の物理を記述する入力変数は、突き詰めれば次の7つに集約される。 * $f$ : 焦点距離 * $N$ : F値(絞り) * $d$ : 撮影距離(物体距離) * $S_{\text{sensor}}$ : センサー対角線長(センサーサイズ) * $S_{\text{subject}}$ : 被写体の実サイズ * $\lambda$ : 光の波長 * $T$ : 露光時間(シャッター速度) これらの入力から、写真の物理的な出力が決まる。主要な出力は以下のとおりである。 * 画角 $2\

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写真の物理学 ⑱ マクロ領域の光学

📐写真の物理学シリーズ ⑱ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 通常の撮影では像倍率はほぼゼロであり、薄肉レンズの結像公式は簡潔な近似で事足りる。ところが被写体がレンズに近づき倍率が無視できなくなると、実効F値は増大し、被写界深度は急激に浅くなり、回折の影響が深刻化する。本記事では、結像公式と倍率の定義を出発点に、マクロ領域で顕在化するこれらの光学的変化を体系的に記述する。 通常撮影からマクロへの連続的移行 像倍率 $m$ は物体距離 $a$ と像距離 $b$ の比 $m = b/a$ で定義される。結像公式から $b = f(1 + m)$、$a = f(1 + 1/m)$ が導かれる。 たとえば焦点距離 100 mm のレンズで 3 m 先の被写体を撮るとき、$m \approx 0.034$

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写真の物理学 ⑨ シャッターの物理学

📐写真の物理学シリーズ ⑨ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 シャッターは露光時間を制御する、それだけの装置に見える。しかし動作原理を物理的に追えば、フラッシュ同調速度の限界、ローリングシャッター歪み、シャッターショックといった現象が、すべてシャッター幕の構造から必然的に生じることが分かる。本記事では、メカニカルシャッターと電子シャッターの動作を幾何学と時間の観点から記述する。 フォーカルプレーンシャッターの構造 現代のミラーレスカメラおよび一眼レフカメラの大多数は、フォーカルプレーンシャッター(focal-plane shutter)を採用している。センサー(またはフィルム)の直前に配置された二枚の遮光幕で露光を制御する方式だ。 二枚の幕は先幕(first curtain)と後幕(second curtain)と呼ばれる。35mm判のカメラでは、金属製のブレードが上下方向(短辺方向)に走行する縦走りフォーカルプレーンシャッターが主流である。走行距離が短辺方向の約24mmで済

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