ストロボの発光管はなぜ変色するのか
ストロボの発光管やカバーガラスは、使用するうちに黄ばみや黒ずみが生じる。これらは表面の汚れではなく、ガラスや電極の構造的な変質によるものであり、清掃では除去できない。本記事ではその原因と対策を解説する。
発光管の素材:石英ガラス(溶融シリカ)
ストロボの発光管には、石英ガラス(溶融シリカ, fused silica)が用いられる。石英ガラスは軟化点が約1,600°C以上と高く、高温・高エネルギーの放電環境に耐えられる。一般的な窓ガラスに用いられるソーダ石灰ガラスの軟化点は約720°Cであり、発光管の素材としては耐熱性が不足する。
石英ガラスは紫外域の透過率が高いという特性を持つ。この特性は用途上は有利だが、後述するように劣化の要因にもなる。
変色(黄変・褐変)の原因:ソラリゼーション
発光管の変色の主な原因は、ソラリゼーション(solarization)と呼ばれる現象である。
キセノンの放電は可視光だけでなく、UV-C(波長200nm以下)を含む強い紫外線を放射する。UV-Cの光子エネルギーは約6eV以上であり、SiO₂のSi-O結合エネルギー(約4.5eV)を上回る。この高エネルギー紫外線が石英ガラスのSiO₂ネットワーク中に照射されると、結合の切断や原子配置の乱れが生じ、格子欠陥(点欠陥)が形成される。
この欠陥の一種がカラーセンター(色中心)である。カラーセンターは特定波長の可視光を吸収する性質を持ち、ガラス中の微量不純物(鉄、アルミニウム、ゲルマニウムなど)の組成によって、褐色から紫色まで変色の色調が異なる。写真用ストロボの場合、黄色から褐色の変色として観察されることが多い。
ソラリゼーションはガラスの分子構造レベルの損傷であり、表面を研磨しても除去できない。
一般的なガラスが同様の劣化を起こさない理由
- 大気がUV-Cを吸収するため、地上の日常環境ではガラスにUV-Cが到達しない
- ソーダ石灰ガラスには鉄などの添加物が含まれており、紫外線を吸収する
- 日常環境では、発光管のように至近距離から高エネルギー紫外線を繰り返し受けることがない
黒ずみの原因:電極スパッタリング
発光管内壁の黒ずみは、電極スパッタリングによるものである。
発光管の両端にはタングステン電極が設置されている。放電時、電極付近には数千K以上の高温プラズマが形成される。この環境で電極表面のタングステンが蒸発・飛散し、管壁の内面に蒸着する。これがタングステンの薄膜となり、黒ずみとして観察される。
スパッタリングは高出力で使用するほど進行が早い。業務用ストロボでは発光管に交換サイクル(数万発程度)が設定されているのはこのためである。蒸着は管壁の内面に生じるため、外側からの清掃では除去できない。
カバーガラスの変色
発光管の前面に設置される保護ガラス(カバーガラス)も使用に伴い変色する。主な原因は以下のとおりである。
- ソラリゼーション: 発光管から放射される紫外線により、発光管本体と同様のカラーセンターが保護ガラス内部にも生成される。
- オゾンによる表面酸化: 紫外線が空気中のO₂を分解し、O₃(オゾン)を生成する。オゾンは強力な酸化剤であり、ガラス表面の微量不純物と反応して表面の変質に寄与する場合がある。
なぜ清掃では除去できないか
発光管・カバーガラスに見られる変色の大半は、ガラス内部の構造変化(ソラリゼーション)や管壁内面への金属蒸着(スパッタリング)によるものである。これらは表面の付着物ではないため、外面の清掃では除去できない。
- 埃や油脂などの表面付着物 → 清掃で除去可能
- ソラリゼーション(ガラス内部の格子欠陥) → 除去不可能
- スパッタリング(管壁内面のタングステン蒸着膜) → 除去不可能
対策
- UV吸収コーティング付きの保護ガラスを使用する。 カバーガラスのソラリゼーションを軽減できる。
- 発光回数を管理し、寿命前に発光管を交換する。 出力低下や色温度の変化が許容範囲を超える前に交換することで撮影品質を維持できる。
- 発光管が交換可能な機種を選ぶ。 業務用ストロボの多くは発光管の交換に対応している。
- 耐ソラリゼーション性の高い素材を採用した機種を選ぶ。 上位機種ではドープ石英(不純物を意図的に添加した石英ガラス)など、紫外線耐性の高い素材が使用されている場合がある。