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写真の物理学 ㉗ ベイヤー配列とデモザイキングの数学

📐写真の物理学シリーズ ㉗ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 デジタルカメラのセンサーでは、各画素が赤・緑・青のうちたった一色の明るさしか記録していない。完全なカラー画像は、足りない二色を数学的に推定して埋めるデモザイキングによって事後的に生成される。本稿ではベイヤー配列の設計思想から補間アルゴリズムの数学、モアレの発生原理、X-Trans・Foveonなどの代替方式までを扱う。 なぜ一画素で色が分離できないのか 光電効果とフォトダイオードで述べたように、シリコンフォトダイオードは光子を受け取ると電子を放出する。この電子の量が「明るさ」として記録される。ところが、シリコンのフォトダイオード単体では波長を区別できない。赤い光も青い光も、電子を叩き出すという意味では同じだ。波長ごとに吸収効率の差はあるものの、「いま届いた光子が何色だったか」を一つのフォトダイオードだけで判定することはできない。 色を得るには、光がフォトダイオードに届く前にフィルターをかけて、特定の波長帯だけを通す

By Sakashita Yasunobu

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写真の物理学 ㊼ 視覚の知覚心理物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊼ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真は最終的に人間の目で見られるが、人間の眼の光学で記述した視覚系は物理量をそのまま知覚するわけではない。明るさの感じ方は光の強度に比例せず、色は照明が変わっても同じに見え、存在しない明暗の帯がエッジ付近に現れる。本稿では写真の制作と鑑賞に直結する視覚の知覚特性を、コントラスト感度関数から色の恒常性、鑑賞距離と解像度の関係まで体系的に記述する。 コントラスト感度関数 人間の目は、あらゆる細かさの模様を等しく見分けられるわけではない。MTFで読むレンズの解像力で用いた空間周波数の概念を視覚系に適用すると、周波数ごとに知覚感度が異なることがわかる。その関係を記述するのがコントラスト感度関数(Contrast Sensitivity Function, CSF)である。 コントラスト感度とは、コントラスト閾値(模様を背景から弁別できる最小のコントラスト)の逆数だ。空間周波数を横軸、コントラスト感度を縦軸にプロットすると、

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写真の物理学 ㊸ 水中・霧中・宇宙の光

📐写真の物理学シリーズ ㊸ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 光の振る舞いは媒質によって劇的に変わる。空気中で当たり前に成り立つ前提が、水中では屈折と吸収に支配され、霧の中では散乱に飲み込まれ、宇宙空間では散乱する媒質そのものが消える。本稿では水中、霧中、宇宙空間という三つの極端な環境での光の物理を、写真撮影の実務と結びつけながら記述する。 水中での光の屈折 水の屈折率は可視光域で $n \approx 1.333$ である。空気($n \approx 1.000$)から水中に光が入射するとスネルの法則 $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ に従って屈折角が小さくなり、光線は法線方向に曲がる。 この屈折が写真撮影にもたらす影響は二つある。 画角の縮小。 空気中で焦点距離 $f$ のレンズが持つ画角を $2\alpha$ とすると、水中でフラットポート越しに撮影した場合の実効画角はおよそ

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写真の物理学 ⑦ 像倍率の関数的記述

📐写真の物理学シリーズ ⑦ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 レンズが像を結ぶことは分かった。では、被写体はセンサー上でどのくらいの大きさに写るのか。この問いに答える物理量が横倍率 $m$ である。本記事では、結像公式から横倍率を導き、撮影倍率・画角・フォーカスブリージングの物理を一貫して記述する。 横倍率の導出 横倍率(lateral magnification)は、物体の大きさに対する像の大きさの比として定義される。① 光の直進と薄肉レンズの結像で述べた通り、符号付きの定義は $$ m = -\frac{b}{a} $$ だ。負号は、実像が倒立することを反映している。カメラのセンサー上に結ばれるのは常に倒立実像であるから、写真の文脈では $m < 0$ が通常の状態だ。以下では像の大きさの比だけが問題になる場面では、倍率の絶対値 $|m|$ を単に「倍率」と呼ぶ。 結像公式 $1/f = 1/

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写真の物理学 ㊹ ディスプレイの物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊹ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 撮った写真は最終的にディスプレイに表示される。センサーが記録した光の情報はレンズの光学と現像の数学を経てディスプレイという出口を通り人間の目に届くが、その出口の物理を知らなければ色も階調も制御できない。本稿ではLCD・OLED・量子ドットディスプレイの発光原理から色域、ガンマ、カラーマネジメント、鑑賞環境が写真の見え方に与える影響までを体系的に扱う。 加法混色の物理 ディスプレイはすべて加法混色で色を作る。赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの光を重ね合わせることで、任意の色を合成する原理だ。 加法混色の物理的根拠は、人間の網膜に3種類の錐体細胞(L錐体、M錐体、S錐体)が存在し、それぞれが異なる波長帯域に感度を持つことにある。ディスプレイのR/G/Bサブピクセルは、この3種類の錐体をそれぞれ選択的に刺激するように設計されている。 1画素は通常、R/G/Bの3つのサブピクセルで構成される。各サブピクセルの発光強度を

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写真の物理学 ㊻ 人間の眼の光学

📐写真の物理学シリーズ ㊻ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 最も身近なカメラは、あなたの頭の中にある。人間の眼は角膜と水晶体からなる光学系、虹彩による可変絞り、網膜というセンサーを備えた完成度の高い撮像装置だ。本稿ではカメラとの類似だけでなく両者の決定的な違いを明確にすることで、写真の物理学が人間の知覚にどこまで接続できるかを探る。 角膜と水晶体の光学系 人間の眼の光学系は、主に二つの屈折要素で構成されている。角膜と水晶体だ。 角膜は眼球の最前面にある透明な組織で、全屈折力の約3分の2を担う。屈折率は約1.376で、空気(屈折率1.0)との界面で大きな屈折が生じる。残りの約3分の1を水晶体が担う。水晶体の屈折率は中心部で約1.41、周辺部で約1.38と、内部で連続的に変化する勾配屈折率(GRIN: Gradient Index)構造を持つ。この構造は球面収差を自己補正する効果があり、単純な均質レンズよりも優れた結像性能をもたらす。 この二枚のレンズからなる光学系の等価焦点

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写真の物理学 ⑫ ボケの円を関数で記述する

📐写真の物理学シリーズ ⑫ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 合焦面から外れた被写体は、センサー上に点ではなく円として記録される。このボケの円の直径は焦点距離、F値、被写体距離の関数として決まる。本記事では、ボケ円径の厳密式を導出したうえで、口径食や球面収差がもたらす「ボケの質」の物理まで踏み込む。 合焦点と非合焦点の幾何光学的な像の違い 薄肉レンズの結像公式は次のとおりである。 $$ \frac{1}{f} = \frac{1}{d} + \frac{1}{v} $$ ここで $f$ は焦点距離、$d$ は被写体距離(レンズから被写体まで)、$v$ は像距離(レンズからセンサーまで)である。この式を $v$ について解くと、 $$ v = \frac{fd}{d - f} $$ となる。合焦距離 $d_

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写真の物理学 ㉕ 演色性とメタメリズム

📐写真の物理学シリーズ ㉕ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 同じ白いシャツが太陽光では自然に、蛍光灯では青白く、安価なLEDでは黄ばんで見えるのは、光源の分光分布と人間の色覚の構造から物理的に説明できる。光源が物体色に与える影響を定量化する「演色性」と、異なる分光分布が同一の色知覚を生む「メタメリズム」は、いずれもこの構造の帰結である。本稿では、CRI・TM-30による評価体系と、三刺激値の零空間に基づくメタメリズムの数学的定式化を扱う。 演色性の定義 演色性(color rendering)とは、光源が物体の色の見え方に与える影響を表す概念である。より正確には、ある試験光源のもとで物体の色が、基準光源のもとでの色とどれだけ一致するかを評価する尺度だ。 基準光源は以下のように定義される。 * 相関色温度(CCT)が5000K未満の光源に対しては、同じ色温度のプランク放射体(黒体) * CCTが5000K以上の光源に対しては、同じ色温度のCIE昼光 この定義が意味する

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写真の物理学 ㉙ ノイズの物理学

📐写真の物理学シリーズ ㉙ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真のノイズはISO感度やセンサーサイズと結びつけて語られるが、その物理的起源を定量的に理解している人は少ない。ノイズの正体は光の量子性が生むショットノイズ、半導体の熱ゆらぎによる暗電流、読み出し回路の電気的雑音であり、いずれも統計物理の言葉で記述できる。本稿ではこれらのノイズ源を導出し、SNR・ISO感度・センサーサイズとの定量的関係を明らかにする。 ショットノイズ:光の量子性が生むゆらぎ ノイズの中で最も根源的なものが、ショットノイズ(光子ショットノイズ)である。これは光そのものの性質に由来するため、いかなるセンサー技術でも原理的に除去できない。 光は光子(フォトン)という離散的な粒子として検出される。ある露光時間の間にセンサーの1ピクセルに到達する光子の数は、平均値のまわりに統計的なばらつきを持つ。この到着過程はポアソン過程に従う。 ポアソン分布の重要な性質は、分散が平均値に等しいことである。平均光子数を

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写真の物理学 ㉜ フィルム現像の化学と暗室の光学

📐写真の物理学シリーズ ㉜ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 潜像は目に見えない数個の銀原子クラスタにすぎず、これを可視の像へ変換するのが現像液の還元反応である。さらに印画紙上に像を再現するまでには、停止・定着の化学と引き伸ばし機の光学が不可欠となる。本稿では現像液の超加成性からカリエ効果、マルチグレードペーパーの分光制御、アーカイバル処理まで暗室作業を物理と化学で記述する。 現像の化学 還元反応の本質 写真現像とは、潜像核を持つハロゲン化銀結晶だけを選択的に金属銀へ還元する化学操作である。潜像核を持たない結晶は還元されずに残る。この選択性が、露光量の差を光学濃度の差に変換する。 現像主薬(developing agent)は還元剤として機能し、銀イオンに電子を供与する。 $$ \text{Ag}^+ + e^- \to \text{Ag}^0 $$ 一つのAgBr結晶には数十億個の銀イオンが含まれる。潜像核はわずか4個程度の銀原子クラスタだが、これが触媒として機能し

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写真の物理学 ⑮ 回折限界と最適絞りのトレードオフ

📐写真の物理学シリーズ ⑮ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 絞りを絞れば被写界深度は深くなるが、絞りすぎると回折によって像全体のシャープネスが低下する。被写界深度と解像度のどちらを優先するかは、撮影現場で常に直面するトレードオフだ。本記事では、エアリーディスクの物理をフラウンホーファー回折から導出し、被写界深度と回折の競合を最適化問題として定式化して最適絞りを解析的に導く。 幾何光学の限界 絞りと有効口径の物理的意味で導出したように、F値は $F = f/D$ で定義され、絞りを絞ることは有効口径 $D$ を小さくすることに等しい。 幾何光学では光は直線的に進む光線として記述される。この近似のもとでは、絞りを絞るほど光線の収束は改善され、点像は際限なく小さくなるはずだ。しかし現実の光は電磁波であり、開口のサイズが波長に比べて小さくなると、開口端での回折が無視できなくなる。 この転換を見通す量としてフレネル数 $\mathcal{F} = D^2/(4\lambda f)$

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写真の物理学 ㉛ 特性曲線の物理的意味

📐写真の物理学シリーズ ㉛ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 フィルムの応答特性は、露光量の対数と光学濃度の関係を一本の曲線で記述するハーター・ドリフィールド曲線(H&D曲線)に凝縮される。この特性曲線から、感度、コントラスト(ガンマ)、ラチチュード、ダイナミックレンジのすべてが読み取れる。本稿ではH&D曲線の物理的意味を定量化し、現像条件による制御からデジタルトーンカーブとの対応までを導出する。 横軸と縦軸の物理的定義 特性曲線の横軸は 対数露光量 $\log_{10} H$ である。露光量 $H$ は、センサー面(あるいはフィルム面)における照度 $E$(単位:lux)と露光時間 $t$(単位:秒)の積として定義される。 $$ H = E \cdot t \quad

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