写真のしくみ ㉑ 朝日と蛍光灯の色がちがう理由は「色温度」にあった
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。
朝、カーテンを開けると、部屋に差し込む太陽の光はうっすらオレンジ色をしています。同じ日の昼間に外に出ると、太陽の光はまぶしいくらいに白い。夜になって部屋の蛍光灯をつけると、今度はなんだか青白い。
同じ「白い光」のはずなのに、色がちがう。いったいどういうことでしょう?
この回では、光の色のちがいを「温度」で表す 色温度 という考え方と、カメラがそのちがいにどう対処しているかを見ていきます。
そもそも「白い光」って本当に白いの?
私たちの目はとても賢くできています。白い紙を朝日の下で見ても、蛍光灯の下で見ても、「白い紙だな」と感じる。でも実は、朝日に照らされた白い紙はオレンジがかっているし、蛍光灯の下の白い紙は少し青みがかっています。
ためしに、夕方の部屋で蛍光灯をつけて窓の外を見てみてください。窓の外の夕日に照らされた景色はオレンジ色なのに、部屋の中は青白い。同じ「白い光」が、場所によってまるでちがう色をしています。
人間の脳はこのちがいを自動で補正してくれるので、ふだんはあまり気になりません。でもカメラのセンサーは、光の色をそのまま正直に記録します。だからカメラにとって、光の色のちがいは大問題なんです。
光源によって色がちがう理由
なぜ光源によって色がちがうのでしょうか。これを理解するには、光の正体を少し思い出してみましょう。
光は電磁波の一種で、波長によって色が決まります。赤い光は波長が長く、青い光は波長が短い。そして私たちが「白い光」と呼んでいるものは、いろいろな波長の光がまんべんなく混ざったものです。
ところが、光源によって「どの波長の光をどれくらい出すか」のバランスがちがいます。
昼間の太陽は、さまざまな波長の光をバランスよく放っています。だから白く見える。でも朝日や夕日はどうでしょう。太陽の位置が低いとき、光は大気の中をななめに、長い距離を通ってきます。すると波長の短い青い光は空気の分子にぶつかって四方八方に散らばってしまい(これが空が青い理由です)、波長の長い赤やオレンジの光だけが私たちの目に届く。だから朝日や夕日はオレンジに見えるわけです。
蛍光灯やLEDはそもそも光を出すしくみが太陽とはまったくちがいます。含まれる波長のバランスも独特で、昼光色タイプの蛍光灯は青みがかった白い光を出します。ものすごくざっくり言えば、光源ごとに「光のレシピ」がちがうということです。
「色温度」という発想
光の色がそれぞれちがうのはわかりました。では、そのちがいをどうやって数字で表せばいいでしょう?
「赤っぽい」、「青っぽい」では曖昧すぎます。もっと正確に、だれが言っても同じ意味になるような数字がほしい。
そこで登場するのが 色温度 という考え方です。単位は ケルビン(K) を使います。
「え、温度? 光の色の話なのに、なぜ温度?」と思うかもしれません。じつはこれには、とてもおもしろい理由があるんです。
鉄を焼いてみよう
鍛冶屋さんが鉄を炉で熱しているところを想像してみてください。
鉄を少しずつ熱していくと、はじめは暗い赤色に光りだします。もっと温度を上げると明るいオレンジ色になり、さらに熱すると黄色っぽい白になり、もっともっと熱すると青白く輝く。
暗い赤 → オレンジ → 黄白 → 白 → 青白
温度が上がるにつれて、光の色が順番に変わっていきます。これは鉄に限った現象ではありません。熱せられた物体が光を放つとき、温度が高くなるほど赤から青白い方向へ色が移っていくのは、自然界に広く見られる性質です。
物理学では、光を完全に吸収し、温度に応じた光だけを放つ理想的な物体を 黒体(こくたい) と呼びます。そして黒体が温度に応じて出す光のことを 黒体放射 といいます。
色温度とは、「この光の色は、黒体を何度まで熱したときの色と同じか?」という問いの答えです。つまり、光の色を「温度」に置き換えて表現する。これが色温度の正体です。
黒体が出す光のスペクトル(波長ごとの強さの分布)は、物理学の「プランクの法則」で完全に記述されます。温度が上がると、光のエネルギーがもっとも強い波長が短いほうへずれていきます。これを「ウィーンの変位則」といいます。たとえば太陽の表面温度(約 5,800 K)では、エネルギーのピークが約 500 nm 付近、つまり緑から黄色あたりの可視光の波長にあります。色温度とは、この黒体のスペクトルを基準にして、光の色を「逆引き」する方法なのです。
ちょっと待って、青いほうが温度が「高い」?
ここで「あれ?」と思った人は鋭い。
ふだんの感覚では、赤は「暖色」で青は「寒色」です。赤いほうが熱そうで、青いほうが冷たそうに感じますよね。でも色温度の世界では 逆 で、青白い光のほうが数字が大きい、つまり温度が高い んです。
これは、色温度が「見た目の暖かさ」ではなく「物体を実際に何度まで熱したらその色になるか」を表しているからです。
さっき鉄を熱したとき、温度が上がるにつれて赤から青白へと色が変わっていきました。星の世界でもまったく同じことが起きています。表面温度が低い星は赤っぽく、表面温度が高い星は青白く輝く。冬の夜空に見えるオリオン座のベテルギウスは赤い星(表面温度 約 3,500 K)、リゲルは青白い星(表面温度 約 12,000 K)です。
はじめは少し混乱するかもしれませんが、こう覚えましょう。
色温度の数字が小さい = 赤っぽい光
色温度の数字が大きい = 青っぽい光
身のまわりの光の色温度
では、身のまわりの光源はどれくらいの色温度なのでしょうか。いくつか見てみましょう。
- ろうそくの炎 … 約 1,900 K。オレンジがかった、あたたかい光です。
- 白熱電球 … 約 2,700 K。ろうそくよりは白いですが、まだオレンジ寄りです。
- 朝日・夕日 … 約 2,000〜3,000 K。空の状態によって幅があります。
- 昼間の太陽光(直射) … 約 5,000〜5,500 K。いちばん「白」に近い光です。
- くもりの日の光 … 約 6,000〜6,500 K。少し青みがかっています。
- 日陰 … 約 7,000〜8,000 K。青空からの散乱光が多いため、かなり青い光です。
- 晴天の青空(光源としての空そのもの) … 10,000 K 以上になることもあります。
「くもりの日のほうが晴れの日より色温度が高いの?」と意外に思うかもしれません。くもりの日は太陽の直射光が雲でさえぎられ、空全体からの散乱光(青みのある光)が支配的になるから、色温度が上がるんです。日陰が青っぽく見えるのも同じ理由で、直射日光が届かない代わりに、青空からの青い散乱光に照らされるからです。
カメラは「白」を知らない
さて、ここからはカメラの話に入りましょう。
さっき書いたとおり、人間の目と脳はとても賢くて、どんな光の下でも白いものをちゃんと「白い」と認識できます。蛍光灯の下でもろうそくの下でも、白い紙は白い紙だとわかる。
でもカメラはそうはいきません。
カメラのイメージセンサーは、レンズを通って入ってきた光の色をそのまま記録する装置です。白熱電球の下で白い紙を撮れば、オレンジがかった紙が写る。蛍光灯の下で撮れば、青みがかった紙が写る。カメラには「これは白い紙のはずだから色を補正しよう」と自力で判断する能力がありません。
そこで必要になるのが ホワイトバランス(White Balance) という機能です。略して WB と書きます。
ホワイトバランスのしくみ
ホワイトバランスとは、ひとことで言えば 「いま写っている光の色かぶりを補正して、白を白く写す機能」 です。
考え方はシンプルです。カメラに「いまの光の色温度はこれくらいだよ」と教えてあげる。するとカメラがその色温度にもとづいて、画像全体の色の偏りを打ち消してくれます。
たとえば、白熱電球の下(約 2,700 K、オレンジっぽい光)で撮影するとしましょう。ホワイトバランスを「白熱電球」に設定すると、カメラは「光がオレンジに偏っているから、画像全体からオレンジ成分を少し引こう」と補正します。結果、白い紙がちゃんと白く写ります。
逆に、くもりの日(約 6,500 K、青みがかった光)なら、ホワイトバランスを「くもり」に設定すると、カメラは青みを打ち消すために画像をすこし暖色方向にずらします。やっぱり白い紙は白く写る。
つまりホワイトバランスとは、 「いまの光がどれくらい偏っているかをカメラに教えて、偏りをゼロに戻す」 作業なんです。
オートホワイトバランスの便利さと落とし穴
光源が変わるたびにいちいちホワイトバランスを設定するのは面倒です。そこで、いまのカメラにはほぼすべて オートホワイトバランス(AWB) という機能がついています。カメラが画像を分析して「いまの光はだいたいこの色温度だな」と自動で判断し、補正してくれます。
スナップ写真や日常の撮影なら、たいていの場面でAWBはよく働きます。光源が変わってもカメラが勝手に追従してくれるので、撮る側は何も考えなくて大丈夫です。
でも、AWBには弱点があります。
いちばんわかりやすい例が 夕焼け です。空が真っ赤に染まった、あの感動的な光景を写真に残したい。ところがAWBは優秀すぎるがゆえに、「光がオレンジに偏っている。補正しなくては」と判断してしまいます。せっかくの夕焼けのオレンジ色をわざわざ薄めて、白っぽくしてしまうことがあるんです。目で見たあの燃えるような空が、写真では妙にあっさりした色になってしまう。
これはAWBの失敗というより、AWBの正しい動作の結果です。AWBの仕事は「白を白くすること」であって、「美しい夕焼けを美しく写すこと」ではありません。白い壁が夕日に照らされてオレンジになっていたら、AWBはそれを白に戻そうとする。意図としては正しいけれど、写真としては台無しです。
また、ひとつの場面に蛍光灯の光と窓からの太陽光が混ざっているような「ミックス光」の環境では、AWBがどちらに合わせていいか迷って、中途半端な色になることもあります。
こういうときは、ホワイトバランスを自分で指定してあげるとうまくいきます。夕焼けを撮るなら「太陽光」や「くもり」に設定を固定すると、AWBのような余計な補正がかからず、目で見たとおりの赤やオレンジがそのまま写真に残ります。
ホワイトバランスで「うそ」をつく
ホワイトバランスにはもうひとつ、おもしろい使い方があります。
わざと実際とちがう設定にして、写真の色味を変える んです。
たとえば、昼間の太陽光の下(約 5,500 K)で撮影しているのに、ホワイトバランスを「くもり」(約 6,500 K)に設定してみます。カメラは「いまの光は 6,500 K で青っぽいはずだ」と思い込んで、青みを打ち消そうと写真全体を暖色方向に補正する。でも実際には光は 5,500 K で、そこまで青くない。結果、写真全体がほんのり暖かい、オレンジがかった色味になります。なんだか午後のやわらかい光の中にいるような雰囲気です。
逆に、ホワイトバランスを「白熱電球」(約 3,000 K)に設定すれば、カメラは「光がオレンジに偏っているはずだ」と思い込んで青方向に補正します。実際にはオレンジに偏っていないので、写真が青っぽく、クールな印象になります。
このテクニックは、フィルムカメラの時代にレンズの前に色フィルターをつけて色味を変えていたことに近いです。デジタルカメラでは、ホワイトバランスの数字をいじるだけで同じことができます。
ちなみに、RAWデータで撮影していれば、ホワイトバランスは撮影後にパソコンの現像ソフトで自由に変更できます。だからRAW撮影なら「とりあえずAWBで撮っておいて、あとからじっくり色を決める」という進め方も可能です。一方、JPEGで撮影した場合は、カメラの中で色が確定してしまうので、撮影時の設定が大切になります。
カメラやスマートフォンのマニュアルモードで、ホワイトバランスの設定を変えて同じ被写体を撮り比べてみましょう。「太陽光」「くもり」「白熱電球」「蛍光灯」など、設定を切り替えるたびに写真の色味がガラリと変わるはずです。どの設定が「正しい」かではなく、どの色味が好きかを探してみると、色温度の意味が体で理解できます。
色温度はあくまで「白い光」の指標
最後にひとつ、大事な補足をしておきましょう。
色温度で表せるのは、あくまで 白っぽい光の色味のちがい です。赤いネオン管や緑のLEDイルミネーションの色を「色温度 ○○ K」とは言いません。色温度は黒体放射に基づく尺度なので、黒体放射の軌跡から大きく外れた色の光には使えないんです。
さらにもうひとつ。同じ色温度でも、光の中身が同じとは限りません。たとえば、色温度 5,000 K の蛍光灯と色温度 5,000 K の太陽光は、色温度の数値こそ同じですが、光に含まれる波長の内訳(スペクトル)はまったくちがいます。この「光の中身のちがい」は 演色性 という別の指標で評価するのですが、その話はまた別の機会にゆずりましょう。
この回のまとめ
今回は、光の色を「温度」で表す色温度の考え方と、カメラがその色のちがいにどう向き合っているかを見てきました。ポイントをふり返りましょう。
- 光源によって光の色はちがいます。 朝日はオレンジ、昼の太陽は白、くもりの日や日陰は青っぽいなど、「白い光」にもいろいろな色があります。
- 色温度は、光の色味を温度(ケルビン、K)で表す指標です。「黒体という理想的な物体を何度まで熱したら、その色の光になるか」で定義されています。
- 色温度の数字が小さいほど赤っぽく、大きいほど青っぽい光です。ろうそくは約 1,900 K、日陰は約 7,000〜8,000 K。赤が暖色、青が寒色という日常の感覚とは逆なので注意です。
- 人間の目は脳が自動で補正しますが、カメラはそのまま記録します。だから光の色のちがいがそのまま写真に出てしまいます。
- ホワイトバランス(WB)は、色の偏りを打ち消す機能です。光源の色温度に合わせて補正し、白いものを白く写します。
- オートホワイトバランス(AWB)は便利ですが万能ではありません。夕焼けの赤みを薄めたり、ミックス光で迷ったりすることがあります。そんなときは手動で設定しましょう。
- ホワイトバランスをわざと実際とちがう値に設定して色味を変える表現もできます。暖かくしたり冷たくしたり、RAW撮影ならあとからの変更も自由自在です。
色温度を知ると、「いま自分がどんな色の光の中にいるのか」に気づけるようになります。朝のオレンジ、昼の白、日陰の青。光の色は絶えず変わっていて、カメラはそのちがいにとても敏感です。ホワイトバランスという道具の意味がわかれば、光の色は「困りごと」ではなく「表現の材料」に変わります。