写真のしくみ ⑱ 影でわかるやわらかい光とかたい光
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。
影がくっきりする日もあれば、ぼんやり消えてしまう日もある。同じ自分なのに、どうして影がこんなに変わるのでしょう。その答えは、光の「かたさ」にあります。今回は影を手がかりにして、写真撮影でとても大切な概念、「やわらかい光」と「かたい光」のちがいとその正体に迫ります。
きみの影で遊んでみよう
晴れた日の昼休み、校庭に立ってみてください。足元を見ると、くっきりとした自分の影がうつっています。輪郭がはっきりしていて、指を広げれば指のかたちまで影にちゃんと見えます。
では、曇りの日はどうでしょう。同じ場所に立っても、影はぼんやり薄くて、よく見ないとどこにあるかわからないくらいです。
同じ「自分」なのに、影がこんなにちがう。この差を生んでいるのは、光のかたさです。今回は、影を手がかりにして、光の正体にせまっていきましょう。
かたい光
晴れた日の太陽が照らす光を、写真の世界ではかたい光(ハードライト)と呼びます。
かたい光がつくる影には、ふたつの特徴があります。
- 影の輪郭がくっきりしている
- 明るいところと暗いところの境目がはっきりしている
お昼の校庭で遊ぶと、地面に濃くてシャープな影ができますよね。建物の影もカチッと直線的で、日なたと日かげの境目がまるで線を引いたようにくっきりしています。あれがまさに「かたい光」の影です。
やわらかい光
一方、曇りの日の光はやわらかい光(ソフトライト)と呼ばれます。
やわらかい光がつくる影は、かたい光とは正反対です。
- 影の輪郭がぼんやりしている
- 明るいところと暗いところがなめらかにつながっている
曇りの日にお散歩すると、自分の影がほとんど見えないことがあります。影がなくなったわけではありません。影の境界線がとてもぼやけて、目立たなくなっているのです。
かたい光とやわらかい光を自分でつくってみよう
ここでちょっと実験をしてみましょう。用意するものは、懐中電灯と薄い白いハンカチだけです。
部屋を暗くして、懐中電灯をつけ、壁に手の影をうつしてみてください。懐中電灯は小さなライトですから、手の影はくっきりしているはずです。影絵遊びができるくらい、指のかたちがはっきり見えるでしょう。
次に、懐中電灯の前にハンカチをかぶせて、同じように壁に手をかざしてみてください。
どうなりましたか? 影がぼんやりしませんか?
これが「かたい光」と「やわらかい光」の正体です。ハンカチをかぶせると、小さな懐中電灯の光がハンカチの生地全体に広がって、光が出てくる面が大きくなりました。だから影がぼやけたのです。
ハンカチと壁の距離を変えてみましょう。懐中電灯をハンカチに近づけると、ハンカチ全体が広く光り、影はさらにぼんやりします。逆に懐中電灯をうんと離すと、ハンカチの中でも光っている範囲が狭くなり、影は少しくっきりに戻ります。「光源の見かけの大きさ」が変わると何が起きるか、この実験だけで体感できます。
光の「かたさ」を決めるもの
この実験から、とても大事なことがわかります。
光が出てくる場所のことを光源(こうげん)といいます。光源の見かけが小さいと影はくっきりし、見かけが大きいと影はぼんやりします。ここで注目してほしいのは「見かけの大きさ」という言葉です。大切なのは光源の実際の大きさではなく、被写体の位置から眺めたときにどれくらいの大きさに見えるか。この違いがとても重要です。次の章で、太陽を例にくわしく見ていきましょう。
太陽はとても大きいのに、どうして「かたい光」なの?
太陽の直径は約139万キロメートル。地球の約109倍もある、とてつもなく巨大な星です。
「光源が大きいとやわらかい光になる」と言ったばかりなのに、太陽の光はかたい。矛盾しているように思えますよね。
ここで思い出してほしいのが、「見かけの大きさ」という考え方です。
太陽はたしかに巨大ですが、地球からは約1億5000万キロメートルも離れています。そのため、空に見える太陽は、腕をぐっと伸ばして持った五円玉の穴とだいたい同じくらいの大きさにしか見えません。
この「見かけの大きさ」を角度であらわすと、太陽は約0.5度です。空をぐるっと一周すると360度ですから、そのわずか720分の1。とても小さいですよね。
つまり、太陽は宇宙規模では巨大な星ですが、地上にいる私たちから見るととても小さな点のような光源なのです。だから、くっきりした影をつくる「かたい光」になります。ただし、ゴールデンアワーのように太陽が地平線近くまで下がると、光が大気を長く通るあいだに散乱されて空のより広い範囲から届くようになり、光はやわらかさを帯びてきます。
曇り空はなぜ「やわらかい」のか
太陽の光が雲を通ると、何が起きるのでしょう。
雲は、水の小さな粒(水滴)や氷の結晶がものすごい数集まったものです。太陽の光がこれらの粒にぶつかると、あちこちの方向に散らばります。これを散乱(さんらん)といいます。
散乱した光は雲の中で何度も何度も跳ね返りながら広がり、最終的に雲全体からまんべんなく地上に降りそそぎます。
つまり、曇りの日は太陽が直接照らしているのではなく、空全体が巨大な光源になっているのです。空をぐるっと見回すと、どこもかしこもうっすら白く光っていますよね。あの白い空全体がきみを照らしている光源です。
光源がこれだけ大きければ、影がぼんやりするのも当然です。先ほどの実験でいえば、空全体がとてつもなく大きなハンカチのような役割を果たしているわけです。
影のしくみをもう少しくわしく
ここで、光の直進に立ち戻って、影のしくみそのものをもう少しだけ踏み込んで見てみましょう。
実は、影にはふたつの部分があります。
- 本影(ほんえい):光がまったく届かない、真っ暗な部分
- 半影(はんえい):光が一部だけ届く、薄暗い部分
光源が小さいとき、ほぼすべてが本影になり、半影はごくわずかです。だから影の端がスパッと切れたように見え、輪郭がくっきりします。
光源が大きいとき、本影は小さくなり、そのまわりにたっぷりと半影が広がります。この半影が、明るいところから暗いところへのなめらかなグラデーションをつくるのです。
曇りの日に影がぼんやりする理由、もうわかりましたよね。空全体という巨大な光源のおかげで半影がどこまでも広がり、本影がほとんどなくなるからです。
本影と半影は、日食でも体験できます。月が太陽を遮るとき、月の本影が届く地上のごく狭い範囲では太陽が完全に隠れる「皆既日食」が、半影が届くもっと広い範囲では太陽の一部だけが欠ける「部分日食」が見られます。宇宙規模の影の実験です。
ストロボの光をやわらかくする道具たち
写真撮影で使うストロボ(フラッシュ)は、発光する部分が小さいので、そのまま光らせると「かたい光」になります。
でも、撮影の場面によっては「やわらかい光」がほしいこともあります。そこで、ストロボの光をやわらかくするための道具がいろいろと生まれました。原理はどれも同じで、光源を大きくすることです。
アンブレラ(傘)
名前のとおり、傘のかたちをした撮影道具です。
使い方はシンプル。ストロボの光を傘の内側に向けて発射し、反射した光で被写体を照らします。小さなストロボの光が大きな傘の面全体に広がるので、光源がぐんと大きくなり、光がやわらかくなります。
アンブレラには、白い布で光を反射させるタイプと、半透明の布を光が透過するタイプがあります。どちらも目的は同じで、小さな光を大きく広げることです。
ソフトボックス
ソフトボックスは、ストロボのまわりを囲む箱型の道具です。前面に白い半透明の布(ディフューザー)が張られていて、ストロボの光はこの布を通って被写体に届きます。
アンブレラと役割は似ていますが、ソフトボックスは箱で囲われているぶん光が横に漏れにくく、光の向きをより正確にコントロールできます。プロの撮影スタジオでは定番中の定番の道具です。
光を広げるふたつの方法
アンブレラやソフトボックスの話を聞いて気づいた人もいるかもしれません。光を大きく広げる方法は、大きく分けてふたつあります。
透過(ディフュージョン)
ひとつめは、光を半透明の素材に通す方法です。トランスルーセント(半透明)タイプのアンブレラや、ソフトボックスの前面の布がこれにあたります。
光が半透明の素材を通過するとき、素材の繊維にぶつかっていろいろな方向に散らばります。曇り空が太陽の光を散乱させるのと、まったく同じしくみです。人工的に「小さな曇り空」をつくっているようなものですね。
反射(バウンス)
ふたつめは、光を大きな面に当てて反射させる方法です。白い布のアンブレラや、白い壁や天井にストロボの光を当てる「天井バウンス」がこの方法です。
白くてザラザラした表面に光が当たると、光は一方向だけではなく、いろいろな方向に散らばって反射します(これを拡散反射といいます)。鏡のようにピカッと反射するのではなく、面全体がぼんやり光るイメージです。その結果、反射面そのものが新しい大きな光源となり、光がやわらかくなります。
透過でも反射でも、ゴールは同じ。小さな光源を、大きな光源に変えることです。
ポートレートとやわらかい光
人の顔を撮る写真、いわゆるポートレート(肖像写真)では、やわらかい光が好まれることが多いです。その理由を見てみましょう。
かたい光で顔を照らすと、鼻の横や目の下、あごの下にくっきりと濃い影ができます。肌の小さな凹凸やシワ、毛穴なども影によって強調されてしまいます。
やわらかい光で照らすと、影がなめらかなグラデーションになり、肌の質感がなだらかに見えます。表情もやさしく、おだやかな印象の写真になります。さらに背景のボケと組み合わせれば、人物はいっそう引き立ちます。
だからといって、「かたい光はダメ」というわけではありません。あえてかたい光を使って、力強い印象やドラマチックな雰囲気を演出する撮影もたくさんあります。映画のワンシーンのような緊張感を出したいときには、かたい光が大活躍します。
大切なのは、撮りたいイメージに合った光を選ぶこと。やわらかい光もかたい光も、写真を撮る人にとっては大事な道具なのです。
この回のまとめ
今回は、影を手がかりに光の「かたさ」の正体を探ってきました。ポイントを振り返りましょう。
- 影を見れば、光の「かたさ」がわかる。 くっきりした影はかたい光、ぼんやりした影はやわらかい光のしるしです。
- 光のかたさを決めるのは、被写体から見た光源の見かけの大きさ。 見かけが小さい光源はかたい光を、大きい光源はやわらかい光をつくります。
- 太陽は見かけが小さいから、かたい光になる。 実際には巨大な星ですが、地球からとても遠いので空では約0.5度の点にしか見えません。
- 曇り空では空全体が光源になる。 雲が太陽の光を散乱させ、空の広い範囲から光が降りそそぐので、やわらかい光になります。
- 影には本影と半影がある。 本影は光がまったく届かない部分、半影は光が一部だけ届く部分です。光源が大きいほど半影が広がり、影がやわらかくなります。
- アンブレラやソフトボックスは光源を大きくする道具。 ストロボの小さな発光面を大きな面に変えることで、やわらかい光をつくります。
- 光を広げる方法は透過と反射のふたつ。 透過(ディフュージョン)は半透明素材に光を通す方法、反射(バウンス)は大きな面で光を跳ね返す方法です。
- かたい光もやわらかい光も、写真の大切な道具。 ポートレートではやわらかい光が好まれがちですが、かたい光にはドラマチックな表現力があります。撮りたいイメージに合わせて使い分けることが大切です。
次の回では、ストロボの「光の短さ」を武器にして動きを止める特別なテクニックを見ていきます。