写真のしくみ ② 光の屈折とストローが水の中で折れて見える理由

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シリーズ「写真のしくみ」について
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。

前回は「光はまっすぐ進む」という性質だけで、影のしくみからカメラ・オブスクラの原理まで一気にたどりつきました。でも実は、光には「曲がる」瞬間があります。その現象の名前は屈折(くっせつ)。今回はこの屈折を追いかけて、ストローが水の中で折れて見える不思議から、ダイヤモンドの輝きの秘密まで駆け抜けましょう。

「あれ、ストローが折れてる!」

コップに水を入れて、ストローをさしてみましょう。横から眺めると、水面のところでストローがカクッと折れ曲がって見えます。もちろん、ストローは折れていません。引き抜けばまっすぐなままです。

プールに入ったことがある人なら、こんな経験もあるはずです。プールの底を見ると、なんだか浅く見える。「このくらいなら足がつきそう」と思って飛び込んだら、思ったより深かった。あるいは、水の中の自分の足が、妙に短く見えたことはないでしょうか。

これらはすべて、屈折が引き起こしている現象です。では、そのしくみをひとつずつ解きほぐしていきましょう。

光が「遅くなる」と「曲がる」

では、なぜ光は水やガラスに入ると曲がるのでしょうか。その答えはとてもシンプルです。

光は、水やガラスの中では速度が遅くなります。

光の速さは、真空中(宇宙空間のように何もないところ)では秒速約30万km。1秒で地球を7周半できるとんでもないスピードです。ところが水の中に入ると、秒速約22.6万kmまで落ちます。ガラスの中ではさらに遅くなって、秒速約20万km。ダイヤモンドに至っては秒速約12.5万kmと、真空中の半分以下にまで減速します。

もちろん、どれも人間からすれば想像もつかないほど速い。でも光にとっては大きな違いです。この「速度の変化」こそが、光が曲がる原因になります。

でも、速さが変わるとなぜ曲がるのでしょう? ここで、ひとつたとえ話をしましょう。

行進する足と砂場

想像してみてください。あなたは学校の運動場で、横一列に並んだ友だちといっしょに行進しています。全員が同じ速さで、腕を組んで横一列のまま歩いています。

さて、この行進の列が、運動場のはしにある砂場に向かってななめに進んでいくとします。砂場に入ると足が重くなって、歩く速さが落ちます。

ここがポイントです。列の端にいる人が先に砂場に足を踏み入れます。その人は速度が落ちますが、反対側の端にいる人はまだ硬い地面の上を歩いているので、速いままです。すると、列全体がどうなるでしょうか。砂場側が遅く、地面側が速いから、列はぐるっと砂場の方に向きを変えてしまいます。

これが、光が屈折するしくみそのものです。光は波なので、横に広がった「波の面」(波面、と呼びます)を持っています。この波面の一部が先に水やガラスに入ると、その部分だけ速度が落ちます。まだ空気中にいる部分は速いまま。結果として、波面全体の進行方向がぐにゃりと曲がります。これが屈折の正体です。

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やってみよう
透明なコップに水を半分ほど入れて、鉛筆やストローをななめにさしてみましょう。真横から見たり、少し上から見たりと、目の位置を変えて観察すると、水面でのズレ方が変わることに気づくはずです。屈折の角度変化を自分の目で確かめられるかんたんな実験です。

大事なルールをひとつ覚えておきましょう。

  • 光が遅い物質に入るとき(空気から水やガラスへ) → 光は境界面に対して「立った」方向へ曲がる(法線に近づく)
  • 光が速い物質に出るとき(水やガラスから空気へ) → 光は境界面に対して「寝た」方向へ曲がる(法線から遠ざかる)

「法線」というのは、境界面に垂直に立てた仮想の線のことです。光が遅い世界に入ると、この法線にぐっと引き寄せられるように曲がり、速い世界に出ると、法線から離れるように曲がります。

屈折のルールブック

この屈折の曲がり方には、実はきっちりした法則があります。スネルの法則(スネルのほうそく)と呼ばれるもので、17世紀にオランダの学者ウィレブロルト・スネルが発見しました。

数式を使わずに言うと、こういうことです。

光が境界面に対してどれくらいの角度で入ってきたか(入射角)と、境界面を越えたあとどれくらいの角度で進むか(屈折角)の関係は、2つの物質の中での光の速さの比で決まる。

つまり、光がどれだけ遅くなるかがわかれば、どれだけ曲がるかも計算できます。速度の比を表す数値が屈折率(くっせつりつ)です。空気の屈折率はほぼ1.0で、水は約1.33、ガラスは約1.5、ダイヤモンドは約2.4。屈折率が大きいほど、その物質の中で光は遅くなり、境界面での曲がりも大きくなります。さらに、屈折率は光の色(波長)によってもわずかにちがいます。この性質が、プリズムを通った白い光を虹のスペクトルに分ける原因になっています。

ストローの話に戻りましょう。水の中を進んできた光が、水面で空気の世界に出るとき、法線から離れる方向に曲がります。私たちの目は「光はまっすぐ来たはずだ」と解釈しますから、水中のストローが実際の位置からずれて見えるのです。これが「ストローが折れて見える」トリックの正体です。プールの底が浅く見えるのも同じ理由で、水中から出てきた光が空気中で曲がることで、底が実際より上にあるように見えてしまいます。

水中から空を見上げると

ここからは、屈折がもう一段おもしろくなる話をしましょう。

もし水中にもぐって、水面を見上げたらどう見えるでしょうか。真上を見ると、空や天井がちゃんと見えます。少しななめを見ても、外の景色が見えます。ただし、ななめから来る光は屈折して曲がっているので、外の世界がちょっとゆがんで見えます。

さて、もっとななめ、つまり水面すれすれの方向を見ようとすると、あるところで不思議なことが起きます。外の世界がまったく見えなくなって、水面がまるで鏡のように、水中の景色を映し返してしまうのです。

これが全反射(ぜんはんしゃ)です。

光が遅い物質(水)から速い物質(空気)へ出ようとするとき、角度が浅すぎると(境界面に対してとても寝た角度だと)、光は境界面を突き抜けることができず、100%はね返されてしまいます。この「突き抜けられなくなるギリギリの角度」を臨界角(りんかいかく)といいます。水と空気の境界では、この臨界角はおよそ48.6度です。

水中から水面を見上げたとき、真上から約48.6度より外側を見ようとすると、そこはもう全反射の領域です。光は一切外に出られず、すべてはね返ってきます。だから水面が鏡のように見えるのです。水中から見上げると、真上にぽっかりと丸い「窓」が開いていて、その窓の外側は全部鏡。この丸い窓のことを「スネルの窓」と呼ぶこともあります。

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水中から見上げる世界
水中写真の世界では、この「スネルの窓」を活かした構図が知られています。水面すれすれから見上げると、真上に丸く切り取られた空が見え、その外側は水中の景色が鏡のように映り込む。屈折と全反射がつくり出す、水の中でしか出会えない光景です。

ダイヤモンドがキラキラ輝く秘密

さて、全反射と屈折率の話をつなげると、宝石の王様、ダイヤモンドの輝きの秘密が見えてきます。

ダイヤモンドの屈折率は約2.4。これは水の約1.8倍、ガラスの約1.6倍です。屈折率が高いということは、光がダイヤモンドの中でものすごく遅くなるということ。そして、屈折率が高い物質ほど、臨界角は小さくなります。

ダイヤモンドと空気の境界での臨界角は、わずか約24.4度。水の48.6度と比べると、半分くらいしかありません。これはどういうことでしょうか。ダイヤモンドの中で光が境界面に当たったとき、24.4度よりちょっとでも寝た角度で当たると、もう全反射してしまいます。光がダイヤモンドの外に出られる角度の範囲がとても狭いのです。

つまり、一度ダイヤモンドの中に入った光は、なかなか外に出られません。内部の面にぶつかるたびに全反射を繰り返し、ダイヤモンドの中をあちこち跳ね回ります。宝石職人は、この性質をよく知っています。ダイヤモンドのカット(面の角度や数)は、光が内部で何度も反射したあと、最終的に上面から集中して出てくるように計算されています。だからダイヤモンドは、ほかの宝石とは別格のまばゆい輝きを放つのです。

ちなみに、ガラスの臨界角は約42度。ダイヤモンドよりずっと大きいので、光が内部で全反射しにくく、すぐに外へ出てしまいます。ガラス玉がダイヤモンドほどキラキラしないのは、こういう理由です。

屈折はレンズへの入り口

今回見てきた屈折という現象は、「光は異なる物質に入ると速度が変わり、そのとき進行方向が曲がる」というシンプルな原理でした。

でも、このシンプルな原理こそが、カメラのレンズのしくみの土台になっています。レンズはガラスや特殊な素材でできた、表面がカーブした透明な板です。光がそのカーブした表面で屈折することで、光をひとつの点に集めたり、広げたりできます。それが「像をつくる」という、写真の根幹にかかわる大きな話へとつながっていきます。

屈折なくしてレンズは成り立ちません。レンズなくしてカメラは成り立ちません。今回の屈折の話は、この先の冒険のための、大事な足場です。

この回のまとめ

今回は、光が「曲がる」現象である屈折のしくみを追いかけてきました。大事なポイントをおさらいしましょう。

  • 光は水やガラスの中で遅くなる。 空気中を秒速約30万kmで進む光は、水中では約22.6万km、ガラス中では約20万km、ダイヤモンド中では約12.5万kmにまで減速します。
  • 速度が変わるとき、光の進行方向が曲がる。これが屈折。 遅い物質に入ると法線に近づく方向に、速い物質に出ると法線から遠ざかる方向に曲がります。
  • 曲がり方は屈折率の比で決まる。 これを定式化したのがスネルの法則です。屈折率が大きい物質ほど光は遅くなり、境界面での曲がりも大きくなります。
  • 角度が浅すぎると、光は境界面を突き抜けられない。 遅い物質から速い物質へ出ようとするとき、すべてはね返される全反射が起きます。そのギリギリの角度が臨界角です。
  • ダイヤモンドが輝くのは、屈折率の高さと全反射のおかげ。 屈折率約2.4、臨界角わずか約24.4度。一度中に入った光はなかなか外に出られず、内部で反射を繰り返します。カットの技術と合わさって、あの独特のきらめきが生まれます。
  • 屈折こそがレンズの土台。 この現象がなければレンズは成り立たず、カメラの「像をつくる」原理へもつながりません。

ストローの折れ曲がりから始まった屈折の冒険は、ダイヤモンドの輝きまでたどりつきました。そしてこの屈折こそが、カメラのレンズを支える根幹の原理です。次回は、屈折が色ごとにわずかにちがうという性質から、虹の美しい秘密と目に見えない光の正体を解き明かします。

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