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写真の物理学 ⑬ 同じ被写体サイズでのボケ比較

📐写真の物理学シリーズ ⑬ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 「望遠レンズはボケる」。写真を撮る人なら一度は聞いたことがある。しかしこの命題は、何と比較しているのか、どの条件を揃えているのかを明示しなければ不完全だ。本記事では、被写体を同じ大きさに写す制約のもとで、ボケ量が焦点距離・F値・背景距離の関数としてどう振る舞うかを厳密に記述する。 前提の確認 本稿では、ボケの円を関数で記述するで導出した以下のボケ円径の公式を出発点とする。合焦距離 $d$ にピントを合わせたとき、距離 $d_{\text{bg}}$ にある背景の点光源がセンサー上に作るボケ円の直径 $b$ は $$ b = \frac{f^2}{N} \left| \frac{1}{d} - \frac{1}{d_{\text{bg}}} \right| $$ だ。 $f$ は焦点距離、 $N$

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写真の物理学 ㉖ 光電効果とフォトダイオード

📐写真の物理学シリーズ ㉖ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 デジタル写真の根幹は、光子をフォトダイオードで電子に変換する過程にある。この変換効率がノイズ、感度、ダイナミックレンジといったセンサー性能の物理的根拠を決定する。本稿では光電効果の量子論からpn接合の固体物理、BSI・積層型センサーの構造設計まで一貫して導出する。 光電効果の物理 外部光電効果とアインシュタインの光量子仮説 1887年、ヘルツが紫外線を金属に照射すると電子が放出される現象を発見した。古典的な波動理論では、光の強度を上げれば電子の運動エネルギーが増すはずだが、実験結果はそれに反していた。光の強度を上げても放出される電子の最大運動エネルギーは変わらず、光の振動数を上げると運動エネルギーが増加した。さらに、ある閾値振動数以下では、どれほど強い光を当てても電子は一切放出されなかった。 1905年、アインシュタインは、黒体放射を説明するためにプランクが導入した量子仮説(色温度と黒体放射で詳述)を拡張し、光

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写真の物理学 ㉒ 色とは何か

📐写真の物理学シリーズ ㉒ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 色は波長ではなく、分光分布が三種の錐体細胞を経て三つの数値に圧縮された知覚現象である。この圧縮過程をCIE 1931表色系の等色関数で定式化すると、メタメリズムや色度図の構造が必然的に導かれる。本稿では、分光分布から三刺激値・色度座標を経て、写真の色再現に至る物理的基盤を構築する。 分光分布 光の物理的な記述は、波長ごとのエネルギー分布で与えられる。これを分光分布(Spectral Power Distribution, SPD)と呼ぶ。SPDは波長 $\lambda$ の関数 $S(\lambda)$ であり、各波長帯における放射パワーの密度を表す。単位は W/nm だ。 太陽光と大気の物理学で詳述するように、太陽光のSPDは可視光全域にわたるなだらかな連続スペクトルである。蛍光灯のSPDは水銀の輝線スペクトルと蛍光体の連続スペクトルが重畳した鋭い山を持つ。LEDのSPDは青色LEDの鋭いピークと蛍光体の広いピー

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写真の物理学 ㉔ 色空間の数学

📐写真の物理学シリーズ ㉔ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 同じRGB値でも、sRGBとAdobe RGBでは指し示す物理的な色が異なる。色が「正しい」かどうかは色空間という座標系の選択に依存する。色空間はCIE XYZを基底として原色と白色点で定義され、その三角形が表現可能な色域を決定する。本稿では、主要RGB色空間の変換行列の導出からガンマ補正の数学、Lab色空間の非線形変換までを体系的に扱う。 人間の色覚と三刺激値 色は物理量ではない。色とは何かで定式化したとおり、光はスペクトルという連続的な関数で記述されるが、人間の目はそれを三つの数値に圧縮して知覚する。網膜にあるL錐体(長波長感受性)、M錐体(中波長感受性)、S錐体(短波長感受性)が、入射光のスペクトルをそれぞれの分光感度曲線で重み付け積分し、三つの神経信号を生成する。 この三次元性が、色を三つの座標で表現できる根拠である。スペクトルは無限次元の関数空間に属するが、人間の色覚は三次元の部分空間への射影として動作す

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写真の物理学 ⑰ MTFで読むレンズの解像力

📐写真の物理学シリーズ ⑰ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 回折限界と収差の議論は、いずれも「レンズがどれだけ細かい構造を再現できるか」という問いに帰着する。本記事では、この問いに周波数領域から統一的な答えを与えるMTF(Modulation Transfer Function, 変調伝達関数)を扱う。点像分布関数のフーリエ変換からMTFを導出し、回折限界MTF曲線、収差の影響、センサーとの合成MTF、そしてMTFの限界までを論じる。 空間周波数という視点 レンズの解像力を語るとき、「何本の線を分解できるか」という表現がしばしば用いられる。白と黒の細い縞模様を考え、1mmあたりに何組の明暗ペア(line pair)が並ぶかを数えたものが 空間周波数 $\nu$(単位: lp/mm, line pairs per millimeter)である。 空間周波数が低い(縞が粗い)パターンは、どんなレンズでも容易に再現できる。一方、空間周波数が高くなる(縞が細かくなる)につれて、

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写真の物理学 ㉗ ベイヤー配列とデモザイキングの数学

📐写真の物理学シリーズ ㉗ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 デジタルカメラのセンサーでは、各画素が赤・緑・青のうちたった一色の明るさしか記録していない。完全なカラー画像は、足りない二色を数学的に推定して埋めるデモザイキングによって事後的に生成される。本稿ではベイヤー配列の設計思想から補間アルゴリズムの数学、モアレの発生原理、X-Trans・Foveonなどの代替方式までを扱う。 なぜ一画素で色が分離できないのか 光電効果とフォトダイオードで述べたように、シリコンフォトダイオードは光子を受け取ると電子を放出する。この電子の量が「明るさ」として記録される。ところが、シリコンのフォトダイオード単体では波長を区別できない。赤い光も青い光も、電子を叩き出すという意味では同じだ。波長ごとに吸収効率の差はあるものの、「いま届いた光子が何色だったか」を一つのフォトダイオードだけで判定することはできない。 色を得るには、光がフォトダイオードに届く前にフィルターをかけて、特定の波長帯だけを通す

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写真の物理学 ㊼ 視覚の知覚心理物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊼ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 写真は最終的に人間の目で見られるが、人間の眼の光学で記述した視覚系は物理量をそのまま知覚するわけではない。明るさの感じ方は光の強度に比例せず、色は照明が変わっても同じに見え、存在しない明暗の帯がエッジ付近に現れる。本稿では写真の制作と鑑賞に直結する視覚の知覚特性を、コントラスト感度関数から色の恒常性、鑑賞距離と解像度の関係まで体系的に記述する。 コントラスト感度関数 人間の目は、あらゆる細かさの模様を等しく見分けられるわけではない。MTFで読むレンズの解像力で用いた空間周波数の概念を視覚系に適用すると、周波数ごとに知覚感度が異なることがわかる。その関係を記述するのがコントラスト感度関数(Contrast Sensitivity Function, CSF)である。 コントラスト感度とは、コントラスト閾値(模様を背景から弁別できる最小のコントラスト)の逆数だ。空間周波数を横軸、コントラスト感度を縦軸にプロットすると、

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写真の物理学 ㊸ 水中・霧中・宇宙の光

📐写真の物理学シリーズ ㊸ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 光の振る舞いは媒質によって劇的に変わる。空気中で当たり前に成り立つ前提が、水中では屈折と吸収に支配され、霧の中では散乱に飲み込まれ、宇宙空間では散乱する媒質そのものが消える。本稿では水中、霧中、宇宙空間という三つの極端な環境での光の物理を、写真撮影の実務と結びつけながら記述する。 水中での光の屈折 水の屈折率は可視光域で $n \approx 1.333$ である。空気($n \approx 1.000$)から水中に光が入射するとスネルの法則 $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ に従って屈折角が小さくなり、光線は法線方向に曲がる。 この屈折が写真撮影にもたらす影響は二つある。 画角の縮小。 空気中で焦点距離 $f$ のレンズが持つ画角を $2\alpha$ とすると、水中でフラットポート越しに撮影した場合の実効画角はおよそ

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写真の物理学 ⑦ 像倍率の関数的記述

📐写真の物理学シリーズ ⑦ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 レンズが像を結ぶことは分かった。では、被写体はセンサー上でどのくらいの大きさに写るのか。この問いに答える物理量が横倍率 $m$ である。本記事では、結像公式から横倍率を導き、撮影倍率・画角・フォーカスブリージングの物理を一貫して記述する。 横倍率の導出 横倍率(lateral magnification)は、物体の大きさに対する像の大きさの比として定義される。① 光の直進と薄肉レンズの結像で述べた通り、符号付きの定義は $$ m = -\frac{b}{a} $$ だ。負号は、実像が倒立することを反映している。カメラのセンサー上に結ばれるのは常に倒立実像であるから、写真の文脈では $m < 0$ が通常の状態だ。以下では像の大きさの比だけが問題になる場面では、倍率の絶対値 $|m|$ を単に「倍率」と呼ぶ。 結像公式 $1/f = 1/

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写真の物理学 ㊹ ディスプレイの物理学

📐写真の物理学シリーズ ㊹ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 撮った写真は最終的にディスプレイに表示される。センサーが記録した光の情報はレンズの光学と現像の数学を経てディスプレイという出口を通り人間の目に届くが、その出口の物理を知らなければ色も階調も制御できない。本稿ではLCD・OLED・量子ドットディスプレイの発光原理から色域、ガンマ、カラーマネジメント、鑑賞環境が写真の見え方に与える影響までを体系的に扱う。 加法混色の物理 ディスプレイはすべて加法混色で色を作る。赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの光を重ね合わせることで、任意の色を合成する原理だ。 加法混色の物理的根拠は、人間の網膜に3種類の錐体細胞(L錐体、M錐体、S錐体)が存在し、それぞれが異なる波長帯域に感度を持つことにある。ディスプレイのR/G/Bサブピクセルは、この3種類の錐体をそれぞれ選択的に刺激するように設計されている。 1画素は通常、R/G/Bの3つのサブピクセルで構成される。各サブピクセルの発光強度を

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写真の物理学 ㊻ 人間の眼の光学

📐写真の物理学シリーズ ㊻ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 最も身近なカメラは、あなたの頭の中にある。人間の眼は角膜と水晶体からなる光学系、虹彩による可変絞り、網膜というセンサーを備えた完成度の高い撮像装置だ。本稿ではカメラとの類似だけでなく両者の決定的な違いを明確にすることで、写真の物理学が人間の知覚にどこまで接続できるかを探る。 角膜と水晶体の光学系 人間の眼の光学系は、主に二つの屈折要素で構成されている。角膜と水晶体だ。 角膜は眼球の最前面にある透明な組織で、全屈折力の約3分の2を担う。屈折率は約1.376で、空気(屈折率1.0)との界面で大きな屈折が生じる。残りの約3分の1を水晶体が担う。水晶体の屈折率は中心部で約1.41、周辺部で約1.38と、内部で連続的に変化する勾配屈折率(GRIN: Gradient Index)構造を持つ。この構造は球面収差を自己補正する効果があり、単純な均質レンズよりも優れた結像性能をもたらす。 この二枚のレンズからなる光学系の等価焦点

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写真の物理学 ⑫ ボケの円を関数で記述する

📐写真の物理学シリーズ ⑫ このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。 合焦面から外れた被写体は、センサー上に点ではなく円として記録される。このボケの円の直径は焦点距離、F値、被写体距離の関数として決まる。本記事では、ボケ円径の厳密式を導出したうえで、口径食や球面収差がもたらす「ボケの質」の物理まで踏み込む。 合焦点と非合焦点の幾何光学的な像の違い 薄肉レンズの結像公式は次のとおりである。 $$ \frac{1}{f} = \frac{1}{d} + \frac{1}{v} $$ ここで $f$ は焦点距離、$d$ は被写体距離(レンズから被写体まで)、$v$ は像距離(レンズからセンサーまで)である。この式を $v$ について解くと、 $$ v = \frac{fd}{d - f} $$ となる。合焦距離 $d_

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