写真の物理学 ㉚ 銀塩写真の化学
このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。
デジタルセンサーが光電効果という量子力学的に確実な変換に依拠するのに対し、フィルム写真はハロゲン化銀の結晶上で起こる確率的な化学変化に賭けている。光が作る目に見えない潜像を、現像という別の化学反応で増幅して初めて像が現れる。本稿ではこの全過程を、バンドギャップから潜像形成のガーニー=モット機構、カラーフィルムの三層構造と経年劣化まで物理化学の言葉で記述する。
ハロゲン化銀の結晶構造と光感受性の起源
写真フィルムの感光材料は、ハロゲン化銀(silver halide)の微結晶である。実用上重要なのは臭化銀(AgBr)、塩化銀(AgCl)、ヨウ化銀(AgI)の三種であり、多くの写真フィルムではAgBrを主体として少量のAgIを固溶させた混晶が用いられる。
AgBrとAgClは岩塩型(NaCl型)の面心立方格子をとる。大きなハロゲン化物イオン(Br⁻やCl⁻)が立方最密充填を形成し、その八面体空隙を小さな銀イオン(Ag⁺)が占める。各Ag⁺は6個のBr⁻に囲まれ、各Br⁻は6個のAg⁺に囲まれる6配位構造だ。格子定数はAgClで約5.55 Å、AgBrで約5.77 Åである。
AgIはこれらと異なり、六方晶系のウルツァイト型構造をとる。4配位であり、岩塩型のAgBrやAgClとは物性が大きく異なる。
ハロゲン化銀が光に感じる理由は、そのバンドギャップにある。AgBrのバンドギャップは約2.5 eVであり、これは波長にして約500 nm(青緑色光)に相当する。したがってAgBrは紫外線から青緑色までの光を吸収できる。AgClのバンドギャップはより大きく約3.25 eV(波長約380 nm)であり、感度は紫外域に限られる。写真フィルムにAgBrが主に用いられるのは、可視光の一部にまで感度が及ぶためだ。
光子がバンドギャップ以上のエネルギーを持ってAgBr結晶に吸収されると、価電子帯の電子が伝導帯に励起される。この光電子の生成こそが、写真の最初の一歩である。本シリーズ電磁波としての光で導いた $E = hc/\lambda$ の関係がここに直接適用される。波長500 nmの光子のエネルギーは約2.48 eVであり、AgBrのバンドギャップをちょうど超える。
潜像形成の物理化学
光電子が生成された後、何が起こるか。ここからが銀塩写真の核心である。
光子の吸収によって伝導帯に励起された電子(光電子)は、結晶内を移動し、結晶表面にある感光核(sensitivity speck)に捕捉される。感光核とは、ハロゲン化銀結晶の表面に存在する硫化銀(Ag₂S)などの微小な不純物や格子欠陥のことだ。この捕捉によって感光核は負に帯電する。
負に帯電した感光核は、結晶格子内を移動する格間銀イオン(interstitial Ag⁺)を静電的に引き寄せる。格間銀イオンとは、正規の格子点から外れて格子間の位置を占める移動可能なAg⁺のことだ。引き寄せられたAg⁺は捕捉電子と結合し、金属銀原子Ag⁰を形成する。
$$ \text{Ag}^+ + e^- \to \text{Ag}^0 $$
1個の銀原子は不安定であり、容易にイオンに戻る。しかし、次の光子が到来して同じ過程が繰り返されると、銀原子が感光核上に蓄積していく。実験的に、4個以上の銀原子が集積したクラスタが現像可能な最小単位であることが知られている。この銀原子クラスタが潜像核(latent image center)だ。
ハロゲン化銀結晶の中には数十億個ものAg⁺とBr⁻のイオン対が含まれるが、現像を引き起こすのに必要な潜像核は、たった4個程度の銀原子にすぎない。これは驚くべき増幅効率であり、現像の仕組みで解説した現像反応が、この微小な触媒核を起点として結晶全体を金属銀に還元することで実現する。
ガーニー=モット機構
潜像形成のメカニズムを初めて量子力学的に定式化したのは、R.W. ガーニーとN.F. モットが1938年に発表した理論である。ガーニー=モット機構(Gurney-Mott mechanism)は、潜像形成を二つの段階に分ける。
電子段階(electronic stage)では、光子の吸収により伝導帯に励起された光電子が、結晶表面の感光核(Ag₂Sなどの欠陥サイト)に捕捉される。感光核は電子トラップとして機能し、光電子のエネルギーを局在化させる。
イオン段階(ionic stage)では、格間銀イオンAg⁺が結晶格子中を拡散し、捕捉電子が待つ感光核に到達して中和される。この二段階が1サイクルであり、サイクルが繰り返されるたびに感光核上の銀原子数が増加する。
ガーニー=モット機構の重要な帰結は、潜像核の成長が「全か無か」ではなく確率的な過程であるということだ。光電子が感光核に到達する前に正孔(ハロゲン化物イオンから電子が除去されて生じた欠陥)と再結合すれば、そのサイクルは無駄になる。また、亜臨界クラスタ(銀原子が1〜3個の不安定な集合体)は熱エネルギーによって分解する可能性がある。
$$ \text{Ag}_2 \xrightarrow{\text{熱}} 2\text{Ag}^+ + 2e^- $$
この亜臨界クラスタの熱的不安定性こそが、本シリーズ露出の統合と逆数則で論じた相反則不軌(シュワルツシルト効果)の物理化学的な本質である。光子の到達間隔が亜臨界クラスタの寿命を超えると、蓄積された銀原子がイオンに戻り、潜像形成は振り出しに戻る。星の光がフィルムに届くまでで述べたフィルム天体撮影の困難は、この微視的な過程に起因している。
ガーニーとモットの理論は後にハミルトンによって拡張され、潜像核の最小安定サイズがAg₄であることを予測する「四光子機構」(four-photon mechanism)として精密化された。
増感色素の物理
AgBrのバンドギャップは約2.5 eVであり、そのままでは青緑色より短波長の光にしか感じない。初期の写真フィルムはこの制約のもとにあり、赤い花は黒く、青い空は白く写った。
この制限を突破したのが、増感色素(spectral sensitizing dye)の技術だ。ハロゲン化銀結晶の表面に有機色素分子を吸着させると、色素が可視光の長波長側を吸収し、そのエネルギーを光電子としてAgBrの伝導帯に注入する。色素分子がアンテナのように働き、AgBr単体では吸収できない波長域の光を捕捉するのだ。
このエネルギー移動が成立するためには、色素分子の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位がAgBrの伝導帯の底よりも高い必要がある。色素が光子を吸収して励起された電子は、エネルギー的に下り坂であるAgBrの伝導帯に自発的に移動する。
増感色素の種類によって、感度が拡張される波長域が決まる。
正色性(orthochromatic)フィルムは、緑色光にまで感度を拡張したものだ。赤色光には依然として感じないため、暗室作業では赤色セーフライトが使用できる。
全色性(panchromatic)フィルムは、可視光の全域(赤色光を含む)に感度を持つ。現在の一般的な白黒フィルムおよびカラーフィルムはすべて全色性である。全色性フィルムは赤色光にも感じるため、暗室での取り扱いには完全暗黒が求められる。
増感色素の発見は写真史における革命的な転換点であった。1873年にヘルマン・フォーゲルが色素増感の原理を発見し、それ以降の改良によって写真は「色の見える」媒体へと進化した。
ゼラチン乳剤の物理
ハロゲン化銀の微結晶は、そのままでは凝集して使いものにならない。これを均一に分散させ、フィルムベース上に薄く塗布するための媒質がゼラチンである。写真乳剤(photographic emulsion)とは、ゼラチン中にハロゲン化銀微結晶を分散させたコロイド系のことだ。
ゼラチンが写真に不可欠とされる理由は複数ある。
保護コロイドとしての機能。ゼラチンはハロゲン化銀粒子の表面に吸着し、粒子同士の凝集を防ぐ。両性電解質であるゼラチンの分子鎖が粒子を包み込み、立体的な反発力を生み出す。この保護コロイド効果により、粒子を均一なサイズに成長させ、安定な分散状態を保つことができる。
化学増感への寄与。ゼラチンは動物の皮膚や骨から抽出されるタンパク質であり、微量の含硫アミノ酸(シスチン、メチオニンなど)を含む。乳剤の加熱熟成(化学熟成)において、これらの硫黄化合物がAgBr結晶表面にAg₂Sの微小スペックを形成する。これが前述した「感光核」である。硫黄増感(sulfur sensitization)と呼ばれるこの過程は、潜像形成の効率を大幅に向上させる。
写真史の初期、ゼラチンの品質が写真乳剤の性能を左右する最大の変数であった。硫黄含有量の異なるゼラチンを使うと、感度や粒状性がまったく変わってしまう。19世紀後半、ゼラチンの不純物が増感に寄与していると判明したのは、製造ロット間の品質差の調査がきっかけであった。
現像処理との適合性。ゼラチンは水で膨潤するが溶解しにくいという性質を持ち、現像液や定着液の浸透を許しつつもフィルムの機械的構造を維持する。この適度な膨潤性がなければ、化学処理によってフィルムは崩壊してしまう。
粒状性の物理
フィルム写真における「粒子」(grain)とは、現像されたハロゲン化銀結晶が金属銀に還元されたものだ。この銀粒子の大きさと分布が、画像の粒状性(graininess)を決定する。
基本的なトレードオフは明快である。大きな結晶ほど、入射光子を捕捉する断面積が大きく、少ない光量で潜像核を形成できる。つまり高感度だ。しかし大きな結晶は現像後に大きな銀粒子となり、画像の粒状性が粗くなる。逆に、小さな結晶は微粒子で高精細な像を与えるが、光子の捕捉効率が低いため感度は下がる。
ISO 100のフィルムが滑らかな階調を持ち、ISO 3200のフィルムがザラザラした質感になるのは、この物理的制約の直接的な帰結だ。デジタルセンサーにおいてもノイズの物理学で述べるように類似のトレードオフが存在するが、その起源はフィルムの粒状性とは本質的に異なる。フィルムで写真を撮ってみたでISO 400のフィルムによる夜間撮影を試みた際に感度不足を感じたのも、まさにこのトレードオフの中にある。
1980年代にイーストマン・コダックとフジフイルムがそれぞれ開発したT粒子(tabular grain、T-Grain)技術は、このトレードオフを部分的に打破した。従来の立方体や八面体の結晶に代えて、平板状(タブラー)の結晶を用いる。平板結晶は厚みが薄く表面積が大きいため、光子の捕捉効率は従来型と同等以上でありながら、現像後の銀粒子が薄く平坦であるため散乱が少なく、粒状感が抑えられる。Kodak T-MAX やILFORD DELTAシリーズはこの技術に基づいている。
カラーフィルムの構造
白黒フィルムが単一の乳剤層でできているのに対し、カラーフィルムは三層の感光乳剤を積み重ねた構造を持つ。色とは何かで述べた人間の三色型色覚に対応して、各層は異なる波長域に感度を持ち、それぞれに異なる色素カプラー(dye coupler)が含まれている。
フィルムの最上層は青感光層だ。AgBrは本来青色光に感じるため、この層には増感色素は不要である。その直下にイエローフィルター層が置かれる。この層はコロイド銀の微粒子からなり、青色光を吸収して下層への透過を阻止する。これがないと、すべての乳剤層が青色光に反応してしまい、色分離ができない。
イエローフィルター層の下に緑感光層、さらにその下に赤感光層が配置される。緑感光層と赤感光層にはそれぞれ異なる増感色素が用いられ、前節で述べた分光増感の原理によって特定波長域に選択的な感度を持つ。
カラー現像において、各層で以下の色素が生成される。
赤感光層からはシアン色素が生成される。緑感光層からはマゼンタ色素、青感光層からはイエロー色素が生成される。これは減法混色(subtractive color mixing)の原理に基づく。シアンは赤を吸収し、マゼンタは緑を吸収し、イエローは青を吸収する。三層の色素が重なることで、元のシーンの色が再現される。この減法混色の原理は印刷の物理学で扱うCMYKプロセスと共通の物理的基盤に立つ。
色素カプラーの化学反応は、現像過程と密接に結びついている。カラー現像液に含まれる現像主薬(通常はパラフェニレンジアミン誘導体)がハロゲン化銀を還元すると、酸化された現像主薬が生成される。この酸化体がカプラーと反応(カップリング反応)して色素を生成する。つまり、銀が多く還元された場所ほど多くの色素が生成される。ネガフィルムでは最終的に銀は漂白・定着で除去され、色素のみが残る。
ネガとポジの化学的違い
ネガフィルム(カラーネガ、白黒ネガ)では、現像は一段階だ。露光されたハロゲン化銀が還元されて銀になり(カラーの場合は同時に色素が生成され)、未露光のハロゲン化銀は定着液で除去される。結果として、明暗が反転した像(ネガ像)が得られる。カラーネガでは補色関係にある色素が形成されるため、色も反転している。
リバーサルフィルム(ポジフィルム、スライドフィルム)では、二段階の処理によって正像を得る。
第一現像(白黒現像)では、露光されたハロゲン化銀が金属銀に還元されるが、色素は生成されない。この段階でネガの銀像が形成される。
次に、未現像のハロゲン化銀(つまり元の像で暗かった部分)を化学的カブリ処理または全面再露光によって感光可能な状態にする。
第二現像(カラー現像)では、この残余のハロゲン化銀がカラー現像液で処理され、銀の還元と同時に色素が生成される。元の像で暗かった部分ほど多くの色素が生まれる。
最後に、漂白と定着によってすべての金属銀が除去され、色素のみが残る。第一現像で生成された銀(元の明るい部分に対応)も、第二現像で生成された銀も、すべて除去される。残るのは第二現像で生成された色素だけであり、元のシーンの明暗と色をそのまま再現するポジ像となる。
リバーサル処理の精度は極めてシビアだ。温度、時間、攪拌のわずかなずれが色再現と露出に直結する。カラーネガのような後工程での補正余地が少ないため、撮影時の露出精度が要求される。
フィルムのISO感度
ISO感度は、一定の画像品質を得るために必要な露光量の逆数に比例する指標だ。ISO規格(ISO 5800:カラーネガ、ISO 2240:カラーリバーサル、ISO 6:白黒ネガ)に基づいて定義される。
物理的には、ISO感度はハロゲン化銀結晶の「光分解効率」を反映している。同じ露光量で比較したとき、高ISO感度のフィルムはより多くの結晶に現像可能な潜像核を形成できる。これは主として結晶サイズ(前述の粒状性の節で論じた通り、大きな結晶ほど高感度)と化学増感の程度(硫黄増感や金増感による感光核の最適化)によって決まる。
感度特性曲線(H&Dカーブ、あるいは特性曲線)は、露光量の対数を横軸、光学密度を縦軸にプロットしたものだ。白い壁に近づいても露出が変わらない物理学的理由で触れたランバート面の放射輝度と同様に、ここでも対数スケールが本質的な役割を果たす。H&Dカーブの直線部分の傾きがフィルムのガンマ(コントラスト)であり、直線部分が始まる露光量がフィルムの実効感度を決定する。特性曲線の各領域の物理的意味と現像条件による制御は特性曲線の物理的意味で詳述する。
ISO感度の決定方法は規格ごとに異なるが、基本的にはH&Dカーブ上の特定の基準密度(カブリ+ベース密度から一定量上の密度)を達成するために必要な露光量から算出される。
経年劣化の化学
写真フィルムは化学物質の集合体であり、時間とともに劣化する。未現像フィルムと現像済みフィルムでは、劣化のメカニズムが異なる。
未現像フィルムの劣化
未現像フィルムにおける最大の問題はカブリ(fog)の増加だ。宇宙線、環境放射線、高温による熱エネルギーが、露光されていないハロゲン化銀結晶にも潜像核を形成させてしまう。これによりフィルム全体のベース濃度が上昇し、コントラストと実効感度が低下する。高ISO感度のフィルムほど結晶が大きく感度が高いため、カブリの影響を受けやすい。
保存の鉄則は低温と低湿度だ。冷蔵保存(4°C前後)で化学反応速度を低下させ、カブリの進行を抑制できる。冷凍保存(-18°C以下)ならばさらに長期の保存が可能だが、使用前に結露を防ぐための十分な室温戻し時間が必要になる。
現像済みフィルムの劣化
現像済みの白黒フィルムでは、画像を構成する金属銀が大気中の硫黄化合物や酸化性ガスによって変質する。銀の硫化(Ag₂Sの生成)や酸化による変色、褪色が長期的に進行する。現像の仕組みで述べた水洗工程の徹底が重要なのは、残留する定着液(チオ硫酸塩)が銀の硫化を加速するためだ。定着液の化学と水洗の定量的な扱いはフィルム現像の化学と暗室の光学で詳述する。アーカイブ品質の保存を目指す場合、残留チオ硫酸塩の濃度を規定値以下にすることが国際標準(ISO 18901)で求められている。
現像済みカラーフィルムの劣化は、色素の褪色が主因だ。カラーフィルムの画像を構成するアゾ色素やインドアニリン色素は、光、熱、湿度によって分解する。三色(シアン、マゼンタ、イエロー)の色素の劣化速度が異なるため、経年により色バランスが崩れる。一般に、シアン色素の安定性がマゼンタやイエローに比べて低い傾向にあり、古いカラープリントが赤みを帯びるのはシアン色素の選択的な褪色による。
フィルムベースの劣化も無視できない。かつて使われていたセルロースナイトレート(硝酸セルロース)は可燃性かつ自己分解性があり、保存上の重大なリスクを持つ。現在主流のセルロースアセテートベースでも、加水分解により酢酸が遊離し、その酢酸が触媒となってさらなる分解を促進するビネガーシンドローム(vinegar syndrome)が問題となる。酢酸の刺激臭が発生した時点で劣化はかなり進行しており、不可逆的な変形や乳剤の剥離に至ることもある。ポリエステルベースのフィルム(PETベース)はこの問題を持たないが、すべてのフィルムに採用されているわけではない。
まとめ
銀塩写真の全工程は、ハロゲン化銀の物理化学に始まり、物理化学に終わる。光子がAgBr結晶のバンドギャップを超えて電子を励起し、ガーニー=モット機構に従って潜像核が成長する。増感色素がアンテナとなり感度の波長範囲を拡張し、ゼラチンが保護コロイドと化学増感の二役を担う。カラーフィルムでは三層の乳剤と色素カプラーが減法混色の原理で色を再現し、リバーサル処理の二段階現像が正像を生み出す。
デジタルセンサーの光電変換が本質的に線形であるのに対し、フィルムの感光過程は閾値効果と確率的な過程に支配される非線形な系である。相反則不軌、粒状性と感度のトレードオフ、化学増感の微妙なバランス。これらはすべて、感光材料が「生きた」化学系であることの帰結だ。
そして、その化学系は時間の中で変化し続ける。撮影前のカブリ、現像後の褪色、ベースの分解。写真が化学に依存するということは、写真が時間に対して有限であるということでもある。