写真の物理学 ㉖ 光電効果とフォトダイオード

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写真の物理学シリーズ ㉖
このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。

デジタル写真の根幹は、光子をフォトダイオードで電子に変換する過程にある。この変換効率がノイズ、感度、ダイナミックレンジといったセンサー性能の物理的根拠を決定する。本稿では光電効果の量子論からpn接合の固体物理、BSI・積層型センサーの構造設計まで一貫して導出する。

光電効果の物理

外部光電効果とアインシュタインの光量子仮説

1887年、ヘルツが紫外線を金属に照射すると電子が放出される現象を発見した。古典的な波動理論では、光の強度を上げれば電子の運動エネルギーが増すはずだが、実験結果はそれに反していた。光の強度を上げても放出される電子の最大運動エネルギーは変わらず、光の振動数を上げると運動エネルギーが増加した。さらに、ある閾値振動数以下では、どれほど強い光を当てても電子は一切放出されなかった。

1905年、アインシュタインは、黒体放射を説明するためにプランクが導入した量子仮説(色温度と黒体放射で詳述)を拡張し、光そのものがエネルギー $E = h\nu$ を持つ粒子(光量子、のちに光子と呼ばれる)の集まりであるという仮説を提唱した。ここで $h$ はプランク定数( $6.626 \times 10^{-34}$ J·s)、 $\nu$ は電磁波としての光で導入した光の振動数である。

この仮説に基づけば、光電効果は一つの光子が一つの電子にエネルギーを渡す過程として理解できる。金属から電子を引き剥がすのに必要な最小エネルギー(仕事関数 $\phi$ )を超えた分が、放出された電子の運動エネルギーになる。

$$ E_k = h\nu - \phi $$

$E_k$ は放出された電子の最大運動エネルギーである。 $h\nu < \phi$ ならば電子は放出されない。この閾値振動数 $\nu_0 = \phi / h$ が存在することで、光の振動数(すなわち波長)に依存する閾値効果が説明される。

この説明は1921年のノーベル物理学賞の根拠となった。相対性理論ではなく、光電効果の法則の発見に対してである。

内部光電効果への接続

金属表面から電子を真空中へ叩き出す外部光電効果に対し、半導体内部で光子が電子・正孔対を生成する過程を内部光電効果と呼ぶ。デジタルカメラのイメージセンサーで起きているのは、この内部光電効果である。銀塩写真の化学で扱うハロゲン化銀フィルムも光子のエネルギーを利用して潜像を形成するが、その物理化学的過程はシリコンの光電変換とは根本的に異なる。

原理は共通している。光子のエネルギーが一定の閾値を超えると、束縛されていた電子が自由になる。外部光電効果では閾値は仕事関数 $\phi$ であり、内部光電効果では半導体のバンドギャップ $E_g$ である。

半導体の基礎

バンド構造とバンドギャップ

固体中の電子は、孤立原子のように離散的なエネルギー準位を取るのではなく、連続的なエネルギーの帯(バンド)を形成する。電子で満たされた最も高いエネルギーのバンドを価電子帯(valence band)、その上に位置する空のバンドを伝導帯(conduction band)と呼ぶ。両者の間のエネルギー差がバンドギャップ $E_g$ である。

絶対零度の半導体では、価電子帯は電子で完全に満たされ、伝導帯は空である。電子が移動できる空きがないため、電流は流れない。温度が上がると、熱エネルギーによって一部の電子が価電子帯から伝導帯へ励起され、伝導帯の電子(自由電子)と価電子帯に残された空き(正孔)の両方が電流の担い手となる。

シリコンのバンドギャップは室温(約300 K)で約1.12 eVである。光子のエネルギー $E = h\nu = hc/\lambda$ がこの値を超えれば、光子を吸収して電子・正孔対が生まれる。対応する波長の上限(カットオフ波長)は次のように求まる。

$$ \lambda_c = \frac{hc}{E_g} = \frac{6.626 \times 10^{-34} \times 3 \times 10^8}{1.12 \times 1.602 \times 10^{-19}} \approx 1110 \; \mathrm{nm} $$

すなわち、シリコンは波長約1,100 nm以下の光に対して感度を持つ。可視光(約380~700 nm)は十分にこの範囲内にあり、近赤外線(700~1,100 nm)にも応答する。見えない光が写す もうひとつの風景で述べたように、デジタルカメラがIRカットフィルターなしでは赤外線にも感度を示す理由は、まさにこのバンドギャップの値にある。

直接遷移と間接遷移

半導体には、バンドギャップが直接遷移型と間接遷移型のものがある。直接遷移型(GaAsなど)では、光子の吸収だけで電子が価電子帯から伝導帯へ遷移できる。間接遷移型(シリコン)では、遷移に際して運動量の保存を満たすためにフォノン(格子振動の量子)の関与が必要になる。

この違いは吸収係数に直接影響する。直接遷移型の半導体はバンドギャップ近傍で吸収係数が急峻に立ち上がるのに対し、シリコンのような間接遷移型では吸収係数の立ち上がりが緩やかである。シリコンが可視光を十分に吸収するには数μmの厚みが必要になるのは、この間接遷移の性質による。

フォトダイオードの動作原理

pn接合と空乏層

フォトダイオードの核はpn接合である。p型半導体(正孔が多数キャリア)とn型半導体(電子が多数キャリア)を接合すると、界面付近でキャリアが拡散・再結合し、可動キャリアがほとんど存在しない空乏層(depletion region)が形成される。空乏層には内蔵電界が生じ、p側からn側へ向かう方向に電子を、逆方向に正孔を加速する。

逆バイアス(p側に負、n側に正の電圧)を印加すると、空乏層は広がり、内蔵電界は強まる。この状態が、フォトダイオードの動作条件である。

光生成キャリアの収集

空乏層内で光子が吸収されると、電子・正孔対が生成される。生成された電子は電界によってn側へ、正孔はp側へ速やかにドリフトし、外部回路に光電流として現れる。このドリフト電流が、フォトダイオードの主要な信号源である。

空乏層の外(p領域やn領域)で生成されたキャリアも、拡散によって空乏層の端に到達すれば電界に捕捉されて光電流に寄与する。ただし、拡散過程は遅く、途中で再結合によって失われるキャリアも多い。したがって、光を空乏層内で効率よく吸収することが、高感度・高速応答の両立に不可欠となる。

イメージセンサーにおけるピンドフォトダイオード

現代のCMOSイメージセンサーでは、ピンドフォトダイオード(PPD: Pinned Photodiode)が標準的に用いられている。1982年にNECの寺西信一らによって開発されたこの構造は、表面のp⁺層(ピニング層)で表面暗電流を抑制し、完全転送によって低ノイズ・低残像を実現する。蓄積された電荷はフローティングディフュージョン(FD)へ完全に転送され、相関二重サンプリング(CDS)によってリセットノイズが除去される。

量子効率

定義と物理的決定因子

量子効率(QE: Quantum Efficiency)は、入射した光子のうち光電流に寄与する電子・正孔対を生成した割合である。

$$ \eta = \frac{\text{光電流に寄与した電子・正孔対の数}}{\text{入射光子の数}} $$

この値は複数の物理過程の積として分解できる。

$$ \eta = (1 - R) \times [1 - \exp(-\alpha d)] \times \eta_{\text{collect}} $$

第一項 $(1 - R)$ は表面反射による損失である。 $R$ は光と物質の相互作用で導出したフレネルの式が与える入射面の反射率であり、同記事で扱った薄膜干渉に基づく反射防止コーティングで低減される。

第二項 $[1 - \exp(-\alpha d)]$ は、吸収係数 $\alpha$ と活性層の厚み $d$ によって決まる光の吸収割合である。吸収が不十分であれば光子は素通りし、電子・正孔対を生まない。

第三項 $\eta_{\text{collect}}$ は、生成された電子・正孔対が再結合せずに光電流に寄与する確率である。表面再結合やバルク再結合によって失われるキャリアが多いほど、この値は低下する。

外部量子効率と内部量子効率

外部量子効率(EQE)は入射光子数を基準とした効率であり、上述の定義に対応する。内部量子効率(IQE)は、実際に吸収された光子数を基準とする。両者の関係は次のとおりである。

$$ \text{IQE} = \frac{\eta}{1 - R} $$

IQEが100%に近い場合、吸収された光子のほぼすべてが電流に変換されていることを意味する。EQEの向上には、反射損失の低減と吸収効率の改善の両方が必要である。

シリコンの分光感度特性

吸収係数の波長依存性

シリコンの吸収係数 $\alpha$ は波長に強く依存する。紫外域( $\lambda < 400$ nm)では $\alpha$ は非常に大きく( $> 10^5 \; \text{cm}^{-1}$ )、光はシリコン表面から数十nmの深さで完全に吸収される。可視光の青色域(400~500 nm)では吸収深度は約1 μm、赤色域(600~700 nm)では数μm、近赤外域(800~1,000 nm)では10 μm以上になる。

この波長依存性が、イメージセンサーの分光感度特性を決定する。紫外・青色光は表面近傍で吸収されるため、表面再結合の影響を受けやすく、QEが低下しやすい。赤色・近赤外光は深いところで吸収されるため、空乏層の厚みが不十分だと捕集効率が下がる。シリコンフォトダイオードの感度がピークを迎えるのは典型的に800~900 nm付近であり、これは吸収深度と空乏層厚のバランスが最適になる波長域に対応する。

なぜ可視光に感度があり、赤外にも感度があるか

シリコンのバンドギャップ1.12 eVは、波長約1,100 nmの光子エネルギーに相当する。可視光の光子エネルギーは1.8~3.1 eV(赤~紫)であり、バンドギャップを大きく超えている。超過分のエネルギーはフォノン放出によって格子振動(熱)として散逸し、最終的にバンドギャップ分のエネルギーだけが電子・正孔対の生成に使われる。このため、青い光子も赤い光子も、生成する電子・正孔対は1個であり、短波長の光子が余分なエネルギーを持っていても感度は上がらない。

一方、近赤外域(700~1,100 nm)の光子もバンドギャップを超えるエネルギーを持つため、シリコンは近赤外に感度がある。人間の目には見えないこの光を、センサーはそのまま検出してしまう。デジタルカメラがIRカットフィルターを必要とするのはこのためである。

星空を眺めるで触れた人間の網膜の桿体細胞が暗所で高感度を示すのと同様に、シリコンセンサーも波長ごとに異なる応答特性を持つ。ただし、人間の眼の光学で扱う生化学的な光受容体とは異なり、その物理的基盤は固体物理のバンド構造にある。

マイクロレンズアレイの光学的役割

開口率の問題

CMOSイメージセンサーの各画素には、フォトダイオードに加えてトランジスタ、配線、転送ゲートなどの回路要素が配置されている。光を検出できるのはフォトダイオードの面積だけであり、画素全体に対する光感受面積の比率を開口率(fill factor)と呼ぶ。回路要素が占有する面積のため、マイクロレンズなしの開口率は30~50%程度にとどまることがある。

画素サイズが小さくなるほど、回路要素が占める割合は相対的に増え、開口率はさらに低下する。しかし高画素化のためには画素を小さくする必要がある。この背反を解消するのがマイクロレンズアレイである。

集光の原理

各画素の上に凸レンズ(マイクロレンズ)を配置し、画素面積全体に入射した光をフォトダイオード上に集光する。これにより実効的な開口率は90%以上に向上する。マイクロレンズの焦点距離は数μm~数十μmであり、レンズ径も画素ピッチに合わせて同程度のスケールである。

マイクロレンズの設計においては、レンズを通過する光線の主光線角度(CRA: Chief Ray Angle)への対応が重要になる。レンズ周辺部では主光線が斜めに入射するため、マイクロレンズの光軸をフォトダイオードの中心からわずかにずらす(シフト設計)ことで、斜入射光も効率よく捕集する。

裏面照射型(BSI)センサーの物理

表面照射型の限界

従来の表面照射型(FSI: Front-Side Illuminated)センサーでは、光はまず配線層を通過してからフォトダイオードに到達する。多層金属配線が光路を遮り、反射や散乱を引き起こすため、特に画素サイズが小さい場合にQEが大幅に低下する。マイクロレンズによる集光でも、配線層による光量損失と、斜入射に対する光路の制限は本質的に解消されない。

FSIセンサーのQEは波長やF値に依存するが、典型的には20~60%程度にとどまる。

配線層を裏に回す

裏面照射型(BSI: Back-Side Illuminated)センサーでは、製造後にシリコン基板を数μm程度まで薄く研磨し、ウェハを反転させることで、光がフォトダイオード側から直接入射するようにする。配線層は光の入射面の反対側に位置するため、光路を遮るものがなくなる。

この構造変更により、以下の物理的改善が得られる。

  • 開口率が事実上100%に近づく。マイクロレンズと組み合わせれば、画素面積のほぼ全域で光を捕集できる
  • 斜入射に対する角度特性が改善される。FSIでは配線層のアスペクト比が高いため、斜めから入る光が配線に遮られやすいが、BSIではこの問題が生じない

結果として、BSIセンサーのQEは80%を超えることがある。止まったように見える景色の先へで述べたセンサー技術の進化において、BSIの実用化は画素微細化と高感度の両立を可能にした転換点のひとつである。

積層型センサーの構造

BSIの次のステップ

BSIセンサーは感度において大きな進歩をもたらしたが、読み出し速度の向上には別のアプローチが必要だった。従来のBSIセンサーでは、画素アレイとロジック回路(ADC、信号処理回路)が同一の半導体基板上に形成されていた。画素領域を広く取ればロジック領域が狭くなり、高速処理に必要な回路面積が確保できない。

積層型(Stacked)センサーは、画素アレイとロジック回路を別々のウェハに形成し、Cu-Cu(銅-銅)接合などの技術で物理的に貼り合わせる構造である。画素層の真下にロジック層が重なるため、画素面積を犠牲にすることなく大規模な処理回路を搭載できる。

高速読み出しとグローバルシャッターへの道

積層型の構造的利点は、画素からの信号をロジック層のADCへ極めて短い経路で伝送できることにある。列並列ADCやさらに高度な画素並列ADCを配置することで、読み出し速度は飛躍的に向上する。

ソニーのα9(2017年)は積層型CMOSセンサーにDRAM層を加えた3層構造を採用し、メカシャッターなしで20コマ/秒の連写とブラックアウトフリーの撮影を実現した。センサーから読み出されたデータを一時的にDRAMに蓄え、画像処理エンジンへの転送を並列化することで、ローリングシャッター歪みを実用上無視できるレベルまで低減した。

さらに発展した形が、積層型BSIセンサーにグローバルシャッター機能を組み込んだ設計である。グローバルシャッターは、すべての画素の露光を同時に開始・終了する方式であり、シャッターの物理学で定量的に扱ったローリングシャッターに起因する動体歪みを原理的に排除する。各画素に蓄積用のメモリを設ける必要があるが、積層型ならばメモリをロジック層に配置できるため、画素サイズを大きく犠牲にせずに実装が可能になる。ソニーは2019年にBSI構造にグローバルシャッター機能を統合した2.74 μm画素のCMOSイメージセンサー技術を発表し、α9 III(2023年)でフルサイズミラーレスカメラとして初のグローバルシャッター搭載機となった。

フォトダイオードの飽和とウェルキャパシティ

蓄積電荷の上限

フォトダイオードに光が当たり続けると、生成された電子が蓄積されていく。しかし、蓄積できる電荷量には上限がある。この上限をフルウェルキャパシティ(FWC: Full Well Capacity)と呼ぶ。フォトダイオードの空乏層のキャパシタンスと逆バイアス電圧によって決まる物理量であり、単位は電子数(e⁻)で表される。

FWCを超える光が入射すると、余剰の電子は隣接画素へ漏れ出し(ブルーミング)、あるいは飽和して信号が頭打ちになる(クリッピング)。白飛びとして知られる現象の物理的な正体は、このフォトダイオードの飽和である。

ダイナミックレンジとの関係

ダイナミックレンジ(DR)は、センサーが検出できる最大信号と最小信号の比として定義される。

$$ \text{DR} = 20 \log_{10} \frac{\text{FWC}}{N_{\text{read}}} \quad [\text{dB}] $$

$N_{\text{read}}$ は読み出しノイズ(電子数換算)である。白い壁に近づいても露出が変わらない物理学的理由で扱った露光と信号の関係を踏まえれば、FWCが大きいほど明るい側のヘッドルームが広がり、読み出しノイズが小さいほど暗い側の検出限界が下がる。この比の物理的意味とADCのビット深度との関係はダイナミックレンジとビット深度で詳しく論じる。

センサーサイズと換算焦点距離の正体で論じたように、画素サイズが大きいほどフォトダイオードの面積が広く、ウェルキャパシティは大きくなる傾向がある。これが、大型センサーが高いダイナミックレンジを持つ物理的な理由のひとつである。まぶたの裏に残る灰色の光で触れた暗電流もまた、ウェルキャパシティの一部を消費するため、長時間露光ではダイナミックレンジが実効的に低下する。この暗電流と露光時間の関係は露出の統合と逆数則で定量的に扱っている。

CCDとCMOSの読み出し方式の物理的違い

CCDの電荷転送方式

CCD(Charge Coupled Device)は、フォトダイオードで生成された電荷を画素間で順次転送し、チップ端の出力ノードで電圧に変換する方式である。

転送の原理はバケツリレーに似ている。各画素の下に配置されたポリシリコンゲートに順次クロック電圧を印加し、電荷のポテンシャル井戸を隣接画素へ移動させる。電荷は行ごとに垂直方向へ転送され(垂直シフトレジスタ)、行の端に到達した後、水平方向へ転送されて(水平シフトレジスタ)出力アンプに至る。

CCDの利点は、すべての画素が同一の出力アンプを通過するため、画素間の応答ばらつき(ノイズの物理学で詳述する固定パターンノイズ)が本質的に小さいことである。また、電荷転送効率(CTE)が99.999%を超えるレベルで達成されており、転送損失はほとんどない。

一方、すべての電荷を直列に読み出す構造は本質的に低速である。高画素化に伴って読み出し時間は線形に増加し、高フレームレートの実現が困難になる。また、電荷転送中に強い光が入射するとスミアと呼ばれる縦方向のにじみが発生する。

CMOSの画素内増幅方式

CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサーでは、各画素にトランジスタ(通常3~4個)が配置され、フォトダイオードで生成された電荷を画素内で電圧に変換する。変換された電圧信号は列ごとに配置されたADCで並列にデジタル化される。

この方式の利点は読み出し速度にある。列並列のADCは、CCDの直列読み出しに比べて桁違いに高速であり、高画素のセンサーでも高フレームレートが実現できる。消費電力も低く、大規模な信号処理回路をチップ上に統合できるため、システム全体のコストと実装面積を削減できる。

歴史的には、CMOSセンサーは画素ごとのトランジスタ特性のばらつきに起因する固定パターンノイズが課題であった。しかし、ピンドフォトダイオードと相関二重サンプリングの導入、製造プロセスの成熟によって、この問題は大幅に改善された。現在では読み出しノイズにおいてもCCDと同等かそれ以上の性能に達しており、CCDからCMOSへの移行はイメージセンサー市場全体でほぼ完了している。

まとめ

光子がフォトダイオードで電子に変わる過程は、アインシュタインの光量子仮説を出発点とし、半導体のバンド構造を経て、pn接合の電荷分離に至る一本の物理の筋道で記述できる。量子効率はその変換効率を定量化する指標であり、反射損失、吸収効率、キャリア収集効率の積として理解される。

シリコンのバンドギャップが1.12 eVであるという一つの事実から、可視光への感度、近赤外への応答、約1,100 nmでのカットオフ波長が導かれる。マイクロレンズアレイは画素構造の幾何学的制約を光学的に補償し、BSIはその制約そのものを構造的に排除した。積層型センサーは機能分離による高速化の道を開き、画素サイズを犠牲にしないグローバルシャッターの実装を可能にした。

CCDからCMOSへの移行は、電荷転送から画素内増幅へという読み出し方式の転換であり、高速性・低消費電力・集積性においてCMOSが優位に立った結果である。

次回以降は、ベイヤー配列とデモザイキングの数学で色の分離と復元を、ダイナミックレンジとビット深度でADC変換と信号のデジタル化を、ノイズの物理学でノイズの統計的性質を扱う。

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Capture Oneに待望のネガフィルム変換機能が来た

2026年4月3日、Capture One 16.7.4 がリリースされた。目玉はなんといっても Negative Film Conversion(ネガフィルム変換) の搭載だ。これまで Cultural Heritage エディション限定だったネガ反転処理が、ついに通常の Capture One Pro / Studio でも使えるようになった。 何が変わったのか 従来、Capture One でネガフィルムをポジに変換するには、Cultural Heritage(CH)エディションを使う必要があった。CH は文化財デジタル化向けの専用製品で、Base Characteristics ツールに Film Negative / Film Positive モードが用意されていた。しかし一般の写真愛好家がフィルムスキャンのためだけに CH を導入するのは現実的ではなく、多くのユーザーは Lightroom とそのプラグイン(Negative Lab

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