光と写真

Light behaves in ways worth understanding. These entries trace the physics of a flash, the chemistry of film, the geometry of a softbox. Some are technical. Others ask why we bother to photograph anything at all.

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写真のしくみ ㉖ 銀の粒が光をとらえるフィルムのふしぎ

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 デジタルカメラのなかには「センサー」と呼ばれる電子部品が入っていて、光を電気信号に変えて写真をつくります。では、デジタルカメラが生まれるずっと前、人々はどうやって写真を撮っていたのでしょうか。 答えは「フィルム」です。 フィルムは、うすいプラスチックのシートに特別な「塗りもの」をほどこしたもの。この塗りものの正体が、今回の主役、銀(ぎん)の化合物です。銀といえば、アクセサリーや食器に使われるあのピカピカした金属ですよね。じつはこの銀は、特定の元素と組み合わさって化合物になると、光に出会ったときにちょっとふしぎな変身をする性質をもっています。写真の歴史は、この銀の化合物の「光に弱い」性質を人間がうまく利用したところから始まりました。 フィルムの表面にあるもの フィルムの表面を顕微鏡でのぞくと、ゼリーのような透明な層のなかに、ものすごく小さなつぶつぶが無数にちらばっているのが見えます。この「つぶつぶ」の正体が ハロゲン化銀 と

By Sakashita Yasunobu

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写真のしくみ ㉞ 映画の色はなぜ独特に見えるのか カラーグレーディングの基本

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 映画館で映画を観ていて、「なんだかふだんの景色とちがう色だな」と感じたことはありませんか。夜のシーンが青っぽかったり、砂漠のシーンがやけにオレンジだったり。じつはあの色は、カメラが勝手につけたものでも、照明だけで作ったものでもありません。撮影が終わったあとに、人の手で わざと 変えられているのです。 この回では、映画の色を操る カラーグレーディング という工程の世界をのぞいてみましょう。 映画の色は「ウソ」からはじまる 写真を撮ったあと、明るさや色味を調整することがありますよね。スマホの写真アプリでフィルターをかけるのもそのひとつです。映画の世界では、これをもっと大がかりに、もっと繊細に、もっと徹底的にやります。それが カラーグレーディング と呼ばれる工程です。 カラーグレーディングは、映画やドラマ、ミュージックビデオなど、ほぼすべてのプロの映像作品に施されています。グレーディングの前と後では、まるで別の作品のように印象が

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写真のしくみ ㉙ トーンカーブで写真の印象を自在に変える

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 写真を見て、「この写真、なんかカッコいいな」とか「ふんわりしていて気持ちいいな」と感じたこと、ありませんか? 同じ場所で、同じカメラで撮ったはずなのに、誰かの写真はドラマチックで、自分の写真はなんだかパッとしない。そんな経験をしたことがある人もいるかもしれません。実は、その「なんか違う」の正体のひとつが、今回のテーマ 「トーンカーブ」 です。 名前はちょっとむずかしそうですが、やっていることはとてもシンプル。この記事を読み終わるころには、「なるほど、そういうことか!」と思ってもらえるはずです。 写真の「トーン」って何だろう カメラで写真を撮ると、真っ黒から真っ白まで、さまざまな明るさが写ります。木の幹の暗い影、空に浮かぶ雲の白、その間にある何段階もの灰色。この 明るさのグラデーション のことを、写真の世界では 「トーン」 と呼びます。 ピアノの鍵盤を想像してみてください。

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写真のしくみ ㉜ 動画が動いて見える理由とフレームレートのしくみ

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 パラパラ漫画で遊んだことはありますか? 教科書やノートのすみっこに、ちょっとずつ違う絵を描いて、パラパラッとめくる。棒人間が走ったり、ボールが飛んだり。きっとだれでも一度はやったことがあるのではないでしょうか。 このパラパラ漫画、じつはとんでもない発明の出発点です。映画も、テレビも、YouTubeも、TikTokも、スマホで撮る動画も、原理はぜんぶ同じ。「止まった絵を何枚もすばやく見せると、動いて見える」。たったこれだけのしくみで、世界中の映像はできています。 でも、ちょっと待ってください。止まった絵が「動いて見える」って、よく考えたら不思議だと思いませんか? 実はそのひみつ、カメラの中ではなく、きみの脳の中にあります。 きみの脳がだまされている パラパラ漫画が動いて見えるのは、きみの目と脳がチームプレーをしているからです。ふたつのすごい働きが関係しています。 働きその1「残像」 暗い部屋で懐中電灯をぐるぐる回す

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写真のしくみ ㉘ 赤い光の暗室でフィルムが写真になるまで

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 みなさんは「暗室」を見たことがありますか。映画やドラマで、赤い光がぼんやり灯った薄暗い部屋に、ロープのようなものに写真がぶらさがっている場面。お皿のような容器の中に浸した紙に、すうっと写真が浮かび上がってくる、あの不思議な光景です。 あの部屋の中では、いったい何が起きているのでしょうか。今回は、フィルムに閉じ込められた「目に見えない像」が化学の力で姿を現し、一枚の写真になるまでの冒険を追いかけます。 なぜ暗室は「赤い」のか 写真の暗室といえば、赤い光。まずはこの疑問から始めましょう。そもそも、わざわざ赤い光で照らす必要があるのでしょうか。ふつうの電気をつけたらダメなのでしょうか。 この疑問を解くには、「感光材料が何色の光に反応するか」を知る必要があります。 白黒写真のプリント(焼き付け)に使う印画紙(いんがし)という特別な紙には、光に反応して変化するハロゲン化銀(ハロゲンかぎん)という物質が塗られています。この印画紙のハ

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写真のしくみ ⑰ 光が遠くで暗くなる理由とストロボが届ける一瞬の光

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 夜道で懐中電灯を持って歩いたことはありませんか。足元はしっかり明るいのに、10メートル先を照らそうとすると、ぼんやりとしか見えません。「電池が弱いのかな?」と思うかもしれませんが、電池は関係ありません。光そのものに、離れれば離れるほど弱くなるという性質があるのです。 この回では、その「光が弱くなるルール」を知り、そのルールを逆手にとって暗い場所でも写真を撮れるようにする道具、ストロボ(フラッシュ)のしくみを見ていきましょう。 懐中電灯を遠くに向けると暗くなるのはなぜ? 懐中電灯の光は、まっすぐ一本の線のように飛んでいくわけではありません。スイッチを入れた瞬間から、光は少しずつ広がりながら進んでいきます。 壁に懐中電灯を向けてみるとわかりやすいでしょう。壁に近づけると、小さくて明るい丸ができます。壁から離れると、丸はどんどん大きくなりますが、そのぶん明るさは落ちていきます。 これは、光の「量」が増えたり減ったりしているわけ

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写真のしくみ ① 光の直進が影とカメラを生んだ

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 写真の旅の出発点は「光」です。カメラがなくても、レンズがなくても、光のふるまいさえわかれば「写真が写るしくみ」の半分はもう手に入ったようなもの。この第1回では、光がもつとてもシンプルな性質、まっすぐ進む ということだけを手がかりに、影のできかた、そして世界最古のカメラ「ピンホールカメラ」の原理まで一気にたどりつきます。 光はまっすぐ進む 暗い部屋で懐中電灯をつけてみましょう。スイッチを入れた瞬間、光の筋がまっすぐに壁へ届きます。横へ曲がったり、途中でUターンしたりはしません。 これは「光の直進」とよばれる性質で、理科の教科書では最初のほうに出てくるおなじみのルールです。ふだんは意識しないかもしれませんが、この「まっすぐ」という事実が、これから先のレンズの話も、カメラの話も、写真の話も、ぜんぶ支えています。いわば写真の世界の土台中の土台です。 たとえば、夜の校庭で友だちが遠くから懐中電灯をこちらに向けたら、光はまっすぐ飛んで

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写真のしくみ ㉕ 暗い写真がザラつく理由とノイズの正体

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 夜の街を撮った写真、薄暗い部屋で撮った友だちの写真。あとからスマホやパソコンで拡大してみると、なんだかザラザラしていることがあります。このザラザラの正体が ノイズ です。ノイズはなぜ生まれるのか、どうすれば減らせるのか。今回はその秘密をとことん追いかけてみましょう。 暗い写真がザラザラする 暗い場所で撮った写真を思いきり拡大してみてください。本来なめらかなはずの空や壁に、赤や青や緑のつぶつぶが浮いているのが見えるはずです。 ノイズは英語で「雑音」という意味です。音楽を聴いているときにまじるザーッという雑音と、写真のザラザラは、名前だけでなく原理もよく似ています。どちらも、「本来の信号に対して、いらない情報がまじってしまう」現象だからです。 では、どうしてデジタル写真にノイズが出るのでしょう? それを知るには、まずカメラのセンサーがどうやって光を記録しているかを思い出す必要があります。 光の粒をかぞえる仕事 デジタルカ

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写真のしくみ ⑤ レンズが世界をひっくり返す理由とボケの正体

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 カメラの中では、世界がひっくり返っています。 いきなり何を言い出すんだ、と思うかもしれません。でもこれは本当の話です。カメラのレンズを通って中に入ってきた光は、上下も左右も入れ替わった像をつくります。あなたの顔を撮った瞬間、カメラの中ではあなたの顔はさかさまになっているのです。 なぜそんなことが起きるのでしょう。今回は虫めがね1枚と白い紙を使って、その秘密を一緒に解き明かしていきましょう。 虫めがねで「逆さまの世界」を映してみよう 🔍やってみよう! 虫めがねと白い紙を1枚ずつ用意しましょう。晴れた日に窓のそばに行き、片手で虫めがねを持って、もう片方の手で白い紙をかざします。虫めがねと紙のあいだの距離をゆっくり変えてみてください。あるところで、窓の外の景色が紙の上にくっきり映る瞬間があります。 うまく映りましたか。よく観察してみてください。紙に映った景色は逆さまになっているはずです。 木は下に向かって生え、空は足元に広

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写真のしくみ ㉛ 白飛びを救うHDRとトーンマッピング

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 窓の外は真っ白、部屋の中は真っ暗 教室で友だちの写真を撮ろうとしたこと、ありますか。 友だちの顔がきれいに写るように明るさを合わせると、窓の外が真っ白にぶっ飛ぶ。逆に、窓の外の景色をきれいに撮ろうとすると、友だちが真っ暗なシルエットになる。目で見ると、友だちの顔も窓の外もどっちもちゃんと見えているのに、カメラで撮るとどちらかが犠牲になる。なんでこうなるのでしょう。 答えは、カメラの「目」は、人間の目ほど明暗の差に対応できないから。 カメラが一度に記録できる「いちばん暗いところ」から「いちばん明るいところ」までの幅には限界があります。この幅のことを、写真の世界ではダイナミックレンジと呼びます。そして今回の主役、HDRは、このダイナミックレンジの限界を乗りこえるための知恵です。 ダイナミックレンジは「バケツの大きさ」 ダイナミックレンジをたとえるなら、バケツの大きさです。 小さなバケツでは、少し水を入れただけであふれて

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写真のしくみ ⑱ 影でわかるやわらかい光とかたい光

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 影がくっきりする日もあれば、ぼんやり消えてしまう日もある。同じ自分なのに、どうして影がこんなに変わるのでしょう。その答えは、光の「かたさ」にあります。今回は影を手がかりにして、写真撮影でとても大切な概念、「やわらかい光」と「かたい光」のちがいとその正体に迫ります。 きみの影で遊んでみよう 晴れた日の昼休み、校庭に立ってみてください。足元を見ると、くっきりとした自分の影がうつっています。輪郭がはっきりしていて、指を広げれば指のかたちまで影にちゃんと見えます。 では、曇りの日はどうでしょう。同じ場所に立っても、影はぼんやり薄くて、よく見ないとどこにあるかわからないくらいです。 同じ「自分」なのに、影がこんなにちがう。この差を生んでいるのは、光のかたさです。今回は、影を手がかりにして、光の正体にせまっていきましょう。 かたい光 晴れた日の太陽が照らす光を、写真の世界ではかたい光(ハードライト)と呼びます。 かたい光がつく

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写真のしくみ ㉓ 光を電気に変えるイメージセンサーと画素のはたらき

💡シリーズ「写真のしくみ」について 光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。 フィルムが化学の力で光を記録するなら、デジタルカメラは何の力で光をとらえているのでしょう。答えは「電気」です。今回は、光を電気信号に変換するイメージセンサーのしくみから、画素数とセンサーサイズが画質に与える影響、アナログの光がデジタルデータに姿を変える瞬間まで、一気にたどっていきます。 デジタルカメラの心臓部、イメージセンサー デジタルカメラの中をのぞいたことはありますか? ミラーレスカメラならレンズを外すだけで、奥にキラリと光る小さな四角い板が見えます。一眼レフカメラなら、ミラーを跳ね上げたその先にあります。この小さな板がイメージセンサーです。 フィルムカメラの時代、まったく同じ場所にフィルムがありました。フィルムは光を受けて化学変化を起こし、像を記録していました。イメージセンサーはフィルムと同じ場所に座り、同じ「光を記録する」という仕事をしています。ただし、やり方がまるで違います。フィルムが「化学」の力で像をとらえるのに

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