写真のしくみ ③ 虹が7色に分かれる理由と目に見えない光の正体
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。
太陽の光は何色でしょうか。「白」、あるいは「とくに色はついていない」と答える人がほとんどだと思います。ところが、その白い光の中には、赤から紫まで虹のすべての色がこっそり隠れています。それだけではありません。人間の目には絶対に見えない「光」さえ存在するのです。
今回は、光の「色」の正体をさぐり、虹がなぜあんなにきれいに色分かれするのかを解き明かしていきます。そして最後には、目に見えない光の世界にも足を踏み入れてみましょう。
白い光をプリズムで分解する
文房具屋やインテリアショップで、三角柱の形をした透明なガラスを見たことはありませんか。あれをプリズムといいます。
このプリズムを窓辺に持っていって、太陽の光を通してみましょう。すると、壁や床の上に、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫と並んだ色の帯がふわっと現れます。白かったはずの光が、色とりどりに分かれたのです。
ニュートンはさらに大事なことを確かめています。プリズムで分かれた色の光を、もう1つのプリズムで集め直すと、ふたたび白い光に戻ったのです。これが意味するのはこういうことです。
白い光は「1つの色」ではない。たくさんの色の光が混ざり合ってできている。
プリズムは、その「混ざり」をほどいて、色ごとにバラバラにしてくれる道具なのです。
虹が色分かれするしくみ
なぜプリズムで色が分かれるのか
光は、空気中からガラスや水の中に入るとき、進む方向が曲がります。これを屈折(くっせつ)といいます。
ここで決定的に大事な事実があります。光の色によって、曲がる角度がわずかにちがうのです。紫の光はたくさん曲がり、赤い光はあまり曲がりません。このちがいはとても小さいのですが、プリズムの中を通過するあいだに差が広がっていき、出てくるころには色がきれいに分かれて見えます。
こうした、色ごとに屈折の度合いがちがう現象のことを分散(ぶんさん)といいます。
雨粒は自然のプリズム
雨上がりの空にかかる虹は、まさにこの分散が自然の中で起こっている姿です。
空気中に浮かぶ無数の水滴が、ひとつひとつ小さなプリズムの役割を果たしています。太陽の光が水滴に入るとき屈折し、水滴の内側の壁で反射し、水滴から出るときにもういちど屈折します。この2回の屈折のたびに色ごとの曲がり方がわずかにずれるので、最終的に色が分かれて目に届きます。
赤い光はおよそ42度の角度で観察者の目に届き、紫の光はおよそ40度の角度で届きます。わずか2度ほどのちがいですが、遠くの空では大きな弧になって現れます。虹の外側が赤で、内側が紫になるのは、この角度のちがいによるものです。
「7色」は誰が決めた?
ところで、「虹は7色」とよく言われますが、実際に虹を見てみると、色と色の境目はあいまいで、はっきり7つに分かれているわけではありません。赤から紫まで、色は途切れることなく連続的に変わっていきます。つまりグラデーションです。
では、なぜ「7色」と言うのでしょうか。
じつは、7色と決めたのもニュートンです。ニュートンは音楽の音階が「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の7つであることに着目し、光のスペクトルも7つに区切りました。赤(Red)、橙(Orange)、黄(Yellow)、緑(Green)、青(Blue)、藍(Indigo)、紫(Violet)の7色がそれにあたります。
つまり「7色」は自然がそう分けているのではなく、ニュートンが音楽との類比で便宜的に決めた区切り方です。実際、国や文化によって虹を何色とするかは異なります。英語圏では藍を省いて6色とする見方が一般的ですし、文化によっては5色、3色、2色とする場合もあります。
ただし大事なのは、数え方が変わっても、光が色ごとにちがう角度で屈折するという物理現象そのものは、世界中どこでも変わらないということです。
色のちがいの正体は「波長」
ところで、「赤い光」と「紫の光」はいったい何がちがうのでしょうか。
光は波の性質を持っています。海の波を想像してみてください。波には「山」と「谷」がくりかえし現れます。ある山から次の山までの距離のことを波長(はちょう)といいます。
光の色のちがいは、この波長のちがいです。
- 赤い光は波長が長い(およそ700ナノメートル)
- 紫の光は波長が短い(およそ400ナノメートル)
「ナノメートル」(nm)は、1ミリメートルの100万分の1という、とてつもなく小さな長さの単位です。たとえば、髪の毛1本の太さがおよそ80,000nmですから、光の波長がどれほど短いか想像できるでしょう。
人間の目が感じ取れる光の波長は、だいたい380nmから780nmのあいだとされています。この範囲の光を可視光(かしこう)といいます。文字どおり「目で見ることができる光」です。赤から紫へ波長が短くなるにつれて、橙、黄、緑、青、藍と連続的に色が移り変わっていきます。虹で見えているのは、まさにこの可視光が波長の順にきれいに並んだ姿なのです。
そして、波長が短いほど屈折で大きく曲がるという性質があるからこそ、プリズムや雨粒で色がきちんと順番どおりに並びます。色のちがい、屈折のちがい、波長のちがい。この3つはぜんぶつながっています。
目に見えない「光」がある
赤の外側で見つかったもの
可視光の端から端までは380nmから780nmほどです。では、その外側には何もないのでしょうか。
答えは「いいえ」。外側にも光はあります。しかも、大量に。
1800年、ドイツ生まれでイギリスに渡った天文学者ウィリアム・ハーシェルは、ある実験を行いました。プリズムで太陽光をスペクトルに分け、それぞれの色の位置に温度計を置いて、どの色がいちばんあたたかいかを調べたのです。
結果は意外なものでした。温度がいちばん高かったのは、赤い光の位置ではなく、赤い光のさらに外側、目には何も見えない場所だったのです。
目に見えないけれど、たしかに「何か」がそこにある。これが赤外線(せきがいせん)の発見です。英語では infrared。ラテン語で「下」を意味する infra と red(赤)を合わせた言葉で、スペクトル上で赤のさらに先にある光を指します。
紫の外側でも見つかった
翌年の1801年、今度はドイツの物理学者ヨハン・ヴィルヘルム・リッターがスペクトルの反対側に注目しました。
塩化銀という物質は、光に当たると黒く変色する性質があります。リッターがスペクトルの各位置に塩化銀を置いたところ、紫の光のさらに外側でもっとも強く変色が起きました。
これが紫外線(しがいせん)の発見です。英語では ultraviolet、「紫の向こう」という意味です。
赤外線も紫外線も、光としての正体はふつうの可視光とまったく同じです。ただ波長がちがうだけ。人間の目のセンサーが反応できる範囲から外れているから「見えない」にすぎません。
光の大家族「電磁波」
赤外線、可視光、紫外線。これらは波長がちがうだけで、すべて同じ種類の波です。この波のことを電磁波(でんじは)といいます。
電磁波の仲間は、可視光の近くだけにいるわけではありません。波長をうんと広い範囲で見渡すと、驚くほど多彩な顔ぶれがそろっています。波長の長い順に並べてみましょう。
- 電波(ラジオ波) : テレビ、ラジオ、スマートフォンの通信に使われています。波長は数センチメートルから数キロメートルにもなります。
- マイクロ波 : 電子レンジで食べ物をあたためるのがこれです。Wi-Fiの信号にも使われています。
- 赤外線 : リモコンの信号や、こたつのぬくもり。私たちの体からも出ています。
- 可視光 : 人間の目に見える唯一の電磁波です。太陽光、LEDの光、ろうそくの炎がこれにあたります。
- 紫外線 : 日焼けの原因です。殺菌灯にも利用されています。
- X線(エックス線) : 病院で骨を撮るレントゲン写真に使われています。
- ガンマ線 : 原子核の反応で放出されます。医療ではがん治療に利用されることもあります。
ラジオの電波も、レントゲンのX線も、空にかかる虹の光も、ぜんぶ電磁波という同じ仲間です。ちがうのは波長だけ。それなのに、波長が変わると性質がまるっきり変わってしまいます。
カメラが写す「光」と写さない「光」
センサーは目より広い範囲が見えている
さて、ここからは写真の話に入りましょう。
デジタルカメラの中には、光を電気信号に変換するセンサー(撮像素子)が入っています。フィルムの代わりに光を記録する部品です。
このセンサーの材料に使われるシリコン(ケイ素)は、じつは人間の目よりも広い波長域に反応できます。一般的なCCDやCMOSセンサーは、およそ350nmから1050nmくらいまでの光を感じ取る能力を持っています。これは紫外線の一部から近赤外線の領域までをカバーする、かなり広い範囲です。
つまり、素のままのシリコンセンサーは、人間には見えない赤外線まで「見えて」しまうのです。
赤外線をブロックする仕組み
もしセンサーが赤外線までそのまま記録してしまうと、写真の色がおかしくなります。目で見ている色と写真の色がずれてしまうのです。
そこで、ほぼすべてのデジタルカメラには、センサーの手前にIRカットフィルター(赤外線カットフィルター)という薄い光学部品が組み込まれています。この部品が赤外線をさえぎり、人間の目に見える可視光だけをセンサーに届けてくれます。
こうした仕組みのおかげで、ふだん私たちが撮る写真は、目で見た色とほぼ同じ色に仕上がるのです。
見えない光で写真を撮ると
一方で、あえてIRカットフィルターを取り外す改造をしたカメラを使うと、赤外線写真を撮ることができます。
赤外線写真の世界は独特です。木の葉が雪のように白く輝き、青空はどっしりと暗く沈みます。人間の目では絶対に見られない、幻想的な風景が広がります。これは葉が赤外線を強く反射する性質を持ち、大気による光の散乱のされ方が可視光と異なるためです。
天文学の分野でも、赤外線や紫外線、X線を使って宇宙を観測することで、可視光だけではとらえられない天体の姿が次々と明らかになっています。「見えない光」で世界を見ることは、科学の重要な手段なのです。
なぜ「光の色」が写真にとって大事なのか
写真は光を記録する技術です。そして光には色があります。ということは、どんな色の光が被写体に当たっているかによって、写真の見え方は大きく変わります。
たとえば、晴れた日の昼間は太陽の光にすべての色がバランスよく含まれているので、白いものは白く写ります。ところが夕方になると太陽の光は赤みが強くなり、同じ白い壁がオレンジ色に染まって見えます。蛍光灯の下では緑っぽく写ることがありますし、白熱電球の下ではあたたかな黄色みを帯びます。
こうした「光源による色のちがい」は、写真の世界ではホワイトバランスや色温度という概念で扱われます。その土台にあるのは、まさに今回学んだ「光にはさまざまな波長(色)があり、光源によってその混ざり方がちがう」という事実です。
また、カメラのセンサーが可視光だけでなく赤外線にも反応しうること、それをフィルターで制御していること。こうした知識は、写真の色がどうやって決まるのかを理解する手がかりになります。
光の色を知ることは、写真をより深く理解するための土台になるのです。
この回のまとめ
今回は、白い光の中に隠された「色」の秘密と、目には見えない光の世界を探りました。ポイントをあらためて整理しましょう。
- 白い光は、たくさんの色の光が混ざったもの。 プリズムや雨粒を通すと、赤から紫まで連続した色の帯(スペクトル)に分かれます。この現象を最初に体系的に示したのがニュートンです。
- 色のちがいは波長のちがい。 赤い光は波長が長く(約700nm)、紫の光は波長が短い(約400nm)。人間の目に見える可視光は、およそ380nmから780nmの範囲にあります。
- 色によって屈折する角度がわずかにちがう。 この「分散」という現象が、虹やプリズムのスペクトルを生み出します。虹の外側が赤、内側が紫になるのは、赤い光(約42度)と紫の光(約40度)で目に届く角度がちがうためです。
- 「虹は7色」はニュートンが音階になぞらえて決めた便宜的な区切り方。 実際のスペクトルは境目のないなめらかなグラデーションであり、「何色」とするかは文化や時代によって異なります。
- 可視光の外にも光は広がっている。 赤外線(1800年、ハーシェルが発見)、紫外線(1801年、リッターが発見)、さらにX線や電波など、波長がちがうだけでどれも同じ電磁波の仲間です。
- カメラのセンサーは人間の目より広い波長域を感じ取れる。 しかしIRカットフィルターが赤外線をブロックすることで、目に見える色に近い写真が記録されます。
- 光の色を知ることは、写真の色を理解する土台になる。 光源によって含まれる色の配分がちがうため、写真の色味も変わります。ホワイトバランスや色温度といった概念は、すべてここに根ざしています。
ふだん何気なく浴びている白い光の中に、これほど豊かな色の世界が詰まっています。そしてその外側には、目に見えないけれど確かに存在する、広大な光の領域が果てしなく広がっています。
カメラは、そんな光を捕まえて記録する道具です。光の色を知ることは、写真を深く知るための大事な一歩になるのです。