大学生はタイピングを練習しよう
大学の授業でノートパソコンを開いたとき、周囲のキーボードを打つ音が気になったことはないだろうか。隣の席から聞こえる軽快なリズムと、自分の指が一本ずつキーを探す沈黙。その差は才能ではない。練習量の差だ。
フリック入力の達人、キーボードの初心者
スマートフォンでの文字入力には困らない。フリック入力なら一分間に何十文字と打てる。LINEの返信も、検索も、SNSへの投稿も、指先ひとつで済む。しかしキーボードの前に座った途端、その器用さは消える。
これは珍しい話ではない。むしろ、大学に入学してから初めてキーボードをまともに使うという学生は少なくない。名古屋学院大学の児島完二教授による調査では、新入生のタイピングスコア(e-typingによる測定)の平均は104.91ptで、過半数が100を下回っていた。e-typingの基準ではスコア100未満は「練習あるのみ」の水準だ。
つまり、大学生の半数以上は、レポートを書くにも不自由するレベルからスタートしている。
「打てる」と「速い」のあいだ
キーボードを見ながら、人差し指でひとつずつキーを押していく。これでも文字は入力できる。打てないわけではない。しかし、この方法で3000字のレポートを書くと途方もない時間がかかる。
タッチタイピングとは、キーボードを見ずに、すべての指を使って入力する技術だ。ホームポジションと呼ばれる基本の指の配置を起点にして、各指が担当するキーを打ち分ける。
タッチタイピングができるかどうかで、入力速度は数倍変わる。しかしそれ以上に大きいのは、考えながら打てるようになることだ。キーの位置を目で探す必要がなくなれば、視線は画面に集中できる。頭の中で組み立てた文章を、考えたそばから文字にできる。タイピング速度が話すスピードに近づくと、パソコンは単なる清書の道具ではなく、思考の延長として機能し始める。
レポート、メール、議事録、プログラミング。大学生活でキーボードを使う場面は多い。そのすべてにおいて、タイピング速度は作業時間に直結する。
毎日10分で変わる
タッチタイピングの習得にかかる時間は、一般的に1〜3ヶ月とされている。ただし、これは毎日継続して練習した場合の話だ。
重要なのは、長時間の練習ではなく、短時間の継続だ。1日10分でも、毎日キーボードに触れることで、指がキーの位置を覚えていく。逆に、週末にまとめて1時間練習して平日は何もしない、という方法では定着しにくい。指の動きは反復によって身体に刻まれる。一日にまとめて詰め込むより、毎日少しずつ繰り返すほうが確実だ。
練習のポイントは三つある。
正確さを最優先する。 速さはあとからついてくる。最初から速く打とうとすると、間違ったキーを間違った指で押す癖がつく。一度ついた癖を直すのは、ゼロから覚えるより難しい。ゆっくりでいいから、正しい指で正しいキーを押す。それだけを意識する。
ホームポジションを守る。 左手の人差し指をFキー、右手の人差し指をJキーに置く。この位置を起点に、各指が担当する範囲のキーを打つ。FとJにはほとんどのキーボードに小さな突起がついていて、指先の感触だけで位置を確認できるようになっている。打ち終わったら必ずこの位置に指を戻す。
短い文から始める。 いきなり長文に挑戦すると疲れるし、挫折しやすい。まずは単語、次に短文、徐々に長文へ。段階を踏むことで、無理なく上達できる。
おすすめの練習サイト
タイピング練習に使える無料のウェブサイトを三つ紹介する。いずれもブラウザだけで使えるので、アプリのインストールは不要だ。
寿司打
寿司打(sushida.net)は、回転寿司の皿が流れていく前に、表示された文章を打つゲーム形式の練習サイトだ。3000円、5000円、10000円の3コースがあり、正確に多く打つほど「お得」になる。ゲーム感覚で楽しめるため、毎日の練習を習慣にしやすい。日本語のローマ字入力に特化している。
大学生活でストレスなくタイピングをこなすには、普通モードの5000円コースで安定してプラスが出るあたりが目安になる。
e-typing
e-typing(e-typing.ne.jp)は、イータイピング株式会社が運営する定番のタイピング練習サイトだ。「腕試しレベルチェック」でスコアとランクが表示されるため、自分の現在地を把握しやすい。苦手なキーの分析機能もあり、弱点を集中的に鍛えられる。
会員登録(無料)をすればスコアの記録も残せるので、日々の上達を数字で追える。日本語、英語の両方に対応している。タイピング技能検定の模擬試験も受けられるため、資格取得を目指す人にも向いている。
Monkeytype
Monkeytype(monkeytype.com)は、ミニマルなデザインが特徴のタイピングテストサイトだ。テスト時間、使用する単語セット、表示テーマなど、カスタマイズ性が非常に高い。英語入力がメインだが、プログラミングに必要な英数字や記号の入力練習にはうってつけだ。WPM(Words Per Minute、1分あたりの入力単語数)でスコアが表示される。
最初は寿司打やe-typingで日本語のタイピングに慣れ、ある程度打てるようになったらMonkeytypeで英数字の練習に移るとよい。
プログラミングと記号キー
プログラミングをする場合、タイピング速度の重要性はさらに増す。コードは英数字と記号の塊だ。
セミコロン ;、波括弧 { }、角括弧 [ ]、丸括弧 ( )、等号 =、アンダースコア _、パイプ |。日本語の文章ではほとんど使わないこれらの記号を、プログラミングでは絶え間なく打ち続ける。記号キーの位置を指が覚えているかどうかで、コーディングの速度は大きく変わる。
日本語入力が速くても、コードを書くと手が止まる。そういう経験は珍しくない。プログラミングを学ぶ予定があるなら、英数字と記号の入力も意識的に練習しておくべきだ。Monkeytypeにはプログラミング用の単語セットも用意されている。
また、プログラミングでは日本語配列よりも英語配列のキーボードが使いやすいと感じる人も多い。記号キーの配置が直感的で、シフトキーとの組み合わせも覚えやすいからだ。キーボード選びについては深入りしないが、将来的にプログラミングを本格的にやるなら、英語配列を試してみる価値はある。
数字で見える上達
タイピングの速度と正確さは、練習するたびに数値として目に見える。e-typingのスコア、寿司打のお得額、MonkeytypeのWPM。昨日より今日、先週より今週、着実に数字が伸びていく。
学びの成果を数字で捉えることの難しさは、教育のあらゆる場面に潜んでいる。しかしタイピングは違う。努力がそのまま数字に反映される、数少ないスキルのひとつだ。練習した分だけ速くなり、速くなった分だけ楽になる。だからこそ、続けやすい。
まとめ
タイピングは地味なスキルだ。華やかさはない。しかし、大学生活のあらゆる場面で使い続ける基礎技術であり、就職後も一生ものだ。
やるべきことはシンプルだ。毎日10分、正しい指で、正しいキーを、画面だけを見ながら打つ。それを1ヶ月続ける。それだけで、キーボードとの関係が変わる。
今日から始めれば、来月にはもう別人だ。