写真のしくみ ㉚ RAWとJPEGのちがいを知って「生の写真」を自分で料理しよう

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シリーズ「写真のしくみ」について
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。

カメラの設定画面に「JPEG」と「RAW」という2つの選択肢があるのを見たことはありませんか? JPEGはふだんから目にする画像の形式ですが、RAWはちょっと聞き慣れないかもしれません。「プロっぽい人が使うやつでしょ?」と思っている人もいるでしょう。

実は、この2つのちがいを知ると、カメラの中で何が起きているのかがぐっと見えてきます。そして「自分の写真を自分の好きなように仕上げる」という、写真のいちばん楽しい扉が開きます。今回は、JPEGとRAWのちがいを「料理」にたとえながら、わかりやすく解き明かしていきましょう。

カメラの中で何が起きている?

シャッターを押した瞬間、カメラの中では何が起こっているのでしょう。

レンズを通った光が、カメラの奥にある イメージセンサー にぶつかります。センサーは、ものすごくたくさんの小さな「光のバケツ」が並んだシートのようなものです。ひとつひとつのバケツが「ここにはどれくらいの光が来たか」を数字として記録します。ただし、ひとつのバケツが受け持つのは赤・緑・青のうち どれかひとつだけ です。赤担当、緑担当、青担当のバケツがモザイク状にびっしり並んでいて、隣どうしの情報をうまく組み合わせることで、最終的にフルカラーの画像がつくられます。何百万、何千万というバケツが、それぞれの場所で光の量を測って、膨大な数字の表をつくりあげるのです。

この「膨大な数字の表」こそが、写真のもとになるデータです。

でも、この時点では「写真」にはなっていません。ただの数字の羅列です。ここからどうするかで、JPEG と RAW の運命がわかれます。

JPEGは「おまかせ定食」

JPEGモードで撮影したとき、カメラの中では何が起きるのでしょうか。センサーが集めた膨大な数字を受け取った 画像処理エンジン(カメラの中にいる小さな料理人だと思ってください)が、ものすごいスピードで次の仕事をこなします。

  • ホワイトバランスの調整 ... 白いものがちゃんと白く見えるように、光の色のかたよりを補正する
  • 色の味付け ... 空をもっと鮮やかな青に、肌をより自然な色合いに、といった色づくり
  • シャープネス処理 ... 輪郭をくっきりさせて、パリッとした見た目にする
  • ノイズリダクション ... 暗いところで出やすいザラザラ(ノイズ)を目立たなくする
  • 圧縮 ... ファイルサイズを小さくするために、人間の目に見えにくいと判断した情報をカットする

これらをぜんぶ一瞬でやって、きれいに盛り付けた「完成品」としてメモリーカードに保存します。それがJPEGです。

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JPEGは、お店で出てくる おまかせ定食 みたいなもの。プロの料理人(カメラ)がバランスよく味付けしてくれているから、そのまま食べて(見て)おいしい。でも「やっぱりもう少し塩を減らしたかったな」と思っても、もう味付けは終わってしまっています。

ここで注目してほしいのが、JPEGをつくる過程で起きる データの絞り込み です。

センサーはもともと12ビットや14ビットという深さでデータを記録しているのですが、JPEGにする段階でこれが 8ビット にまで落とされます。8ビットとは、赤・緑・青(RGB)それぞれの明るさを 256段階 で記録するということです。

256段階と聞くと、なかなか多いように感じるかもしれません。確かに、ふつうに撮れた写真をそのまま見るぶんには、256段階でも十分きれいです。でも問題は、あとから写真を大きく調整しようとしたときに起きます。256段階しかない情報を無理に引き伸ばすと、たとえば夕焼けのなめらかなグラデーションが、縞模様のように段々に割れてしまうことがあります。これを トーンジャンプ(バンディング)と呼びます。

さらに、そこへ 非可逆圧縮(ひかぎゃくあっしゅく)がかけられます。「もう元には戻せない圧縮」という意味で、ファイルを小さくするために捨てられた情報は二度と取り戻せません。ビット深度の絞り込みと非可逆圧縮、この二段がまえの工程によって、JPEGはコンパクトだけれど「後戻りしにくい」ファイルになっているのです。

RAWは「市場で買ってきた生の食材」

RAWは英語で「生の」「加工していない」という意味です。その名のとおり、RAWファイルにはセンサーが受け取った光の情報が ほぼそのまま 保存されています。

カメラの中の料理人は、ここではほとんど何もしません。ホワイトバランスの調整も、色の味付けも、シャープネス処理もしません。JPEGのように情報を捨てる非可逆圧縮もかけません(ファイルサイズを抑えるために、情報を失わない「可逆圧縮」を使うことはあります)。センサーが光を受け取って電気信号に変換した、その「生のデータ」をほぼそのまま保存するのです。

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RAWは、市場で買ってきた 新鮮な食材 をそのまま冷蔵庫にしまうようなもの。味付けも調理もしていないから、食べる(見る)ときには自分で料理する必要があります。でもそのぶん、和食にも洋食にも中華にも、好きな味に仕上げられます。

RAWとJPEGのいちばん大きなちがいは、 データの豊かさ です。

多くのカメラのRAWファイルは 12ビット または 14ビット でデータを記録しています。ビット数がちがうとどうなるか、見くらべてみましょう。

  • 8ビット(JPEG) ... 1色あたり 256段階
  • 12ビット(RAW) ... 1色あたり 4,096段階
  • 14ビット(RAW) ... 1色あたり 16,384段階

14ビットのRAWは、JPEGの 64倍 もの段階で明るさや色を記録していることになります。それだけ細かく光の情報を持っているから、あとから明るさを変えても、色を動かしても、グラデーションが崩れにくいのです。夕焼けのなめらかな色の移り変わりも、ちゃんと保たれています。

RAWで撮ると何がうれしいの?

「そんなに段階が多くても、ふつうに撮れた写真なら見た目は変わらないんじゃないの?」

そのとおりです。ちょうどよい明るさ、ちょうどよい色で撮れた写真なら、JPEGでもRAWでも見た目の差はほとんどありません。RAWの強みが本領を発揮するのは、「あとから直したいとき」 です。

具体的な場面を見てみましょう。

暗すぎた写真を明るくしたいとき

JPEGで暗い写真を無理やり明るくすると、暗かった部分にザラザラとしたノイズが浮き出て、色も不自然に崩れやすくなります。256段階しかない情報を無理に引き伸ばしているのですから、当然といえば当然です。RAWなら、もともと持っている情報量が桁ちがいに多いので、暗い部分を持ち上げても、ずっと自然な仕上がりになります。

色がおかしかったのを直したいとき

蛍光灯の下で撮ったら顔が緑がかってしまった。これはよくある失敗です。JPEGでも色味の修正はできますが、カメラがすでに色を「確定」してから圧縮しているため、大きく動かすと不自然になりやすいのです。

RAWは、ホワイトバランスがまだ「確定」されていない状態のデータです。だから、あとから「蛍光灯の下で撮った写真だよ」と現像ソフトに教えてあげるだけで、まるで最初から正しい色で撮ったかのように補正できます。

白飛びしそうな空を救いたいとき

晴れた日に空と地面をいっしょに撮ると、空が真っ白に飛んでしまうことがあります。JPEGでは白く飛んだ部分の値が最大値に張りついてしまっているので、あとから暗くしてもただの灰色になるだけで、雲の模様は戻ってきません。

RAWだと、JPEGでは真っ白にまとめられてしまった領域にも、まだ雲や空のグラデーションの情報が残っていることが多いのです。完全に飛んでしまった部分はさすがに戻せませんが、JPEGよりもずっと広い範囲を「救い出す」ことができます。この作業を ハイライトリカバリー と呼びます。

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RAWの強みは「失敗を取り返せる」だけではありません。最初からちゃんと撮れている写真でも、RAW現像を通すことで「自分の好きな色」「自分の好きな雰囲気」に仕上げることができます。プロの写真家が一枚一枚ていねいに色を追い込む作業は、RAWファイルがあってこそ成り立つのです。

「非破壊編集」ってなんだろう?

RAW現像のもうひとつの大きな特長が、非破壊編集(ひはかいへんしゅう)です。

JPEGを画像編集ソフトで加工して上書き保存すると、元のファイルは消えてしまいます。「やっぱり元に戻したい」と思っても、上書き前のファイルを別に保存していなければ、もうおしまいです。さらに、JPEGは保存するたびに非可逆圧縮がくり返されるので、開いて保存するだけでも画質がじわじわと劣化していきます。

RAW現像ソフトは、仕組みがまるでちがいます。

RAW現像ソフトは、RAWファイルそのものには一切手をつけません。「明るさを+1段にする」「色温度を5500Kにする」といった調整の指示を、「レシピ」としてRAWファイルとは別の場所に保存するのです。RAWファイルは常に撮影した瞬間のまま、手つかずで残り続けます。

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非破壊編集は、図書館の本に直接マーカーを引くのではなく、付箋を貼る ようなものです。付箋をはがせば本はいつでも元どおり。付箋を新しいものに貼り替えれば、何度でもやり直せます。

3年後に「やっぱりもっと夕焼けの赤みを強くしたかったな」と思い立ったら、レシピを書き換えるだけでいいのです。RAWファイルに記録された生のデータは、何年たっても一切劣化しません。写真の「原本」が永遠に手元にある安心感、これが非破壊編集の最大のメリットです。

RAW現像ソフトの世界へようこそ

RAWファイルは、そのままでは「完成した写真」として見ることができません。正確に言うと、カメラがRAWファイルの中に小さな「プレビュー用JPEG」を埋め込んでくれているので、パソコン上でサムネイルとしては表示されます。でも、RAWの本来の力を引き出すには RAW現像ソフト が必要です。

代表的なソフトを見てみましょう。

  • Adobe Lightroom ... 世界でもっとも多くの人に使われているRAW現像ソフトのひとつです。写真の管理(整理・検索)機能がとても充実していて、何万枚もの写真をまとめて扱えるのが強みです。月額課金(サブスクリプション)で利用します。
  • Capture One ... 色の再現性に定評があり、スタジオ撮影でカメラとパソコンをケーブルでつなぐ「テザー撮影」にも強いソフトです。プロフォトグラファーに根強い人気があります。
  • DxO PhotoLab ... レンズごとの光学特性をデータベースにして自動補正する技術が特長です。レンズのゆがみや周辺光量落ちを、科学的な測定データに基づいて正確に直してくれます。
  • darktable ... オープンソース(無料で使える)のRAW現像ソフトです。Windows、macOS、Linuxで動作します。無料ながら機能は豊富です。
  • 各カメラメーカーの純正ソフト ... ニコンの「NX Studio」、キヤノンの「Digital Photo Professional」、ソニーの「Imaging Edge Desktop」など。自社カメラのRAWに最適化されていて、無料で使えるのがうれしいところです。

どのソフトを使っても、基本的にできることの骨格は同じです。明るさ、コントラスト、色温度、色かぶり補正、シャープネス、ノイズ除去などの調整を非破壊で行い、最終的に「これでよし」と決まったら、JPEGやTIFFなどの画像ファイルとして 書き出します。この一連の作業のことを RAW現像 と呼びます。

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「現像」という言葉は、もともとフィルム写真の世界から来ています。撮影済みのフィルムには 潜像(せんぞう)という「まだ目に見えない像」が記録されていて、これを暗室で薬品に浸すことで初めて目に見える写真になりました。同じように、RAWファイルの中にある「まだ目に見える形になっていないデータ」を、ソフトウェアの力で写真に仕上げることを「RAW現像」と呼んでいるのです。デジタルの世界になっても、呼び名にはフィルム時代の名残が息づいています。

RAWの「ちょっと困るところ」

いいことずくめに聞こえるRAWですが、もちろん弱点もあります。知っておかないとあとで困りますから、正直に紹介しておきましょう。

ファイルサイズがとにかく大きい

RAWファイルは、JPEGの 3倍から5倍 くらいのサイズになることが多いです。たとえばJPEGで1枚10MBの写真が、RAWだと30〜50MBになります。高画素のカメラだと、RAW1枚で100MBを超えることも珍しくありません。たくさん撮る人はメモリーカードやハードディスクの容量と相談が必要です。

撮ったあとに「ひと手間」が必要

JPEGはカメラが仕上げてくれた完成品ですから、撮ったらすぐSNSにアップしたりプリントに出したりできます。RAWはそのままでは使えないので、必ずRAW現像ソフトで「料理」してから書き出すという工程がひとつ加わります。

カメラメーカーごとにファイル形式がちがう

RAWファイルの中身の構造は、カメラメーカーによってそれぞれちがいます。ニコンなら「.NEF」、キヤノンなら「.CR3」、ソニーなら「.ARW」、富士フイルムなら「.RAF」といった具合です。新しいカメラが発売されると、RAW現像ソフト側がそのカメラに対応するアップデートを出すまで、現像できないこともあります。

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このメーカーごとにバラバラ問題を解決しようと、アドビは DNG(Digital Negative) というオープンなRAW形式を提唱しています。「どのソフトでも開ける共通のRAW形式をつくろう」という試みで、ライカなど一部のメーカーは最初からDNGで記録できます。ただし、すべてのメーカーが採用しているわけではなく、普及はまだ道半ばです。

JPEGとRAW、どっちで撮ればいい?

「じゃあ全部RAWで撮ればいいんじゃないの?」

それもひとつの正解です。でも、どんな場面でもRAWがベストとは限りません。考え方を整理しておきましょう。

RAWで撮るのがおすすめな場面

  • 大切な写真をじっくり仕上げたいとき(旅行、ポートレート、風景など)
  • 明暗差が大きくて露出判断が難しい場面(逆光、夕暮れ、室内と窓の光がまざる場面など)
  • 色の正確さが求められるとき(商品撮影、作品づくりなど)
  • 「この瞬間は二度とない」と感じたとき

JPEGで十分な場面

  • メモ代わりの記録写真
  • たくさん撮ってすぐ共有したいスナップ
  • メモリーカードの残りが心もとないとき
  • 撮影後にいっさい編集しない場合

多くのカメラには RAW+JPEG同時記録 というモードも用意されています。RAWとJPEGの両方を同時に保存してくれる設定です。容量は食いますが、ふだんはJPEGをさっと使い、「ここぞ」というときだけRAWファイルを開いてじっくり現像する、という使い分けができます。迷ったらこのモードにしておくのも賢い選択です。

この回のまとめ

今回は、JPEGとRAWのちがいを見てきました。ポイントをおさらいしましょう。

  • JPEG は、カメラの画像処理エンジンが色や明るさを調整し、非可逆圧縮して仕上げた「完成品」です。そのまま使えて便利ですが、あとから大きく手を加えるのには向いていません。
  • RAW は、センサーが受け取った光の情報をほぼそのまま保存した「生のデータ」です。自分で現像する手間はかかりますが、そのぶん自由に仕上げられます。
  • RAWが自由に調整できる最大の理由は、ビット深度が深く、情報量が圧倒的に多い からです。14ビットRAWはJPEGの64倍の階調を記録しています。
  • RAW現像ソフトは 非破壊編集 を行います。RAWファイル本体には一切手をつけず、「レシピ」だけを記録するので、何度でもやり直しがききます。
  • RAWには「ファイルサイズが大きい」「現像のひと手間がかかる」「メーカーごとにファイル形式がちがう」という弱点もあります。
  • JPEGとRAWは「どちらが優れているか」ではなく、場面と目的に応じて使い分ける のが賢い選び方です。

写真は「シャッターを押して終わり」ではありません。RAWという選択肢を知ることで、「撮ったあとに自分の手で仕上げる」という楽しみが広がります。料理と同じで、素材がよければよいほど、味付けの自由度も上がるのです。

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