写真のしくみ ⑤ レンズが世界をひっくり返す理由とボケの正体

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シリーズ「写真のしくみ」について
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。

カメラの中では、世界がひっくり返っています。

いきなり何を言い出すんだ、と思うかもしれません。でもこれは本当の話です。カメラのレンズを通って中に入ってきた光は、上下も左右も入れ替わった像をつくります。あなたの顔を撮った瞬間、カメラの中ではあなたの顔はさかさまになっているのです。

なぜそんなことが起きるのでしょう。今回は虫めがね1枚と白い紙を使って、その秘密を一緒に解き明かしていきましょう。

虫めがねで「逆さまの世界」を映してみよう

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やってみよう! 虫めがねと白い紙を1枚ずつ用意しましょう。晴れた日に窓のそばに行き、片手で虫めがねを持って、もう片方の手で白い紙をかざします。虫めがねと紙のあいだの距離をゆっくり変えてみてください。あるところで、窓の外の景色が紙の上にくっきり映る瞬間があります。

うまく映りましたか。よく観察してみてください。紙に映った景色は逆さまになっているはずです。

木は下に向かって生え、空は足元に広がっています。まるで世界がひっくり返ったみたいですよね。これが実像と呼ばれるもので、虫めがね(凸レンズ)が光を集めてつくり出した、本物の像です。カメラの中では、シャッターを押すたびにこれとまったく同じことが起きています。

光はまっすぐ進む。だから像はひっくり返る

なぜ像は逆さまになるのでしょう。

その理由は、光がまっすぐ進む性質を持っているからです。目の前に1本のロウソクが立っているところを想像してみてください。炎は上にあって、台は下にあります。このロウソクの前にレンズを1枚置くと、ロウソクから出た光はレンズを通り抜けて反対側に届きます。

ここで大事なのは、光の「通り道」です。

ロウソクの炎(上のほう)から出た光は、レンズを通ると下向きに曲がり、レンズの反対側では下のほうに届きます。逆に、ロウソクの台(下のほう)から出た光は上向きに曲がって、上のほうに届きます。

上からの光は下へ。下からの光は上へ。光の道すじが、レンズのあたりで交差するのです。

この交差のおかげで、レンズの反対側にできる像は上下がひっくり返ります。同じことが左右でも起きていて、右からの光は左へ、左からの光は右へ向かいます。結果として像は上下左右が入れ替わります。もっと正確に言えば、もとの景色を180度くるっと回転させた像ができあがるのです。

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やってみよう! レンズがなくても同じことが確かめられます。段ボール箱の片面に針で小さな穴をひとつだけ開けて、反対側の内壁に白い紙を貼りましょう。穴を明るい景色に向けると、紙の上にぼんやりと逆さまの像が映ります。第1回で紹介したピンホールカメラです。レンズの力を借りなくても、光がまっすぐ進むという性質だけで像ができる証拠です。

レンズは「光をたくさん集める道具」

ピンホールでも像ができるなら、なぜわざわざレンズを使うのでしょう。

答えはシンプルで、ピンホールだと暗すぎるからです。針で開けた穴を通れる光の量はごくわずかしかありません。だからピンホールカメラの像はとても暗く、写真として記録しようとすると何秒も何十秒もじっと待たなければならないことがあります。

レンズはこの問題を解決してくれます。レンズは小さな穴よりもずっと大きな面積で光を受け取り、屈折の力でぐっと曲げて一か所に集めることができます。たくさんの光を集められるぶん像は明るくなり、一瞬で写真が撮れるようになるのです。

虫めがねのような凸レンズを横から眺めると、真ん中が厚くてふちが薄い形をしています。この形こそが光を曲げるカギです。レンズの端を通る光ほど大きく内側に曲がり、真ん中を通る光はほとんど曲がりません。こうしてバラバラの方向から来た光が、レンズの後ろ側のある一点めがけて集まっていきます。

なかでも、太陽のようにとても遠くから届く光が集まる点を焦点といいます。前回、虫めがねで太陽の光を集めて紙を焦がす実験をしましたね。あの光がぎゅっと集まっていた場所が、まさに焦点です。

ピントが合うとは「像がセンサーの上にぴったり乗る」こと

レンズが光を集めて像をつくることはわかりました。次に気になるのは「ピント」です。

写真を撮ると、くっきり写っている部分と、ぼんやりしている部分がありますよね。「ピントが合っている」「ピントがボケている」とよく言います。あれは一体何が起きているのでしょう。

ここで覚えておきたい大事なルールがあります。レンズが像をくっきりつくれる場所は、被写体(撮りたいもの)までの距離によって変わるということです。

  • 被写体が近いと、くっきりした像はレンズから遠い場所にできる。
  • 被写体が遠いと、像はレンズから近い場所にできる。

たとえば、2メートル先に立っている友達にレンズを向けたとします。友達のくっきりした像は、レンズの後ろのある特定の距離にできます。その場所にカメラのセンサー(光を受け取って記録する部品)がぴったり来ていれば、友達の写真はくっきり写ります。

これが「ピントが合っている」状態です。

では、カメラはどうやってピントを合わせているのでしょうか。答えは、レンズを前後に少しだけ動かして、狙った被写体の像がちょうどセンサーの上にできるように位置を微調整しているのです。スマートフォンでも一眼カメラでも、やっていることの本質はまったく同じです。

近くにピントを合わせると、遠くがボケる

では、「ボケ」はなぜ生まれるのでしょう。

目の前30センチに花が咲いていて、10メートル先に木が立っている場面を想像してみてください。

花にピントを合わせました。花から出た光はレンズを通って、センサーの上にくっきりした像をつくります。完璧です。

でも同じ瞬間、10メートル先の木からもレンズに光が届いています。この木の像はどこにできるかというと、木は花よりずっと遠くにあるので、さっきのルール通り、像はレンズにもっと近い場所にできます。つまりセンサーよりも手前です。

像がセンサーより手前でできるとどうなるでしょう。光はいったんそこで集まったあと、また広がりはじめます。広がった状態の光がセンサーに届くので、木を形づくる光のひとつひとつが、鋭い点にならずぼんやりした小さな円に広がって記録されます。これがボケの正体です。

逆に、遠くの山にピントを合わせたらどうなるでしょう。手前の花の像はセンサーの奥で結ばれることになります。光がまだ十分に集まりきらないうちにセンサーに届いてしまうので、こちらもやはり光がそれぞれ円に広がり、ぼんやり写ります。

つまりボケとは、像がセンサーの上にぴったり乗っていないときに、光が点ではなく円として記録されることです。ピントが合っている距離から離れるほどこの円は大きくなり、ボケも目立つようになります。くっきり写る前後の範囲(被写界深度)や、ボケの円の形が決まるしくみ、ボケの大きさを左右する3つの条件については、先の回でさらに探っていきます。

実像と虚像。写真に使われるのはどっち?

ここで、少し難しいけれどとても面白い話をしましょう。レンズがつくる像には、実は2つの種類があります。実像と虚像です。

実像は、光が本当にその場所に集まってできる像です。白い紙を置けばそこに映ります。さっきの虫めがね実験で紙の上にくっきり映った逆さまの景色が、まさに実像です。光が実際にそこに届いているからこそ、目で見えるし、カメラのセンサーで記録もできるのです。

では虚像とは何でしょう。虫めがねで小さな文字を拡大して読んだことはありませんか。レンズを文字にぐっと近づけて覗くと、文字は大きく見えます。ところが、あの大きく見えている文字をスクリーンに映そうとしても、映りません。光がその場所に実際に集まっているわけではないからです。

虚像ができるのは、見たいものがレンズの焦点よりも手前にあるときです。このとき、レンズを通った光は一点に集まらず、広がっていきます。でも人間の目は、この広がっていく光の道すじを逆にたどって「もとはあそこから来たんだな」と感じ取ります。その「あそこ」に見えるのが虚像で、もとの物よりも大きく、逆さまにはなりません。虫めがねで文字を拡大して読むとき、文字がひっくり返らないのはそういうわけです。

さて、カメラが使っているのはどちらでしょう。

答えは実像です。カメラはレンズで集めた光をセンサーの上に届けて記録する装置です。光が本当にそこに届いていなければ、センサーには何も写りません。だからカメラが写真を撮るのに使っているのは、いつも光が実際に集まってできる実像のほうなのです。

カメラは「暗い箱にレンズをつけたもの」

ここまでの話をつなげると、カメラの正体がはっきり見えてきます。

カメラとは、つきつめれば**「暗い箱の片面にレンズをつけて、反対側にセンサーを置いた装置」**です。

暗い箱が必要なのは、レンズを通った光以外の余計な光を遮断するためです。余計な光がセンサーに届くと像はぐちゃぐちゃになってしまいます。映画館が暗くないとスクリーンの映像がよく見えないのと同じ理屈です。

レンズが外の世界の光を集めて、暗い箱の中に逆さまのくっきりした像をつくります。その像をセンサーが受け取り、電気信号に変換します。最後にカメラの中のコンピューターが上下左右をもとに戻して、私たちが見慣れた正しい向きの写真にしてくれるのです。

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知ってた? 「カメラ」という言葉は、ラテン語の「カメラ・オブスクラ(camera obscura)」に由来します。意味は「暗い部屋」。何百年も前、画家たちは暗い部屋の壁に小さな穴を開け、反対側の壁に映る逆さまの風景をなぞって絵を描いていました。今私たちが使っているカメラの原理は、あの暗い部屋とまったく同じなのです。

この回のまとめ

今回は、レンズが光を集めて「像」をつくるしくみを見てきました。大事なポイントをおさらいしましょう。

  • 凸レンズは光を集めて像をつくる。 虫めがねと白い紙があれば、誰でもこれを体験できます。
  • 像が逆さまになるのは、光が交差するから。 上から来た光は下へ、下から来た光は上へ。レンズの付近で光の道すじが交差し、像は180度回転したものになります。
  • ピントが合うとは、像がセンサーの上にぴったりできている状態。 カメラはレンズを前後に動かして、この位置を合わせています。
  • ボケは、像がセンサーからずれた場所にできるときに生まれる。 光が点ではなく円に広がって記録されるので、写真がぼんやりします。
  • レンズがつくる像には「実像」と「虚像」がある。 カメラが使うのは、光が実際に集まる実像です。虫めがねで文字を拡大するときの像は虚像で、スクリーンには映せません。
  • カメラの基本構造は「暗い箱+レンズ+センサー」。 何百年も前のカメラ・オブスクラと原理はまったく同じです。

レンズ1枚と暗い箱。たったそれだけで、目の前の世界を切り取って記録できます。考えてみれば、カメラというのは驚くほどシンプルで、驚くほど奥が深い道具です。

ところで、レンズには焦点距離という大事な数字がありました。この数字が変わると、写真に写る範囲がまるで変わってきます。次回は画角と焦点距離の関係を探っていきましょう。

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