Sakashita Yasunobu

Drawn to whatever quietly asks to be noticed. Each entry here is an attempt to hold something briefly before it changes — not to preserve it, but to acknowledge that it was once worth pausing for.

Japan
Sakashita Yasunobu

ことばと文学

ゲルマン語の子音推移

📝本稿は筆者が大学の授業で学んだ内容をもとに、独自の考察を加えて再構成したものである。 インド・ヨーロッパ語族からゲルマン語派が分岐する過程で、子音体系に大規模な変化が生じた。この変化はグリムの法則として知られ、さらにヴェルネルの法則による補正、そしてゲルマン語内部で生じた第二次子音推移を経て、英語とドイツ語の音韻的な差異を生み出した。本稿では、これらの子音推移の内容とその関係を整理する。 グリムの法則 19世紀初頭、ドイツの言語学者ヤーコプ・グリム(Jacob Grimm)は、インド・ヨーロッパ祖語からゲルマン語派への体系的な子音変化を記述した。これがグリムの法則(Grimm's Law)であり、第一次子音推移(First Germanic Sound Shift)とも呼ばれる。変化の内容は以下の三系列からなる。 無声破裂音から無声摩擦音へ インド・ヨーロッパ祖語の無声破裂音 *p, *t, *k は、ゲルマン語で無声摩擦音 *f, *θ, *x(のちに *h)へと変化した。 * ラテン語 pater(父)

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ことばと文学

場所はどのようにつくられるのか

📝本稿は筆者が大学の授業で学んだ内容をもとに、独自の考察を加えて再構成したものである。 「場所」を問い直す 朝、寝室で目を覚まし、食堂で朝食をとり、学校や職場へ向かう。帰りにスーパーへ寄り、家に戻る。私たちは毎日「場所」を舞台にして暮らしているが、場所そのものについて考えることはほとんどない。 森正人『誰が場所をつくるのか』(新曜社、2024年)は、その当たり前の「場所」を問い直す一冊である。副題に「ポストヒューマニズム的試論」と掲げられた本書によれば、場所は最初から存在する自明の所与ではなく、特定の時空間において人間と「人間あらざるもの」の相互作用によって構成される動的な過程である。場所論は人文地理学の中心的な主題であり、1970年代以降さまざまな理論的展開を経てきた。本書はその展開を丹念にたどりながら、近年のポスト人間中心主義の思潮を取り込んで場所概念の刷新を試みている。 本稿では、まず本書の議論を整理したうえで、理論的な観点から二つの問題点を指摘する。第一に、社会的構築主義とポスト人間中心主義の間に存在する緊張関係について。第二に、「場所はつねに変化し続ける過程である

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ことばと文学

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』書評

📝本稿は筆者が大学の授業で学んだ内容をもとに、独自の考察を加えて再構成したものである。 本を読んで人生が変わった、と言い切れる人が、どれだけいるだろうか。本じゃなくてもいい。映画を見終わってシアターを出たとき、世界がまるで違って見える感覚を覚えたことはないだろうか。感傷的な人や多感な中高生なら、そういう経験があるのだろう。しかし大学生にもなると、そうはいかない。世の中が少し見えてくると、作り話が生ぬるく思えてくる。よくできたフィクションより、現実のほうがよっぽど手に負えない。だからだろうか、若者は本を読まなくなった。オジサンは若者の現状をみて「本離れ」と呼んで嘆くが、言われすぎてもはや定型句だ。いまさら文句をつけられようが言い返す気にもなれない。あげく『白鯨』、『罪と罰』、『失われた時を求めて』などなど、「名著を読め」ときた。いわく「のめりこむほど面白い」そうだが、そんな手あかのついた宣伝文句で心が動くほど素直ではないし、大体、オジサンが面白いと言うものは面白くないのだ。その時間でSNSを眺めていたほうがマシだ。 とはいえ、オジサンと一緒になって若者の読書離れを嘆いていても仕方な

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ことばと文学

加藤典洋『言語表現法講義』書評

📝本稿は筆者が大学の授業で学んだ内容をもとに、独自の考察を加えて再構成したものである。 なぜこの本を選んだのか 大学生活で避けて通れないのが、レポートや論文の執筆だ。しかし正直なところ、書くことは楽しくない。義務として書かされる文章は、書く側も読む側も面白くない。そんな中、「書くこと」そのものの意味を問い直すこの本に出会った。タイトルこそ堅苦しいが、著者の加藤典洋は「書くことを上手に表現する技法の問題だとは考えていない。むしろよりよく考えるための、つまり自分と向かい合うための一つの経験の場なのだ」と主張する。この視点の転換に惹かれ、本書を手に取った。 本書の構成と主題 本書は全9章から構成されている。第2章では課題レポートの問題点から始まり、第3章では推敲による文章の変化、第4章では「書かないこと」の表現力、つまり行間について論じられる。第5章では優れた文章に宿る「天啓」の獲得方法、第6章では敏感な問題に対する書き手の姿勢、第7章では現代文章の特徴が分析される。第8章では「良い文章」を書く際の壁について、そして最終章ではフィクションの力について語られる。 「行間文法」

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技術

ストロボのガイドナンバーは照射角でどう変わるか

ストロボの照射角(ズーム位置)を変えると、ガイドナンバー(GN)はどう変化するか。本稿では物理法則から理論式を導出し、Canon スピードライト EL-1の公称データと照合する。 GNの定義 GNはISO 100において次式で定義される。 \[ GN = d \times F \] \(d\) は被写体距離(m)、 \(F\) は絞り値である。 GNと光度の関係 光軸上の光度を \(I\) (cd)とする。逆二乗則より、距離 \(d\) における照度は次のようになる。 \[ E = \frac{I}{d^2} \] 適正露光の条件として、被写体面での照度 \(E\) と絞り値 \(F\) の間には \(E \propto F^2\) の関係がある(ISO感度一定)。絞りを絞るほど、より明るい照度が必要になるためである。

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光と写真

それでも日常を撮ろう

写真のモチベーションが尽きかけている。 ここ数ヶ月、カメラは防湿庫の中で眠っている。機材は揃った。技術的な知識もそれなりにある。それでも、自分の撮る写真がどうしようもなくつまらなく感じる。場所のせいだとか、機材のせいだとか、いろいろと理由をつけてきたが、そのどれでもないことにはもう気づいている。 写真を撮ること自体に行き詰まっている。そういう時期がある。 面白い写真とは何か SNSを開けば、見事な写真が無限に流れてくる。構図の一ミリの違い、完璧な水平、計算されたライティング。プロの写真家たちは、自分たちの技術がいかに繊細で審美眼がいかに磨かれているかを語る。 それ自体は事実だろう。プロにはプロの技術と経験がある。 だが、私は別にルーブル美術館に飾るために写真を撮っているわけではない。誰かから報酬をもらっているわけでもない。私の写真に対する要求は、強いていうなら自分自身が課しているものだけであり、もっと正直にいえば、高い機材を買ってしまった罪悪感かもしれない。 問題はもっと素朴なところにある。日常が、平凡すぎるのだ。 北欧のような息を呑む景色があるわけでもなく、決定的瞬

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技術

エネループのプロとスタンダードとライトは何が違うのか

Panasonicのニッケル水素充電池「エネループ(eneloop)」には、ハイエンドモデル(エネループ プロ)、スタンダードモデル(エネループ)、お手軽モデル(エネループ ライト) の3ラインナップがある。「とりあえず高いやつが良いだろう」と思いがちだが、実はモデルごとに容量・充放電サイクル寿命・自己放電率のバランスが異なり、用途に応じた選択が重要になる。 各モデルのスペック比較 エネループ プロ(ハイエンドモデル) * 展開サイズ: 単3形 / 単4形 * 最小容量: 単3形 2,500 mAh / 単4形 930 mAh * 自己放電: 満充電から1年後に約85%残存(室温20℃保管時) * くり返し回数: 旧JIS基準で約150回 / 現行JIS基準で約500回 3モデルの中で最も容量が大きい。ただし、くり返し使用回数はスタンダードモデルの約4分の1と大幅に少なく、自己放電率もやや高い。 エネループ(スタンダードモデル) * 展開サイズ: 単1形

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技術

立体角の限界効果から求めるソフトボックスの最適サイズ

影の柔らかさは、被写体から見た光源の見かけの大きさによって決まる。光源の見かけが大きいほど影のエッジは緩やかに遷移し、柔らかい影が得られる。ソフトボックスを大きくすれば見かけの光源は大きくなるが、その効果には収穫逓減がある。 本稿では、ソフトボックスを均一発光する円盤と近似し、被写体位置から見た立体角を影の柔らかさの代理指標として定式化する。そのうえで、半径を増加させたときの立体角の増加率(限界効果)が最大となる最適半径を解析的に導出する。 モデルの定義 以下の仮定を置く。 * ソフトボックスを半径 \(R\) ( \(R > 0\) ) の均一発光円盤とする。 * 被写体上の注目点 \(P\) は円盤の中心軸上にあり、発光面中心からの距離を \(d\) ( \(d > 0\) ) とする。 * 影の柔らかさの代理指標として、点 \(P\) から円盤を見込む立体角 \(\Omega(R, d)\) を採用する。 なお、本モデルは軸上の1点に対する評価であり、被写体の広がりや光源の配光特性は考慮していない。 解析 円盤が張る立体角 点 \(P\) から円盤の縁

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技術

プログラムオートで撮るということ

写真を趣味にしていると、いつか必ず撮影モードの話に出くわす。「マニュアルモードを使えるようになって一人前」、「とりあえず絞り優先で」、「Pモードなんてフルオートと同じでしょ」。こうした声はインターネット上にもカメラ愛好家のコミュニティにも根強く存在する。 自分自身、長いあいだ何も考えずに絞り優先を常用してきた。絞りを自分で選ぶという行為に、写真をコントロールしている実感があったのだと思う。けれどあるとき、ふとPモードで撮ってみたら、思いのほか快適だった。それをきっかけに、各モードの仕組みを改めて考えてみることにした。 考えていくうちに、漠然と信じていたモード間の優劣が、思っていたほど自明ではないことに気づいた。以下はその整理の記録だ。何かを強く主張したいというよりは、自分が考えた道筋をそのまま書き留めておきたくて書いている。 露出の三要素と自由度 写真の明るさ、つまり露出は、シャッタースピード、絞り(F値)、ISO感度という三つの要素で決まる。 ここで一つ、見落とされがちだけれど重要な事実がある。「適正露出」という目標を一つ定めると、三つの変数のあいだに一つの拘束条件が生ま

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技術

ストロボで動きが止まる物理的根拠と限界

ストロボ(フラッシュ)を使えば動きが止まる。写真撮影における基本的な常識だが、閃光時間の実測値を確認すると、メカニカルシャッターの最高速や電子シャッターの速度と比べて意外と遅い。にもかかわらず、なぜストロボ撮影では被写体の動きが止まって見えるのか。本記事では、閃光時間の実測値とセンサー上の像移動量を定量的に計算し、「ストロボで動きが止まる」という現象の物理的根拠と限界を検証する。 閃光時間の定義 ストロボの閃光は瞬間的ではなく、急峻に立ち上がった後、減衰しながら持続する。この持続時間を表す指標として、国際標準化機構(ISO)の規格で以下の2つが定められている。 * t0.5: ピーク強度の50%以上が維持される時間 * t0.1: ピーク強度の10%以上が維持される時間 メーカーのカタログではt0.5が記載されることが多いが、t0.5はピーク付近の一部しか反映していない。t0.5の時間外にもなお相当量の光が放出されており、それが動体ブレに寄与する。実際の動体ブレを評価するには、t0.1の方が実態に即した指標である。 IGBT制御と出力による閃光時間の変化 現代のクリ

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技術

商品撮影で柔らかい光を作るモディファイヤー選び

商品撮影の仕上がりは、ストロボ本体の選択と同じくらいモディファイヤーの選択に左右される。本記事では「柔らかい光」を求める商品撮影の文脈で、モディファイヤーの選び方を原理から整理する。 光の柔らかさを決める原理 光の柔らかさ(影の境界がどれだけ滑らかか)は、被写体から見た光源の見かけの大きさで決まる。これは2つの要素に分解できる。 * 光源の物理的な大きさ: モディファイヤーが大きいほど光は柔らかくなる * 光源から被写体までの距離: 近いほど見かけの大きさが増し、柔らかくなる どれほど大きなモディファイヤーを使っても、被写体から遠ざければ見かけの大きさは縮小し、硬い光に近づく。モディファイヤーの選択と配置はセットで考える必要がある。 ソフトボックスの形状比較: スクエア vs. オクタゴン よくある比較として、60×90cmのスクエア(長方形)と直径95cmのオクタゴン(八角形)がある。 発光面積 スクエア60×90cmの面積は5,400cm²。オクタゴン95cmは八角形としてスクエアよりひとまわり大きい面積を持つ。面積が大きいほど光源の見かけのサイズが増すため

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技術

自宅商品撮影に必要なストロボのワット数

自宅で商品撮影用にスタジオストロボを導入する際、ワット数(Ws: ワットセカンド)の選択は最初に直面する問題である。400W、600W、800W、1000Wと選択肢がある中で、どの出力を選ぶべきか。物理的な光量の関係と実運用の観点から整理する。 ワット数と段数の関係 ストロボの出力はWsで表されるが、実用上は段数(stop)で比較するのがわかりやすい。段数差は出力比の2を底とする対数で求まり、直感的にはワット数が2倍になるごとに1段増えると理解すればよい。 * 400Ws → 600Ws: 約0.6段 * 400Ws → 800Ws: 1.0段 * 600Ws → 800Ws: 約0.4段 * 800Ws → 1000Ws: 約0.3段 数字の印象ほど光量差は大きくない。400Wから800Wへ倍増させてもわずか1段差であり、800Wと1000Wの差に至っては約0.3段、ISO感度のわずかな変更で吸収できる範囲である。 モディファイヤーによる光量ロス 商品撮影ではソフトボックスやランタンなどのモディファイヤーを使って光を拡散させるのが一般的である。モディファイヤー

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