写真のしくみ ④ 虫めがねが紙を燃やす「焦点」のひみつ

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シリーズ「写真のしくみ」について
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。

晴れた日に虫めがねを持って外へ出てみましょう。地面に黒い紙を置いて、虫めがねを太陽にかざします。レンズと紙のあいだの距離をゆっくり変えていくと、紙の上の光がだんだん小さくなって、あるところでぎゅっと小さな点になります。

その点をじっと動かさずにいると、白い煙がすうっと立ちのぼって、やがて紙がこげはじめます。

小学校の理科の実験で経験した人も多いのではないでしょうか。でも、あらためて考えてみると不思議です。虫めがねはただの透明なガラス。火をつける道具なんかではありません。それなのに、なぜ紙が燃えるほど熱くなるのでしょうか。

この「なぜ?」の先に、レンズの本質が隠れています。

太陽の光は「平行」にやってくる

まず、太陽の光について考えてみましょう。

太陽は地球からおよそ1億5000万キロメートルも離れています。あまりにも遠いので、太陽から届く光は、地球に届くころにはほぼ完全にそろって「平行」に進んでいます。つまり、どの光もまっすぐ同じ方向に降りそそいでいるのです。

身近なたとえで考えてみます。暗い部屋で懐中電灯をつけると、近くの壁には小さな丸い光が映ります。でも、遠くの壁を照らすと、光はずいぶん広がります。光源に近いところでは光がいろいろな方向に広がっているからです。ところが太陽は、途方もなく遠くにあります。あまりにも遠いので、地球に届くころには光の広がりはほとんどゼロ。だから「平行な光」として扱えるのです。

この「平行な光」という考え方が、これからのレンズの話を理解するための大事な出発点になります。

レンズは光の方向を曲げる道具

虫めがねに使われているレンズは「凸レンズ」と呼ばれます。真ん中がふくらんで、ふちが薄い形をしたガラスです。

光はガラスに入るとき、そしてガラスから出るとき、進む方向が少し変わります。これを屈折といいます。光が空気中からガラスのようなべつの透明な物質に入ると、光の速さが変わって進行方向が曲がるのです。コップの水にストローを差すと、水面のところで折れ曲がって見えますね。あれも屈折のしわざです。

この形のおかげで、レンズのどこを通るかによって光の曲がり方が変わります。ふちに近い光ほど大きく内側に向かって曲がり、真ん中を通る光はほとんど曲がりません。

その結果どうなるか。平行にそろって入ってきた光が、レンズを通り抜けたあと、ぐーっと一点に向かって集まっていきます。

これが虫めがねのひみつです。レンズの面積ぶんの太陽の光を、たった一点にぎゅっと集める。広い範囲に降りそそいでいたエネルギーが、小さな点に集中するから、紙が燃えるほどの温度になるのです。

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虫めがねで紙が燃えるのは、レンズが太陽に「火力」を与えるからではありません。もともと広い面積に薄く広がっていた太陽のエネルギーを、一点にかき集めているだけです。レンズは光のエネルギーを増やしているのではなく、集めているのです。

「焦点」と「焦点距離」

この「光が集まる点」には名前があります。焦点(しょうてん)です。

「焦」という漢字には「こげる」という意味があります。光が集まってものを焦がす点だから「焦点」というわけです。名前の由来がそのまま実験と結びついていて、覚えやすいですね。

そして、レンズの中心から焦点までの距離を焦点距離(しょうてんきょり)といいます。

ここで大事なポイントがあります。焦点がきれいな一点にできるのは、光がレンズに平行に入ったときの話です。太陽のようにとても遠くにある光源からの光は平行とみなせるので、きれいに一点に集まります。では近くにあるものの光はどうなるのか。それは次回のお楽しみです。

そしてもうひとつ。焦点はレンズの両側にひとつずつ、合計ふたつあります。光はレンズのどちら側からも入れるので、これは考えてみると当然ですね。

凸レンズと凹レンズ

レンズには大きく分けて2種類あります。

ひとつは、いま話している凸レンズ(とつレンズ)。真ん中がふくらんだレンズです。平行な光を一点に「集める」はたらきがあります。虫めがね、カメラ、望遠鏡、顕微鏡。光を集めたい場面で使われるレンズは、ほとんどが凸レンズです。

もうひとつは凹レンズ(おうレンズ)。真ん中がへこんだレンズです。凸レンズとは反対に、平行に入ってきた光を外側に散らす、つまり「広げる」はたらきをします。

凹レンズに平行な光を当てると、光はレンズを通ったあとに広がっていきます。実際に一点に集まることはありません。でも、広がっていく光の線を逆向きに延長してみると、レンズの手前のある一点から広がってきたかのように見える場所があります。これを凹レンズの焦点と呼びます。実際には光が集まっていない「見かけの焦点」なので、凸レンズの焦点とは区別が必要です。物理では、凹レンズの焦点距離にはマイナスの符号をつけて表す習慣があります。

凹レンズの身近な例は、近視用のメガネです。近視の目は、遠くからの平行な光が網膜(目の奥にあるスクリーン)より手前で像を結んでしまう状態です。凹レンズで光を少し散らしてやることで、像がちょうど網膜の上にできるように調整しているのです。

厚いレンズほど光を強く曲げる

凸レンズの形と焦点距離には、はっきりした関係があります。

表面のカーブが急な凸レンズ、つまり真ん中がぷっくり厚いレンズは、光を強く曲げます。強く曲げるということは、光がレンズに近いところで集まるということです。つまり焦点距離が短くなります。

逆に、カーブがゆるやかで薄い凸レンズは光をあまり曲げません。光はレンズから遠く離れたところでゆっくり集まります。つまり焦点距離は長くなります。

虫めがねで確かめてみましょう。もし2つの虫めがねが手元にあるなら、ぷっくり厚いほうと薄いほうで、太陽の光が一番小さくなる距離を比べてみてください。厚いほうが紙に近い位置で光が集まり、薄いほうは紙から離さないと集まらないはずです。焦点距離のちがいを、自分の手で感じられます。

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レンズの素材も焦点距離に影響します。ガラスの種類によって光の曲がりやすさ(屈折率)がちがうため、同じ形でも素材がちがえば焦点距離が変わります。カメラのレンズに特殊なガラスが使われるのは、こうした光学的な性質を精密にコントロールするためです。

カメラの「50mm」、「85mm」の正体

さて、ここまでの話をカメラにつなげましょう。

カメラのレンズには「50mm」、「35mm」、「85mm」といった数字が書かれています。この数字、実は焦点距離のことです。

「50mm」のレンズは、焦点距離が50ミリメートル。はるか遠くから来た平行な光がレンズを通ったとき、レンズの中心からおよそ50ミリメートル先に焦点ができる、ということを意味しています。

この数字が変わると、カメラで写る範囲や被写体の写り方が大きく変わります。焦点距離が短いレンズは広い範囲を写し、焦点距離が長いレンズは遠くのものを大きく写せます。そのしくみについては、画角と焦点距離の回でじっくり解説します。

まずはこれだけ覚えておいてください。カメラのレンズに書いてある「○○mm」は焦点距離のこと。そして焦点距離とは、虫めがねの実験で太陽の光がぎゅっと一点に集まったとき、レンズから紙までの「あの距離」と同じものだということを。

この回のまとめ

今回は、虫めがねの実験を出発点に、レンズが光を集めるしくみと「焦点」、「焦点距離」の意味を見てきました。大事なポイントをおさらいしましょう。

  • 太陽のようにとても遠くにある光源からの光は、地球に届くころにはほぼ平行な光の束になっています。
  • 凸レンズは光の屈折を利用して、平行な光を一点に集めるはたらきをします。虫めがねで紙が燃えるのは、広い面積に降りそそぐ太陽のエネルギーを一点に集中させているからです。
  • 光が集まるその点を焦点、レンズの中心から焦点までの距離を焦点距離といいます。
  • 凹レンズは凸レンズとは反対に、光を広げるはたらきをします。近視用メガネなどに使われています。
  • 凸レンズの表面のカーブが急なほど(厚いほど)光を強く曲げるので、焦点距離は短くなります。カーブがゆるやかなほど焦点距離は長くなります。
  • カメラのレンズに書かれた「○○mm」は焦点距離のことです。虫めがねで太陽の光がぎゅっと集まったとき、レンズから紙までのあの距離が、まさにカメラの焦点距離と同じものです。

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