写真の物理学 ⑨ シャッターの物理学
このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。
シャッターは露光時間を制御する、それだけの装置に見える。しかし動作原理を物理的に追えば、フラッシュ同調速度の限界、ローリングシャッター歪み、シャッターショックといった現象が、すべてシャッター幕の構造から必然的に生じることが分かる。本記事では、メカニカルシャッターと電子シャッターの動作を幾何学と時間の観点から記述する。
フォーカルプレーンシャッターの構造
現代のミラーレスカメラおよび一眼レフカメラの大多数は、フォーカルプレーンシャッター(focal-plane shutter)を採用している。センサー(またはフィルム)の直前に配置された二枚の遮光幕で露光を制御する方式だ。
二枚の幕は先幕(first curtain)と後幕(second curtain)と呼ばれる。35mm判のカメラでは、金属製のブレードが上下方向(短辺方向)に走行する縦走りフォーカルプレーンシャッターが主流である。走行距離が短辺方向の約24mmで済むため、長辺方向に走行する横走り方式(約36mm)より高速化に有利だ。
露光シーケンスは次の通りである。
- 撮影前、先幕がセンサー全面を覆っている
- シャッターボタンを押すと、先幕がセンサー上端から下端へ走行し、センサーを順次露出する
- 設定した露光時間の後、後幕が同じ方向(上端から下端へ)走行し、センサーを順次遮光する
- 露光完了後、両幕がチャージ位置に戻る
ここで重要なのは、先幕と後幕が同じ方向に走行するという点だ。先幕がセンサーを開いていき、後幕がそれを追いかけるように閉じていく。二枚の幕の間に形成される開口部が、センサー面を上から下へ掃引していく。
スリット幅と有効露光時間の幾何学
シャッターの物理を定量的に記述する。幕走行時間を $T_c$ とする。これは先幕(または後幕)がセンサーの上端から下端まで走行するのに要する時間であり、現代のカメラでは概ね3〜5ms程度だ。
設定したシャッタースピード $SS$ が幕走行時間 $T_c$ より長い場合、先幕が走行を完了した後、後幕が走行を開始するまでに時間的な余裕がある。このとき、センサー全面が同時に露光される瞬間が存在する。
一方、$SS < T_c$ の場合、先幕が走行を完了する前に後幕が走行を開始する。センサー全面が同時に露光される瞬間は存在せず、二枚の幕の間に形成されるスリットがセンサー面を掃引する。
スリット幅 $w$ は、センサーの短辺長を $H$ として次式で与えられる。
$$ w = H \cdot \frac{SS}{T_c} $$
$SS = T_c$ のとき $w = H$ であり、スリットはセンサーの全高に等しい。$SS$ が $T_c$ より短くなるほどスリットは狭くなる。
有効露光時間
センサー上の各行が実際に受ける露光時間は、設定したシャッタースピード $SS$ に等しい。これはスリットが存在する場合でも変わらない。スリットの各部分がセンサー上の各行を通過する時間が $SS$ だからだ。
ただし、センサーの各行は異なる時刻に露光される。センサー上端の行が最初に露光を開始し、下端の行が最後に露光を完了する。上端の行と下端の行の露光開始時刻の差は幕走行時間 $T_c$ に等しい。
この時間差は、通常の静止被写体の撮影では問題にならない。しかし高速に移動する被写体や、ストロボとの同調において本質的な制約を生む。
X同調速度の物理的制約
ストロボの閃光時間は極めて短い(IGBTカットオフ方式では1/1000秒以下が一般的)。ストロボが発光した瞬間、センサー全面が露光されていなければ、遮光された部分に光が届かず、画面に暗い帯が生じる。
センサー全面が同時に露光されるためには、先幕が走行を完了してから後幕が走行を開始するまでの間にストロボが発光する必要がある。この条件が成立する最速のシャッタースピードがX同調速度(X-sync speed)だ。
X同調速度は、幕走行時間 $T_c$ に等しい。
$$ SS_{\text{sync}} = T_c $$
$SS = T_c$ のとき、先幕が走行を完了した直後に後幕が走行を開始する。この瞬間にセンサー全面が露光されている時間はゼロに近いが、先幕走行完了のタイミングでシンクロ接点が閉じてストロボが発光すれば、閃光時間が十分に短い限り、全面に光が届く。
現代のフルサイズミラーレスカメラでは $T_c \approx 4\text{ms}$ 前後であり、X同調速度は1/200秒から1/250秒程度になる。幕走行時間を短縮すればX同調速度を上げられるが、高速走行に伴う振動・衝撃・機械的耐久性の問題がある。現在の1/200〜1/250秒という値は、これらの制約の均衡点だ。
X同調速度を超えるシャッタースピードでストロボを使用しようとすると、スリットによって遮光された部分が暗くなる。スタジオ撮影における露光ムラの原因と対策で詳しく分析したように、スタジオストロボのように閃光テールが長い光源では、X同調速度ちょうどの設定でさえ、後幕走行中のテール遮断によって露光ムラが発生しうる。
ハイスピードシンクロ(HSS/FP発光)
この物理的制約を回避する方法として、ハイスピードシンクロ(HSS)がある。HSSではストロボを一回の閃光ではなく、高周波で連続的にパルス発光させる。スリットがセンサー面を掃引する間、絶え間なく光を照射し続けることで、擬似的に定常光のように振る舞わせる。
HSSの代償は光量の低下だ。通常発光では蓄えたエネルギーを一瞬で放出するが、HSSではスリットの掃引時間にわたって光を分散させるため、各行が受け取る光量は大幅に減少する。写真の物理学 ⑲ 逆二乗則とガイドナンバーの物理学で定義したガイドナンバーは概ね1/2〜1/3程度に低下する。この光量低下の定量的導出は写真の物理学 ㉑ ハイスピードシンクロとフラッシュ同調の物理で扱う。
レンズシャッター(セントラルシャッター)
フォーカルプレーンシャッターとは構造が根本的に異なるシャッターが存在する。レンズシャッター(leaf shutter)、またはセントラルシャッター(central shutter)だ。レンズ鏡筒内部の絞り付近に配置された複数の薄い金属羽根が、虹彩のように中心から開閉する。
レンズシャッターの最大の特徴は、開口が中心から同心円状に広がり、同心円状に閉じることだ。すべてのシャッタースピードにおいて、センサー全面(厳密にはレンズを通る光束全体)がほぼ同時に開閉される。
この構造上の特性から、レンズシャッターは全速同調が可能になる。スリットが存在しないため、どのシャッタースピードでもストロボの発光タイミングにセンサー全面が露光されている。中判カメラの一部(Phase Oneなど)やコンパクトカメラで採用されているのは、この全速同調の利点が大きいからだ。
一方、レンズシャッターには物理的な制約がある。羽根は中心から外周へ移動して開くため、外周部ほど移動距離が長い。高速シャッターでは羽根が完全に開ききる前に閉じ始めるため、レンズの周辺部を通る光線が遮断される。これにより実効的な開口が小さくなり、周辺光量が低下する。最高シャッタースピードは1/500秒から1/2000秒程度に制限されるのが一般的だ。
電子シャッター
グローバルシャッター
グローバルシャッター(global shutter)は、センサーのすべての画素が同時に露光を開始し、同時に露光を終了する方式だ。各画素にアナログメモリが内蔵されており、露光終了後に蓄積した電荷を保持したまま、順次デジタル変換される。
物理的な動作は概念的に単純だ。
- 全画素が同時にリセットされる
- 設定した露光時間だけ全画素が同時に光を蓄積する
- 全画素が同時に蓄積を停止し、電荷をアナログメモリに転送する
- 各行が順次読み出される(この間、アナログメモリが電荷を保持)
グローバルシャッターはレンズシャッターと同様に、センサー全面が同じ時刻に露光されるため、動体歪みが原理的に発生しない。また機械的な可動部がないため、シャッターショックもゼロだ。さらに、全画素が同時に露光されているため、フラッシュとの全速同調も可能になる。
ただし、各画素にアナログメモリを内蔵する必要があるため、受光面積が犠牲になる。受光面積の減少は量子効率(入射光子のうち電荷に変換される割合)の低下を意味し、ノイズ特性や、写真の物理学 ㉘ ダイナミックレンジとビット深度で定義するダイナミックレンジに影響する。写真の物理学 ㉖ 光電効果とフォトダイオードで述べる裏面照射型(BSI)技術や積層型センサーの進歩により、この制約は大幅に緩和されつつある。
ローリングシャッター
ローリングシャッター(rolling shutter)は、センサーの各行を上から下へ順次露光・読み出しする方式だ。現在のほとんどのCMOSセンサーがこの方式を採用している。
動作を時系列で記述する。
- 第1行がリセットされ、露光を開始する
- 一定の遅延後、第2行がリセットされ、露光を開始する
- この過程が最終行まで順次繰り返される
- 各行は露光開始からシャッタースピード分の時間が経過した後、順次読み出される
第1行と最終行の露光開始時刻の差を読み出し時間(readout time) $T_r$ と呼ぶ。現代のミラーレスカメラでは $T_r$ は概ね10〜30ms程度だ。メカニカルシャッターの幕走行時間 $T_c$(3〜5ms)と比べて数倍から一桁長い。
この長い読み出し時間が、ローリングシャッター特有の歪みを引き起こす。
ローリングシャッター歪みの幾何学的導出
ローリングシャッターで高速に移動する被写体を撮影すると、被写体が傾いたり、歪んで写る現象が生じる。これがローリングシャッター歪み(rolling shutter distortion)、俗にゼリー効果(jello effect)と呼ばれる現象だ。
直線的な等速運動の場合
光軸に垂直な方向に速度 $v$ で等速運動する被写体を考える。センサー上の行 $y$($y = 0$ が上端、$y = H$ が下端)の露光開始時刻は
$$ t(y) = \frac{y}{H} \cdot T_r $$
だ。時刻 $t(y)$ における被写体のセンサー上での像の水平位置は
$$ x(y) = \frac{f \cdot v}{d} \cdot t(y) = \frac{f \cdot v}{d} \cdot \frac{y}{H} \cdot T_r $$
で与えられる。ここで $f$ は焦点距離、$d$ は撮影距離であり、比 $f/d$ は写真の物理学 ⑦ 像倍率の関数的記述で導出した横倍率 $|m| = f/(a-f)$ の遠距離近似に対応する。
$x(y)$ は $y$ の一次関数であるから、被写体の垂直な辺はセンサー上で傾いた直線として記録される。傾き角 $\phi$ は
$$ \tan\phi = \frac{\Delta x}{\Delta y} = \frac{f \cdot v \cdot T_r}{d \cdot H} $$
で求められる。
計算例
焦点距離 $f = 50\text{mm}$、撮影距離 $d = 5\text{m}$、被写体速度 $v = 30\text{m/s}$(時速108km)、センサー短辺 $H = 24\text{mm}$、読み出し時間 $T_r = 15\text{ms}$ の場合
$$ \Delta x = \frac{50 \times 30}{5000} \times 15 = 4.5\text{mm} $$
センサー短辺24mmに対して4.5mmの水平ずれが生じる。これはセンサー短辺の約19%に相当し、高速に通過する車両が明確に傾斜して写る程度の歪みだ。
回転運動の場合
プロペラやファンのように回転する被写体では、各行の露光時刻が異なるため、回転角度が行ごとにずれる。直線的な羽根が湾曲して記録される。これが航空機のプロペラがグニャリと曲がって写る現象の正体だ。
角速度 $\omega$ で回転する物体の場合、上端と下端での回転角度の差は $\Delta\theta = \omega \cdot T_r$ になる。高速回転するプロペラ(例えば2000 rpm = 約209 rad/s)で $T_r = 15\text{ms}$ なら、$\Delta \theta \approx 3.1\text{rad} \approx 180°$ に達する。1/2回転分のずれが生じるため、プロペラが大きく湾曲して写る。
メカニカルシャッターとの比較
フォーカルプレーンシャッターもセンサーの各行を異なる時刻に露光するため、原理的にはローリングシャッターと同種の歪みが発生する。しかし幕走行時間 $T_c$ が3〜5msであるのに対し、電子ローリングシャッターの読み出し時間 $T_r$ は10〜30msと数倍長い。歪みの大きさは掃引時間に正比例するため、電子シャッターの方が歪みが顕著になる。
シャッターショックの物理
メカニカルシャッターは高速で金属ブレードを走行・停止させるため、走行開始時と停止時に衝撃が発生する。この衝撃がカメラボディに伝わり、露光中にカメラ全体を微小に振動させる現象がシャッターショック(shutter shock)だ。
振動の発生メカニズム
シャッターブレードの質量を $m$、走行速度を $v_s$ とする。走行開始時にブレードが加速され、走行完了時に急停止する。停止時の衝撃力は、運動量変化 $m \cdot v_s$ を停止に要する時間 $\Delta t_{\text{stop}}$ で割った値に比例する。
$$ F_{\text{impact}} \sim \frac{m \cdot v_s}{\Delta t_{\text{stop}}} $$
現代のフォーカルプレーンシャッターでは、幕走行速度は概ね5〜8 m/s程度であり、急停止時にカメラボディに短時間の衝撃力が加わる。この衝撃がボディの固有振動を励起し、減衰振動として露光に影響する。
問題が顕在化する条件
シャッターショックが画質に影響するかどうかは、振動の振幅が写真の物理学 ⑪ 被写界深度の厳密な導出で定義したセンサー上の許容錯乱円径を超えるかどうかで決まる。
振動が問題になりやすい条件は以下の通りだ。
- 高画素機: 画素ピッチが小さいほど、微小な振動がピクセルレベルで影響する
- 特定のシャッタースピード帯: シャッターの固有振動周波数と露光時間の関係で、1/60秒〜1/250秒前後で問題が顕著になることが多い。極端に短い露光時間(1/1000秒以下)では振動が発生する前に露光が完了し、長い露光時間(1秒以上)では振動が全露光時間に対して十分に減衰するため、影響が相対的に小さくなる
- 三脚使用時: 手持ち撮影では人体が振動を吸収するが、三脚は剛体に近いため振動が減衰しにくい
電子先幕シャッター(EFCS)による緩和
電子先幕シャッター(Electronic Front-Curtain Shutter, EFCS)は、先幕の動作を電子的なリセットに置き換え、後幕のみメカニカルに走行させる方式だ。先幕の走行による衝撃が除去されるため、露光開始時のシャッターショックが発生しない。
ただし後幕の走行による衝撃は残る。通常、先幕の衝撃(露光開始時)が画質への影響が大きい。なぜなら、先幕の衝撃で励起された振動が露光中に持続するのに対し、後幕の衝撃は露光完了時に発生するため、すでに記録が終わった後だからだ。
完全な電子シャッター(先幕・後幕とも電子式)を使用すれば、機械的な振動はゼロになる。シャッターショックに関しては、電子シャッターが物理的に最良の解だ。
シャッター速度と被写体ブレの計算
シャッターの本質的な役割は写真の物理学 ⑩ 露出の統合と逆数則で体系化した露光時間の制御であり、露光時間は被写体ブレを決定する。ストロボで動きが止まる物理的根拠と限界で導いた像移動量の式を、シャッタースピードに適用する。
光軸に垂直に速度 $v$ で移動する被写体を、焦点距離 $f$、撮影距離 $d$ で撮影するとき、シャッタースピード $SS$ の間にセンサー上で像が移動する距離は
$$ \Delta x = \frac{f \cdot v}{d} \cdot SS $$
この $\Delta x$ が許容錯乱円径 $c$(フルサイズで一般的に約30μm)を超えると、ブレとして知覚される。ブレが許容範囲に収まる条件は
$$ SS < \frac{c \cdot d}{f \cdot v} $$
計算例
焦点距離85mm、撮影距離5m、被写体速度1.5 m/s(歩行)、許容錯乱円30μmの場合
$$ SS_{\text{max}} = \frac{0.03 \times 5000}{85 \times 1.5} = 1.18\text{ms} \approx 1/850\text{s} $$
歩行する被写体を85mmで撮影する場合、ブレを許容範囲に収めるには1/850秒以上のシャッタースピードが必要になる。
被写体速度8 m/s(全力疾走)の場合は
$$ SS_{\text{max}} = \frac{0.03 \times 5000}{85 \times 8} = 0.221\text{ms} \approx 1/4500\text{s} $$
となり、1/4500秒以上が要求される。このような高速シャッターが必要な場面では、十分な光量を確保するために写真の物理学 ㉙ ノイズの物理学で述べるSNRの低下を許容してISO感度を上げるか、写真の物理学 ⑧ 絞りと有効口径の物理的意味で述べた大口径レンズを使うか、ストロボの閃光時間に依存するかの選択を迫られる。
まとめ
シャッターの物理学は、露光時間の制御という単純な目的の背後に、多くの物理的制約が絡み合っていることを示している。
フォーカルプレーンシャッターのスリット走行は、X同調速度の上限を幕走行時間に拘束する。レンズシャッターは全速同調を実現するが、最高シャッタースピードに制限がある。電子ローリングシャッターは読み出し時間の長さに比例した動体歪みを生む。グローバルシャッターはこれらの制約を原理的に解消するが、受光面積とのトレードオフが存在する。
シャッターショックはメカニカルシャッターの運動量変化に起因する避けがたい物理現象であり、電子シャッターへの移行によってのみ根本的に解消される。止まったように見える景色の先へで触れた計算写真の進化は、こうしたメカニカルな制約からの解放という文脈でも理解できる。
被写体ブレの定量計算は、シャッタースピードの選択が焦点距離、撮影距離、被写体速度の三要素で決まることを示す。動画撮影においては、写真の物理学 ㊱ フレームレートと運動知覚で論じるフレームレートの選択と連動し、被写体ブレの制御が写真の物理学 ㊲ シャッターアングルとモーションブラーで扱うシャッターアングルの概念と直結する。これらの変数を意識的に制御することが、意図した表現につながる。