写真のしくみ ⑪ 暗い場所でも明るく撮れるISO感度と露出の三角形
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。
夜の街、室内のパーティー、薄暗い水族館。暗い場所で写真を撮ると、思ったよりずっと暗く写ってしまうことがあります。「もっと明るく撮れないのかな?」と思ったことはありませんか?
この回では、その「もっと明るく」を実現するための道具、ISO感度(アイエスオーかんど)のしくみを解き明かします。さらに、カメラが写真の明るさを決めるために使っている3つの道具の関係、通称 「露出の三角形」 まで一気にたどりつきましょう。
暗いところで写真が撮れない!
写真が写るには「光」が必要です。明るい場所にはたくさんの光があるから、カメラは楽に写真を撮れます。でも暗い場所では光が少ないので、カメラに届く光の量も少なくなります。
光が足りないまま撮ると、写真は暗くなってしまいます。まるで、かすかな声を聞き取ろうとしているようなものです。声(光)が小さすぎて、うまく聞こえない(写らない)というわけですね。
ではどうすればいいでしょう? 方法は大きく分けて3つあります。
- 光をたくさん集める ... レンズの穴を大きく開ける(絞りを開く)
- 光を長い時間ためる ... シャッターを長く開けておく(シャッタースピードを遅くする)
- 受け取った光の信号を増幅する ... これがISO感度です
今回の主役は3番目。まずはフィルムの時代にさかのぼって、「感度」の考え方がどこから生まれたのかを見てみましょう。
フィルム時代の「感度」を知ろう
デジタルカメラが登場するよりずっと前、写真はフィルムで撮るものでした。フィルムの表面には、ハロゲン化銀(はろげんかぎん)というとても小さな結晶の粒がびっしりと塗られています。この粒に光が当たると化学変化が起こり、それが写真の像になります。いわばフィルムの表面にある無数の小さな「光のセンサー」です。
ここで面白いのが、この粒の大きさによって光への敏感さが変わるということ。
たとえ話で考えてみましょう。校庭に出て「雨つぶキャッチゲーム」をする場面を想像してください。小さなおちょこを持った人と、大きなバケツを持った人が並んで雨の中に立ちます。同じ時間だけ待ったとき、どちらがたくさん雨水を集められるでしょう? 当然、大きなバケツのほうですよね。
フィルムの粒もこれと同じで、大きな粒ほど光をたくさんキャッチできます。つまり少ない光でも化学変化を起こせるので、暗い場所に強い。これが「感度が高い」ということです。
逆に、小さな粒は光をキャッチする力が弱いので、たっぷりの光がないとうまく反応しません。「感度が低い」ということになります。
でも、ただ粒を大きくすればいいというわけではありません。大きな粒で撮った写真は、できあがりの画像にもその粒の荒さが見えてしまいます。砂絵をイメージしてみてください。粗い砂で描いた絵はザラザラしていて細かい部分がつぶれますが、サラサラの細かい砂で描けばなめらかで精細な絵になります。
- 感度の高いフィルム(大きな粒)... 暗い場所で撮れるけれど、画像がザラザラする
- 感度の低いフィルム(小さな粒)... 明るい場所が必要だけれど、画像がなめらかできれい
ここにもトレードオフがあります。感度と画質はシーソーの関係で、片方を上げればもう片方が下がる。これはフィルムの時代から変わらない、写真の根本的な宿命なのです。
フィルムの感光材料であるハロゲン化銀(おもに臭化銀 AgBr)は、光のエネルギーを吸収して結晶内部に「潜像」と呼ばれる目に見えない変化をつくります。この変化を「現像」という化学処理で増幅することで、はじめて目に見える像が浮かび上がる仕組みです。大きな結晶ほど光子を捕捉する断面積が広いため、より少ない光量で潜像核を形成できます。これが「感度が高い」ことの物理的な正体です。
「ISO」って何の略?
フィルムの感度を数字で表すしくみは、もともと国によってバラバラでした。アメリカでは ASA という規格、ドイツでは DIN という規格で表していました。同じフィルムなのに呼び方が違うのはややこしいですよね。
そこで登場したのが ISO(アイエスオー)。International Organization for Standardization、日本語では「国際標準化機構」という世界的な組織がつくった統一規格です。フィルムの感度を世界共通のひとつの数字で表しましょう、というルールです。
ISO感度の数字は、数字が2倍になると感度も2倍になるように決められています。
- ISO 100 ... 基本の感度。晴れた屋外でちょうどいい
- ISO 200 ... ISO 100の2倍の感度
- ISO 400 ... ISO 200のさらに2倍(ISO 100の4倍)
- ISO 800 ... さらに2倍(ISO 100の8倍)
- ISO 1600, 3200, 6400 ... どんどん倍々に増えていく
感度が2倍になるということは、同じ明るさの写真を撮るために必要な光の量が 半分で済む ということです。ISO 100で撮れる写真と同じ明るさの写真を、ISO 200なら半分の光で撮れます。暗い場所で撮るときに、とても頼もしい武器になりますね。
ISOの名前の由来は少しユニークです。「International Organization for Standardization」の頭文字をとると「IOS」になるはずですが、ギリシャ語の「isos」(等しい)に由来して「ISO」という呼称が採用されました。どの言語でも同じ「ISO」で通じるようにという意図があります。
デジタルカメラではどうなっている?
フィルムの場合、感度はフィルムそのものの性質で決まっていました。ISO 100のフィルムをカメラに入れたら、そのフィルムを使い終わるまで感度は変えられません。もっと感度が欲しければ、フィルムごと交換するしかなかったのです。
デジタルカメラはここが根本的に違います。デジタルカメラのセンサー(撮像素子)は、光を受けて電気信号に変換する装置です。光が多ければ大きな信号、光が少なければ小さな信号が出ます。ここまではフィルムと似ています。
違いは、その 電気信号を後から増幅できる というところです。
これはラジオの音量つまみにたとえるとわかりやすいでしょう。ラジオから流れてくる音楽が小さいとき、ボリュームを上げれば大きく聞こえるようになりますよね。デジタルカメラのISO感度も同じ原理で、センサーが受け取った電気信号を増幅して、暗い場所でも明るい写真をつくり出します。
そして最大のメリットは、写真1枚ごとにISO感度を自由に変えられること。フィルム時代のように交換する必要がありません。明るい場所ではISO 100、暗い場所ではISO 3200、とボタンひとつで切り替えられます。これはデジタルカメラの大きな強みです。
実際のデジタルカメラでは、信号の増幅は2段階で行われることが多いです。センサーから出たアナログ信号をまず アナログアンプ で増幅し(アナログゲイン)、その後デジタルに変換してからさらに デジタル処理 で調整します(デジタルゲイン)。アナログゲインの段階で増幅するほうが読み出しノイズの影響を相対的に抑えられるため、多くのカメラではISO感度の主要な部分をアナログゲインで処理しています。
増幅すると「ノイズ」が現れる
ここまで聞くと、「じゃあISO感度をどんどん上げればいいじゃないか」と思うかもしれません。暗い場所でも明るく撮れるなら万能です。
ところが、そうはいきません。ISO感度を上げると、写真にザラザラとした荒れが出てきます。これを ノイズ といいます。
ラジオのたとえに戻りましょう。ボリュームを上げると、音楽だけでなく「サーッ」というノイズ(雑音)も一緒に大きくなってしまいます。ラジオの信号にはもともとわずかなノイズが混じっていて、ボリュームを上げるとそのノイズも同じだけ増幅されてしまうのです。
デジタルカメラでも同じことが起こります。センサーの電気信号には、もともとわずかなノイズが含まれています。ISO感度を上げて信号を増幅すると、写したい本来の像(信号)とともにノイズも一緒に増幅されます。その結果、写真がザラザラしたり、本来ないはずの色のつぶつぶが現れたりするのです。
- ISO感度が低い(ISO 100など)... ノイズが少なく、なめらかできれいな写真
- ISO感度が高い(ISO 6400など)... 暗い場所で撮れるけれど、ノイズが目立つ
フィルム時代の「大きな粒はザラザラする」という話と、デジタル時代の「ノイズが増える」という話。原因はまったく違いますが、感度を上げると画質が落ちる という結論は同じです。写真の世界では、この「感度と画質のトレードオフ」は昔も今も変わらない普遍のルールなのです。
スマートフォンのカメラアプリに「プロモード」や「マニュアルモード」がついていたら、ISO感度を変えて同じ被写体を撮り比べてみましょう。ISO 100とISO 3200で撮った写真を画面いっぱいに拡大してみると、高ISOのほうにザラザラしたノイズが見えるはずです。
写真の明るさを決める「3つのつまみ」
さて、ここまでISO感度の話をしてきましたが、写真の明るさを決めるのはISO感度だけではありません。カメラには明るさを調整するための道具が、全部で 3つ あります。
- 絞り(しぼり) ... レンズの中にある穴の大きさを変える
- シャッタースピード ... シャッターを開けている時間の長さを変える
- ISO感度 ... 受け取った信号を増幅する度合いを変える
この3つの関係は、よく 「露出の三角形」 と呼ばれます。三角形の3つの辺が互いに影響し合いながら、写真の明るさ(露出)を決めているイメージです。
水道の蛇口でたとえてみましょう。コップに「ちょうどいい量」の水をためたいとします。
- 絞り は蛇口の開き具合。大きく開ければ水がドバッと出るし、少しだけ開ければチョロチョロ出ます。
- シャッタースピード は蛇口を開けている時間。長く開けていれば水はたくさんたまるし、一瞬だけなら少ししかたまりません。
- ISO感度 はちょっと性格が違います。コップにたまった水の量はそのままに、「2倍に見せる」「4倍に見せる」と数字を引き上げてくれる増幅装置のようなものです。便利ですが、増幅するぶんだけ「ノイズ」という余計なものも一緒についてきます。
コップにちょうどいい量の水(ちょうどいい明るさの写真)を得るために、この3つをうまく組み合わせるのがカメラの露出制御です。
絞りの役割とトレードオフ
絞りは、レンズの中にある羽根を開いたり閉じたりして、光の通り道の大きさを変える装置です。F値(エフち)という数字で表します。
ここで少しややこしいのが、F値が小さいほど穴が大きいということ。F1.8は大きな穴、F16は小さな穴です。数字と穴の大きさが逆なので、最初はちょっと混乱するかもしれません。
- F値が小さい(穴が大きい) ... 光をたくさん取り込める。明るく撮れる。
- F値が大きい(穴が小さい) ... 光を少ししか取り込めない。暗くなる。
ここまでなら「じゃあいつも穴を大きくしておけばいいのでは?」と思いますよね。ところが、絞りにはもうひとつの顔があります。ピントが合って見える範囲(被写界深度といいます)が変わるのです。
- F値が小さい(穴が大きい) ... ピントの合う範囲がせまい。背景がふわっとボケる。
- F値が大きい(穴が小さい) ... ピントの合う範囲が広い。手前から奥まで全体がくっきり。
ポートレート写真で背景をきれいにボカしたいならF値を小さく。風景写真で隅々までくっきり写したいならF値を大きく。明るさだけでなく、写真の表現にも直結するのが絞りの面白いところです。
シャッタースピードの役割とトレードオフ
シャッタースピードは、カメラのシャッターが開いている時間の長さです。1/1000秒、1/250秒、1/60秒、1秒、といった値で表されます。
- シャッタースピードが遅い(長い時間) ... 取り込む光が多い。明るくなる。
- シャッタースピードが速い(短い時間) ... 取り込む光が少ない。暗くなる。
シャッタースピードのトレードオフは ブレ です。
- シャッタースピードが速い ... 動いている被写体もピタッと止まって写ります。スポーツ写真はこれが命です。
- シャッタースピードが遅い ... 撮影中に被写体やカメラが動くと、写真がブレてしまいます。
手持ちで撮影するとき、人間の手はどうしてもわずかに揺れています。だからある程度より遅いシャッタースピードでは、三脚を使わないと「手ブレ」が起こります。暗い場所でシャッタースピードを遅くすれば光はたくさん入りますが、手ブレのリスクと引き換えになるのです。
ISO感度の立ち位置
そしてここまで見てきた今回の主役、ISO感度。
- ISO感度を上げる ... 信号を増幅して明るくする。でもノイズが増える。
- ISO感度を下げる ... ノイズが少なくきれいだが、暗い環境に弱い。
ISO感度は、絞りやシャッタースピードだけでは光が足りないときの「最後の切り札」のような存在です。絞りを目いっぱい開いて、シャッタースピードも手ブレしないギリギリまで遅くした。それでもまだ暗い。そんなときにISO感度を上げて、足りない分を補います。ただし、ノイズという代償がついてきます。
3つのトレードオフを並べてみると
ここで3つの道具の特徴をまとめてみましょう。
絞り
- 明るくしたい → F値を小さくして穴を大きく → ピントの合う範囲がせまくなる
- ピントの合う範囲を広くしたい → F値を大きくして穴を小さく → 暗くなる
シャッタースピード
- 明るくしたい → シャッタースピードを遅く → ブレやすくなる
- 動きを止めたい → シャッタースピードを速く → 暗くなる
ISO感度
- 明るくしたい → ISO感度を上げる → ノイズが増える
- ノイズを減らしたい → ISO感度を下げる → 暗くなる
どの道具も、明るさを得るかわりに何かを犠牲にしています。逆に言えば、何かを犠牲にして明るさを手放すことで、それぞれの「いいところ」を引き出せます。この3つのバランスをとることが、写真を撮るうえでの最も基本的な判断になるのです。
写真の世界では、明るさを1段分変えることを「1段」、「1EV」、「1ストップ」などと呼びます。ISO感度を100から200にすると1段明るくなります。絞りをF2.8からF2に開くのも1段。シャッタースピードを1/125秒から1/60秒に遅くするのも1段です。3つの道具が同じ「段」という共通の単位でつながっているから、ひとつを1段上げたら別のひとつを1段下げれば同じ明るさが保てます。この仕組みのおかげで、3つのつまみを自在に交換しながら調整できるのです。
カメラの「オート」はすごい
ここまで読んで「3つも同時に考えるなんて大変すぎる!」と思った人もいるかもしれません。安心してください。現代のカメラには オートモード があります。
オートモードでは、カメラが撮影の瞬間に周囲の明るさを測り、絞り、シャッタースピード、ISO感度の3つを自動で決めてくれます。しかもただ明るさを合わせるだけでなく、「手ブレしないようにシャッタースピードはこのくらいは確保しよう」「ノイズが目立ちすぎないようにISO感度はここまでに抑えよう」といった判断まで、一瞬のうちにやってのけます。
たとえば明るい公園で花を撮るとき、カメラはこんなふうに考えます。
「光はたっぷりあるな。ISO感度は100にしてノイズを最小に。シャッタースピードも十分速くできるぞ。絞りはF8くらいに絞って、くっきり写そう。」
同じカメラを室内の暗いレストランに持ち込むと、判断が変わります。
「光が少ないぞ。まず絞りを開けてF2.8に。シャッタースピードは手ブレしない1/60秒を確保して... それでもまだ足りない。ISO感度を1600まで上げよう。」
こうやって3つのつまみをバランスよく回しながら、そのときどきで最適な組み合わせを選んでいるのです。
もちろん、オートまかせではなく自分で操りたいという人もいます。「背景をボカしたいから絞りは自分で決めて、残りはカメラにまかせる」(絞り優先モード)や、「動きを止めたいからシャッタースピードは自分で決める」(シャッター優先モード)のように、3つのうち一部だけ自分で決めるモードも用意されています。どこまでカメラにまかせて、どこから自分で判断するか。その選び方の幅が広いのも、写真の楽しさのひとつです。
カメラやスマートフォンで撮った写真の撮影情報(Exifデータ)を確認してみましょう。撮影情報には「F値」「シャッタースピード」「ISO感度」が記録されています。明るい場所と暗い場所で撮った写真を見比べると、カメラがどんな判断をしているかがわかります。「暗い場所ではISO感度を上げているんだな」と気づけたら、もう露出の三角形を理解している証拠です。
この回のまとめ
この回では、ISO感度のしくみと、写真の明るさを決める3つの道具の関係を見てきました。
- フィルムの感度は、フィルムの粒(ハロゲン化銀の結晶)の大きさで決まります。大きな粒ほど光をキャッチしやすく感度が高くなりますが、画像はザラザラに。感度と画質はシーソーの関係です。
- ISOは感度を世界共通の数字で表すための国際規格。数字が2倍になると感度も2倍で、ISO 100を基準に200、400、800と倍々に増えていきます。
- デジタルカメラのISO感度は、センサーが受け取った電気信号を増幅するしくみ。フィルムと違い、1枚ごとに自由に変えられるのが大きな強みです。
- ISO感度を上げると、写したい信号と一緒にノイズも増幅されます。ラジオの音量を上げると雑音も大きくなるのと同じ原理です。感度を上げれば暗い場所で撮れますが、画質とのトレードオフは避けられません。
- 写真の明るさは「絞り」「シャッタースピード」「ISO感度」の3つで決まり、これを露出の三角形と呼びます。それぞれが明るさ以外にも副作用をもっています。
- 絞りはピントの合う範囲(被写界深度)を変える
- シャッタースピードはブレを変える
- ISO感度はノイズを変える
- オートモードでは、カメラが3つのつまみを自動でバランスよく調整してくれます。撮影者は必要に応じて一部を自分で決めることもでき、そこに写真の表現の自由があります。