写真のしくみ ⑭ ボケの大きさを決める3つの要素とスマホでボケにくい理由

Share
💡
シリーズ「写真のしくみ」について
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。

背景がとろけるように美しくぼけた写真を見て、「自分もあんなふうに撮りたい」と思ったことはありませんか。

前回と前々回で、ピントが合うとはどういうことか、そしてボケの正体が「錯乱円」という光の円であることを見てきました。レンズは、ある一つの距離にある被写体をセンサーの上にぴたりと結像させますが、その距離から外れた場所にあるものは「ぼんやりした円」として写ります。

では、このボケを大きくするにはどうすればいいのでしょうか。逆に、小さく抑えるには?

実は、ボケの大きさを左右する要素は、大きく 3つ あります。

  • 絞り(F値)
  • 被写体までの距離
  • 焦点距離

この3つをうまく使いこなせれば、写真のボケは思いのままです。一つずつ、順番に見ていきましょう。

要素その1 絞り(F値)が小さいほど、ボケは大きくなる

まずは「絞り」のおさらい

絞りとは、レンズの中にある「光の通り道の大きさを変えるしくみ」でした。絞りを開くと光がたくさん通り、絞ると光が少しだけ通ります。この「通り道の大きさ」を数字で表したものがF値です。

ここで大事なのは、F値の数字が小さいほど、絞りが大きく開いている ということ。F1.8やF2.8は「大きく開いている」状態で、F8やF16は「ぎゅっと絞っている」状態です。

なぜ絞りを開くとボケるのか

ピントが合っていない場所からやってきた光を思い浮かべてみてください。この光はセンサーの上で一点に集まりきれず、小さな円になります。この円を 錯乱円(さくらんえん) と呼びます。

ここで、絞りを大きく開けると何が起きるでしょうか。レンズに入ってくる光の「束」が太くなります。太い光の束は、ピントが外れたときにセンサー上でより大きく広がる。つまり、錯乱円が大きくなります。錯乱円が大きいということは、ボケが大きいということです。

反対に、絞りをぎゅっと絞ると、光の束は細くなります。細い束は、ピントが外れていてもそれほど広がりません。だから錯乱円は小さくなり、ボケも小さくなるのです。

身近なたとえで考えてみましょう。庭に水をまくホースを想像してみてください。ホースの口を大きく開けて水をまくと、水は広い範囲にばーっと散ります。でも、ホースの口を指でぎゅっとつぶして細くすると、水は細いビームのようにまっすぐ飛んでいく。絞りとボケの関係は、ちょうどこれに似ています。光の通り道が広ければ広いほど、ピントの外れた光は大きく「散って」しまうのです。

📷
やってみよう
もしカメラが手元にあるなら、同じ被写体を同じ距離から、F値だけを変えて何枚か撮ってみましょう。F1.8で撮った写真と、F11で撮った写真を見比べると、背景のボケ具合がまるで違うことがわかるはずです。

要素その2 被写体に近づくほど、ボケは大きくなる

近づくとボケる、離れるとボケにくい

カメラで花を撮ったことがある人なら、経験があるかもしれません。花にぐっと近づいて撮ると、背景がとろけるようにボケます。同じ花を遠くから撮ると、背景もそこそこくっきり写ります。

これはなぜでしょうか。

理由は、被写体が近いと「ピントが合う距離」と「ピントが合わない距離」の差が、光学的に大きくなるからです。少し詳しく言うと、被写体に近づけば近づくほど、レンズはピントを合わせるために大きく前に繰り出します。このとき、レンズとセンサーの位置関係が変わり、ピントが合っていない場所から来た光がセンサー上で大きく広がりやすくなるのです。

これも身近なたとえで考えてみましょう。虫めがねで遊んだことはないでしょうか。虫めがねを紙にうんと近づけてみると、紙の上には何も映らないぼやっとした光の円ができます。でも、虫めがねを離していくと、ある距離でぴたっと像が結ぶ。そして像が結ぶ距離から少しでもずれると、またぼやけます。

カメラのレンズも同じです。被写体がレンズにとても近いとき、ピントの「ちょうどいい距離」はとてもシビアになります。ほんの少しでもその距離から外れたものは、大きくボケてしまうのです。

マクロ撮影で背景がとろけるのはこれが理由

昆虫や花をアップで撮る「マクロ撮影」では、被写体との距離がとても短くなります。だから、ピントが合っている範囲はものすごく狭くなり、背景はとろけるようにボケます。トンボの目にピントを合わせたら、すぐ後ろの羽根がもうボケている、なんてこともよくあります。

このことは、反対のことも教えてくれます。風景写真のように遠くの景色を撮るときは、被写体までの距離がとても大きいので、ボケは出にくい。広々とした山並みを撮って「背景だけボカしたい」と思っても、なかなか難しいのはこのためです。

🔍
ちょっと深掘り
被写体に近づくと「撮影倍率」が大きくなります。撮影倍率とは、実物の大きさに対してセンサーに映る像の大きさの比率のことです。撮影倍率が大きくなるほど被写界深度(ピントが合って見える範囲)は浅くなり、結果としてボケが大きくなります。マクロレンズが「等倍」(撮影倍率1倍、つまりセンサー上の像と実物が同じ大きさ)で撮れるレンズだと知ると、あの強烈なボケにも納得がいくのではないでしょうか。

要素その3 焦点距離が長いほど、ボケは大きくなる

望遠レンズでボケる理由

焦点距離が長い、いわゆる望遠レンズで撮ると、背景は大きくボケます。広角レンズ(焦点距離が短いレンズ)で撮ると、同じ絞りでもなかなかボケません。

なぜでしょうか。

焦点距離が長いレンズは、同じ被写体を同じ大きさで写すとき、光の束の角度がゆるやかになります。遠くから細く集めてきた光は、ピントがずれたときの「広がり方」が大きくなる。結果として、ピントの外れた場所の錯乱円が大きくなり、ボケが強まるのです。

これもたとえ話をしましょう。学校の体育館で、ステージの上のスポットライトを想像してみてください。スポットライトは遠くから光を集めて舞台の一点を照らします。だから、少しでもずれると光の円は一気に大きくなる。一方、手元の懐中電灯で足下を照らす場合、ちょっとずれたくらいでは光の円はそこまで変わりません。望遠レンズは、このスポットライトのように遠くから光を集めるしくみです。だから、ピントを外れたものが大きくボケるのです。

広角だとボケにくいのは「焦点距離が短いから」

広角レンズは焦点距離が短いレンズです。短い焦点距離で光を集めると、光の束の角度が急で、ピントが少しずれても錯乱円があまり大きくなりません。だから、広角レンズで撮った写真は画面全体にピントが合っているように見えることが多いのです。風景写真で広角レンズがよく使われるのは、画角(写る範囲)が広いだけでなく、画面の隅々までくっきり写しやすいからでもあります。

📷
やってみよう
ズームレンズを持っているなら、同じ被写体を同じ絞りで「広角端」と「望遠端」で撮り比べてみましょう。望遠端のほうが背景のボケがずっと大きくなるはずです。

3つの要素をまとめて考えてみよう

ここまでの話を整理すると、ボケを大きくしたいときは次のようにすればいいことになります。

  1. F値を小さくする(絞りを開ける)
  2. 被写体に近づく
  3. 焦点距離を長くする(望遠側にする)

逆に、ボケを小さくして画面全体をくっきり写したいなら、この3つを逆にします。F値を大きくし、被写体から離れ、焦点距離を短くすればよいのです。

そして、この3つの要素は独立に効きます。つまり、組み合わせて使えるということです。たとえば、ポートレート(人物写真)でよく使われるテクニックはこんな感じです。

この3つが重なることで、人物の顔にはビシッとピントが合い、背景はクリーミーにとろけるような写真が撮れます。プロのポートレート写真が印象的なのは、この3つの要素をうまく組み合わせているからなのです。

スマホのカメラではなぜボケにくいのか

さて、ここからが今回のもう一つの大きなテーマです。

「スマホで撮った写真は背景がボケにくい」と感じたことはないでしょうか。高級なスマホでも、一眼カメラのようなとろけるボケはなかなか出ません。これはスマホのカメラが「性能が低い」からではありません。物理的にボケにくい構造をしている からです。

カギは「センサーサイズ」にある

ボケの大きさを決める3つの要素を思い出してみてください。絞り(F値)、被写体までの距離、そして焦点距離。この中で、スマホが決定的にハンデを背負っているのが 焦点距離 です。

スマホのカメラに使われているセンサーは、とても小さなものです。一眼カメラのフルサイズセンサー(36mm x 24mm)に対して、スマホのセンサーは5mm x 4mm 程度しかありません。面積比で見ると、フルサイズセンサーはスマホのセンサーの 30倍から50倍以上 もの大きさがあります。

小さなセンサーでは、焦点距離が短くなる

では、なぜセンサーが小さいとボケにくくなるのでしょうか。

ポイントは「画角」にあります。たとえば「人の目で見たのと同じくらいの広さ」を写そうとしたとき、フルサイズのカメラなら約50mmの焦点距離のレンズを使います。ところが、スマホのような小さなセンサーで同じ広さを写そうとすると、もっとずっと短い焦点距離のレンズでよくなります。だいたい 5mm から 7mm くらいです。

焦点距離が短いとボケにくい。これは先ほど「要素その3」で学んだとおりです。

つまり、こういうことです。

  • フルサイズカメラで50mmのレンズを使って撮った写真
  • スマホで約 7mm のレンズを使って撮った写真

この2枚は同じくらいの「広さ」が写っています。でも、実際の焦点距離は7倍近くも違います。焦点距離が短いスマホのほうが、圧倒的にボケにくいのです。

同じF値でも結果が違う

「でも、スマホのカメラにもF1.8って書いてあるよ?」と思った人もいるかもしれません。確かに、最近のスマホのカメラはF1.8やF1.6といった小さなF値のレンズを搭載しています。一眼カメラの明るいレンズと同じくらいの数字です。

しかし、F値は「焦点距離をレンズの口径(有効口径)で割った値」です。つまり、口径 = 焦点距離 ÷ F値 となります。焦点距離が短いスマホのレンズでは、F1.8でもレンズの実際の口径はとても小さくなります。たとえば、焦点距離7mmでF1.8なら、レンズの口径はたったの約4mm(7 ÷ 1.8 ≈ 4)。一方、フルサイズカメラの50mm F1.8なら、口径は約28mm(50 ÷ 1.8 ≈ 28)もあります。

レンズの口径が大きいほど、光の束は太くなり、ボケも大きくなります。スマホのレンズは口径が小さいから、たとえF値の数字が同じでも、ボケの大きさでは太刀打ちできないのです。

💡
ここが大事
スマホのカメラがボケにくいのは「品質が悪い」からではありません。小さなセンサーに合わせて焦点距離の短いレンズを使わざるを得ないという、光学的な宿命によるものです。逆に言えば、小さなセンサーのおかげで、スマホはあのポケットに入るサイズに収まっています。小さくて画面全体にピントが合いやすいことは、スナップ撮影や風景撮影ではむしろ強みにもなります。

スマホの「ポートレートモード」のひみつ

「でも、スマホでもきれいにボケた写真が撮れるよ?」と思うかもしれません。その通りです。最近のスマホには「ポートレートモード」という機能があります。この機能を使うと、人物の背景がふわっとボケた写真が撮れます。

でも実は、これは 光学的なボケではありません。

ポートレートモードが行っているのは、次のようなことです。

  1. 奥行き情報を推定する スマホは、複数のカメラやセンサー(一部の機種ではLiDARと呼ばれるレーザーセンサー)を使って、写真の中のどこが近くて、どこが遠いかを測定します。
  2. 人物と背景を分離する AIの画像認識技術を使って、「ここが人物」「ここが背景」と判別します。
  3. 背景だけをソフトウェアでぼかす 推定した奥行き情報にもとづいて、背景部分に画像処理でぼかしをかけます。遠いものほど強くぼかすことで、自然なボケのように見せています。

つまり、ポートレートモードは「レンズの光学でボケをつくる」のではなく、「コンピュータの計算でボケをつくる」ものです。これを コンピュテーショナルボケ と呼ぶことがあります。

ソフトウェアのボケと光学のボケ、どう違う?

ソフトウェアのボケは年々進化していて、ぱっと見ではとても自然に見えるようになっています。しかし、よく観察すると、光学的なボケとの違いに気づくことがあります。

  • 境界が不自然になることがある AIが「人物」と「背景」の境目を間違えると、髪の毛の隙間に背景がくっきり残ったり、腕の輪郭がぎこちなくぼけたりします。光学的なボケは光そのものの性質ですから、こうした境界の問題は起きません。
  • ボケの形が均一になりがち 光学的なボケには、レンズ固有の個性があります。点光源がボケたときに丸くなったり、レモン型になったり、渦を巻いたりする。これは「ボケ味」と呼ばれ、レンズの設計や絞り羽根の形によって変わります。一方、ソフトウェアのボケはアルゴリズムで一律にぼかすため、こうした個性的な表現が出にくいのです。
  • 前ボケの再現が難しい 被写体の手前にあるものがふんわりボケる「前ボケ」は、光学的なボケでは自然に生まれます。しかし、ソフトウェアのボケは「背景をぼかす」ことを前提に設計されていることが多く、手前のボケの再現は苦手な場合があります。

とはいえ、スマホのポートレートモードは「ポケットの中のカメラで、誰でも手軽にボケ表現を楽しめる」という意味で、すごい技術です。物理法則の壁をソフトウェアの力で飛び越えようとしている。完璧ではないけれど、写真の楽しみ方をぐっと広げてくれたことは間違いありません。

この回のまとめ

今回は、ボケの大きさを決める3つの要素と、スマホでボケにくい理由を見てきました。ポイントを振り返りましょう。

  • F値が小さいほど、ボケは大きくなる。 絞りを開けると光の束が太くなり、ピントの外れた光がセンサー上で大きく広がります。
  • 被写体に近づくほど、ボケは大きくなる。 マクロ撮影で背景がとろけるのは、被写体との距離がとても短いからです。
  • 焦点距離が長いほど、ボケは大きくなる。 望遠レンズで背景が大きくぼけるのは、この性質のおかげです。
  • 3つの要素は組み合わせて使える。 明るい中望遠レンズで被写体に寄って撮るのが、ボケを最大限に活かす王道の方法です。
  • スマホは焦点距離が短いから、光学的にボケにくい。 センサーが小さいため同じ画角でも焦点距離がとても短くなり、たとえF値が同じでも大きなボケを生み出すのが難しくなります。
  • スマホのポートレートモードは、ソフトウェアでボケをつくっている。 奥行き推定とAIの画像処理で背景をぼかしています。手軽にボケ表現を楽しめる一方、光学的なボケとは質感や振る舞いに違いがあります。

ボケは写真表現の大きな武器です。3つの要素を理解すれば、撮りたい写真に一歩近づけます。次の回では、ちょっと意外な話をします。「絞りを絞ればくっきり写る」はどこまでも通用するのか。実は、絞りすぎると逆にぼやけてしまう不思議な現象があるのです。

Read more

Dependabotの対応が面倒なのでRenovateを導入する

Dependabotくんはある程度の依存関係の更新を通知してくれるが、山のようにprojectを抱えているとなんとも痒いところに手が届かない。 ということで、Renovateを使ってみる。 Build software better, togetherGitHub is where people build software. More than 150 million people use GitHub to discover, fork, and contribute to over 420 million projects.GitHub ここからGitHub Appを入れる。 あとは、指示に従ってポチポチするだけで、超かんたんだった。 感想 自動化最高。

By Sakashita Yasunobu

nodejsのバグを見つけたのでPRを投げてみた

概要 要するに、node --testで特定のバイナリを標準出力に書くと、テストランナーが固まったり、異常終了したりするバグです。 バグ自体は既知のものだったようで、修正がされていました。 test_runner: infinite loop in FileTest#drainRawBuffer when child stdout contains FF 0F followed by large size bytes · Issue #62693 · nodejs/nodeVersion v25.9.0 (also reproduced on v24.14.1 LTS, v22.21.0 LTS, v23.4.0) Platform Darwin 25.

By Sakashita Yasunobu
青空文庫のParser

青空文庫のParser

青空文庫のParserを作ってます。 GitHub - P4suta/aozora: Pure-functional Rust parser for 青空文庫記法 (Aozora Bunko notation): ルビ, 傍点, 縦中横, 外字, 返り点, indent containers, page breaks.Pure-functional Rust parser for 青空文庫記法 (Aozora Bunko notation): ルビ, 傍点, 縦中横, 外字, 返り点, indent containers, page breaks. - P4suta/aozoraGitHubP4suta Rustで作ってますが、配布物はcargoのほかにnpm/pypiでも入手できます Documentation * Playground — try it in

By Sakashita Yasunobu