あたまのなか
届かない一言
もし過去の自分に一言だけ伝えられるとしたら、何を言うか。 深夜のSNSで、あるいは終電を逃した夜のファミレスで、誰かがこの問いを口にする。哲学書の一節のような顔をして現れるが、正体はレシートの裏に書き殴られるたぐいの問いだ。誰でも答えられそうな気がする。でも、答えようとした瞬間に指の間からすり抜ける。 この問いに正面から向き合った時点で、あなたはもう袋小路の中にいる。 届いた瞬間に消える手紙 仮に、何らかの方法で過去の自分にメッセージを送れたとしよう。 もしその一言が効いて、過去の自分が行動を変えたとする。そうすると、今の自分はもう今の自分ではなくなる。今の自分が変われば、その一言を送ろうとした理由も、送ったという事実そのものも、まるごと消えてしまうかもしれない。 時間旅行の思考実験に「祖父のパラドックス」と呼ばれる有名な構造がある。過去に遡って自分の祖父の存在を阻止すれば、自分は生まれない。生まれなければ過去に遡ることもできない。原因が結果を打ち消し、結果が原因を打ち消す自己矛盾のループだ。 この問いにも、同じ構造がそっと忍び込んでいる。伝えたい。でも、伝わったら、伝