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光と写真

写真の物理学 ㊺ 印刷の物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊺ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真の最終出力にはディスプレイともうひとつ、印刷がある。ディスプレイが自ら光を発して色を作るのに対し印刷は光を吸収して色を作るという根本的な違いがあり、この物理を理解しないまま「モニターで見たとおりに刷れない」と嘆くのは問題の入口にすら立てていない。本稿ではインクジェット・銀塩プリント・オフセット印刷の物理的原理とそれぞれが抱える色再現の限界を記述する。 減法混色の物理 ディスプレイの物理学で論じたとおり、ディスプレイはRGBの加法混色で色を作る。赤・緑・青の光を足し合わせ、すべて足すと白になる。印刷はその逆で、白い紙に反射した光からインクが特定の波長を吸収し、残った光が目に届くことで色が知覚される。これが減法混色である。 CMYの三原色は、それぞれRGBの補色にあたる。 * シアン(C) は赤の光を吸収し、緑と青を反射する * マゼンタ(M) は緑の光を吸収し、赤と青を反射する * イエロー(Y) は青の

By Sakashita Yasunobu

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写真の物理学 ⑥ パースペクティブは撮影距離だけで決まる

📐写真の物理学シリーズ ⑥ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 「望遠レンズには圧縮効果がある」、「広角レンズは歪む」。写真を撮る人なら一度は耳にした言い回しだが、どちらも物理的には不正確だ。パースペクティブを決めるのはレンズの焦点距離ではなく、カメラと被写体の距離だけである。本記事では、透視投影の幾何学からこの事実を厳密に導く。 透視投影の幾何学的定式化 カメラの結像を最も単純に記述するモデルがピンホールカメラモデルだ。レンズの収差や厚みを無視し、光がひとつの点(光学中心)を通過してセンサー面に像を結ぶと仮定する。 光学中心を原点とし、光軸方向を $z$ 軸にとる。光軸からの距離 $Y$ にある物体が、光軸方向に距離 $Z$ だけ離れた位置にあるとき、焦点距離 $f$ のレンズによってセンサー面上に結ばれる像の位置 $h$ は $$ h = f \, \frac{Y}{Z} $$ で与えられる。この式は、写真の物理学 ① 光の直進と薄肉レンズの結像で導いた結像公式を、無限

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写真の物理学 ㉝ ガンマとトーンカーブの知覚心理物理学

📐写真の物理学シリーズ ㉝ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 デジタルカメラのセンサーは光を線形に記録するが、そのまま表示すると人間の目には不自然に暗く見える。原因は輝度知覚が物理的光強度に対して強い圧縮的非線形性を持つことにある。本稿ではウェーバー・フェヒナーの法則からsRGBの伝達関数、S字トーンカーブの設計思想までを知覚心理物理学の観点で導出する。 ウェーバーの法則 19世紀ドイツの生理学者エルンスト・ハインリヒ・ウェーバーは、刺激の弁別閾(丁度可知差異、JND: Just Noticeable Difference)が、元の刺激強度に比例することを発見した。暗い部屋でろうそくを1本追加すれば違いに気づく。だが100本のろうそくが灯る部屋で1本追加しても、誰も気づかない。 数式で書けば単純だ。刺激強度 $I$ に対する弁別閾 $\Delta I$ の比は一定値 $k$ をとる。 $$ \frac{\Delta I}{I} = k $$ この $k$ をウェーバー比と

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写真の物理学 ㊲ シャッターアングルとモーションブラー

📐写真の物理学シリーズ ㊲ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 映画を観ていて「映画っぽい」と感じる動きの質感は、被写体が各フレームに残すモーションブラーの量に由来する。その量を決定するのがシャッターアングルであり、フィルム映画カメラの回転シャッターから生まれたこの概念は露光時間とフレームレートの比率を角度で表現する。本稿では、シャッターアングルがモーションブラーの幾何学と運動知覚をどう規定するかを物理的に記述する。 回転シャッターの物理 フィルム映画カメラでは、フィルムゲートの前に円盤状のシャッターが置かれている。この円盤はフレームレートと同期して回転し、円盤に設けられた開口部がフィルムゲートの前を通過する間だけ光がフィルムに到達する。開口部が通り過ぎると円盤の不透明な部分がフィルムを遮光し、その間にフィルムが1コマ分送られる。次の開口部が来ると、新しいコマへの露光が始まる。 この開口部の角度がシャッターアングルである。円盤全体を360°としたとき、開口部が占める角度で露光時

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写真の物理学 ㊽ すべてを統合する

📐写真の物理学シリーズ ㊽ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 全48回にわたって導いてきた関数と法則を、ここで一望する。光子がシーンを離れ、レンズを通り、センサーまたはフィルム上で信号に変わり、現像・表示を経て、人間の意識に「像」として届くまで。この全過程を貫く変数の連鎖と、各段階を支配する物理法則の相互関係を整理することが、最終回の目的である。 入力変数と出力の全体像 写真の物理を記述する入力変数は、突き詰めれば次の7つに集約される。 * $f$ : 焦点距離 * $N$ : F値(絞り) * $d$ : 撮影距離(物体距離) * $S_{\text{sensor}}$ : センサー対角線長(センサーサイズ) * $S_{\text{subject}}$ : 被写体の実サイズ * $\lambda$ : 光の波長 * $T$ : 露光時間(シャッター速度) これらの入力から、写真の物理的な出力が決まる。主要な出力は以下のとおりである。 * 画角 $2\

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写真の物理学 ⑱ マクロ領域の光学

📐写真の物理学シリーズ ⑱ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 通常の撮影では像倍率はほぼゼロであり、薄肉レンズの結像公式は簡潔な近似で事足りる。ところが被写体がレンズに近づき倍率が無視できなくなると、実効F値は増大し、被写界深度は急激に浅くなり、回折の影響が深刻化する。本記事では、結像公式と倍率の定義を出発点に、マクロ領域で顕在化するこれらの光学的変化を体系的に記述する。 通常撮影からマクロへの連続的移行 像倍率 $m$ は物体距離 $a$ と像距離 $b$ の比 $m = b/a$ で定義される。結像公式から $b = f(1 + m)$、$a = f(1 + 1/m)$ が導かれる。 たとえば焦点距離 100 mm のレンズで 3 m 先の被写体を撮るとき、$m \approx 0.034$

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写真の物理学 ⑨ シャッターの物理学

📐写真の物理学シリーズ ⑨ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 シャッターは露光時間を制御する、それだけの装置に見える。しかし動作原理を物理的に追えば、フラッシュ同調速度の限界、ローリングシャッター歪み、シャッターショックといった現象が、すべてシャッター幕の構造から必然的に生じることが分かる。本記事では、メカニカルシャッターと電子シャッターの動作を幾何学と時間の観点から記述する。 フォーカルプレーンシャッターの構造 現代のミラーレスカメラおよび一眼レフカメラの大多数は、フォーカルプレーンシャッター(focal-plane shutter)を採用している。センサー(またはフィルム)の直前に配置された二枚の遮光幕で露光を制御する方式だ。 二枚の幕は先幕(first curtain)と後幕(second curtain)と呼ばれる。35mm判のカメラでは、金属製のブレードが上下方向(短辺方向)に走行する縦走りフォーカルプレーンシャッターが主流である。走行距離が短辺方向の約24mmで済

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写真の物理学 ㊳ Log収録とシネマカラーサイエンス

📐写真の物理学シリーズ ㊳ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 映画制作の現場では、カメラの出力を「Log」で収録し、「LUT」を通して色を変換する。写真の世界ではRAW現像が当たり前になったが、動画の世界ではLogという独自の符号化体系が発展してきた。本稿では、Log収録がなぜ必要なのかをリニア符号化の物理的限界から説明し、ACES、各社Log曲線、LUT、カラーグレーディングの信号処理までを体系的に導出する。 リニア収録ではシャドーの階調が失われる 光電効果とフォトダイオードで述べたとおり、デジタルセンサーの応答は線形(リニア)だ。光量が2倍になれば出力信号も2倍になる。このリニアな信号をそのままデジタル値に符号化すると、深刻な問題が生じる。 10ビットのリニア符号化(1,024段階)で14ストップのダイナミックレンジ(ダイナミックレンジとビット深度参照)を記録する場合を考える。最も明るい1ストップ(最上位の露光域)は、コード値512から1,023までの512段階を占める。

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写真の物理学 ① 光の直進と薄肉レンズの結像

📐写真の物理学シリーズ ① このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真はすべて、光がレンズを通り抜けて像を結ぶところから始まる。では光はなぜ直進し、なぜレンズで曲がるのか。本稿ではフェルマーの原理から出発し、スネルの法則を経て、薄肉レンズの結像公式 $1/f = 1/a + 1/b$ を第一原理で組み立てる。この式が、以降すべての回の土台になる。 フェルマーの原理 光はなぜ直進するのか。なぜ境界面で折れ曲がるのか。これらの問いに統一的な答えを与えるのが、ピエール・ド・フェルマーが1662年に定式化した最小時間の原理(フェルマーの原理)である。 光は、二点間を結ぶあらゆる経路のうち、所要時間が停留値をとる経路を通る。 「停留値」とは、経路をわずかに変えても所要時間がほとんど変化しない状態を指す。多くの場合これは最小値と一致するため「最小時間の原理」とも呼ばれるが、厳密には極大や鞍点の場合もありうる。本シリーズで扱う範囲では、最小値と考えて差し支えない。 均一な媒質中では光速は一

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写真の物理学 ⑭ センサーサイズとボケの統一的理解

📐写真の物理学シリーズ ⑭ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 「大きいセンサーはボケる」。間違いではないが、この言い方では本質が見えない。本記事では、最終画像上のボケ量をセンサーサイズの関数として一本の式にまとめ、フルサイズからスマートフォンまでの定量比較と、小型センサーが直面する物理的限界を明らかにする。 「同じ写真」の制約条件 二つの異なるセンサーサイズのカメラで「同じ写真」を撮るとは、最終画像の見た目が一致することを意味する。これは以下の制約を同時に満たすことに相当する。 画角の一致。 同じ範囲が写っていなければならない。焦点距離と画角を幾何学で導くで示したように、画角は焦点距離 $f$ とセンサー対角線長 $d_s$ の比 $f / d_s$ で決まるから、画角を揃えるには $$ \frac{f_1}{d_{s,1}} = \frac{f_2}{d_{s,2}} $$ を満たす必要がある。クロップファクター $C

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写真の物理学 ㉟ HDRとトーンマッピングの数学

📐写真の物理学シリーズ ㉟ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 自然界の輝度範囲は20EVを優に超えるが、一般的なSDRディスプレイの表示能力はせいぜい8から10EV程度にすぎない。この根本的なギャップに対処するために、HDR合成からトーンマッピング、PQ曲線やHLGによるHDR表示規格までの技術が発展してきた。本稿ではDebevec-Malikの応答関数推定からReinhardオペレータ、バイラテラルフィルタ分解、ST 2084の知覚的均等量子化までを数学的に導出する。 シーンの輝度分布 写真撮影において「ダイナミックレンジが足りない」場面を具体的に考える。 窓のある室内を撮影するとき、窓の外の輝度は10,000 cd/m²以上に達しうるが、室内の暗い家具は10 cd/m²程度だ。輝度比は1,000:1、すなわち約10EVに及ぶ。逆光で人物を撮る場合、背景の空と顔の影の輝度差は12から15EVに達することもある。 ダイナミックレンジとビット深度で述べたように、現代の高性能な

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写真の物理学 ③ 光と物質の相互作用

📐写真の物理学シリーズ ③ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 光はレンズを透過し、被写体で反射し、大気中で散乱する。写真を撮るという行為は、光と物質の相互作用の結果を記録することにほかならない。本稿では反射・屈折・吸収・散乱・蛍光・干渉を、それぞれの物理法則から整理する。 反射の法則とBRDF 鏡面反射と拡散反射 光が物質の表面に当たると、その一部は反射される。反射の法則は単純で、入射角 $\theta_i$ と反射角 $\theta_r$ が等しいというものである。 $$ \theta_i = \theta_r $$ 鏡やガラスのように滑らかな表面では、この法則どおりに光が一方向へ跳ね返る。これが鏡面反射(specular reflection)である。一方、紙や壁のようにミクロな凹凸を持つ表面では、各微小面がそれぞれ異なる角度で反射するため、光はあらゆる方向へ散らばる。これが拡散反射(diffuse reflection)である。 BRDFの物理的意味

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