日常の構造
満ちることのない器よ問いかけは続く
「足るを知れ」と言われたとき、どこか引っかかるものがある。 正論だ。欲望には際限がない。手に入れても次が欲しくなる。だから今あるもので満足しろ。論理としては明快で、反論の余地がないように聞こえる。それなのに素直にうなずけないのは、なぜだろう。 たぶん、この言葉が「満足しろ」という命令として届いてしまうからだ。しかも、すでに満たされている人の口から出ることが多い。持っている人が「持っているもので十分だ」と言うのと、持っていない人が「持っていなくても十分だ」と言わされるのでは、同じ言葉でも意味がまったく異なる。 「足るを知る」の出典を確認する 「足るを知る」の原典とされるのは、老子の第46章だ。原文には「知足者富」という語がある。足るを知る者は富む、と読める。 ただし、この章の文脈は「現状に満足しなさい」という穏やかな教えではない。第46章の主題は、天下に道が行われていない時代の描写だ。戦争のために軍馬が使われ、欲望が際限なく拡大していく状態への批判がある。「知足」はその過剰な欲望に対する処方箋であって、「今ある暮らしに文句を言うな」という意味では、少なくとも原典においては、な