写真の物理学 ㉕ 演色性とメタメリズム

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写真の物理学シリーズ ㉕
このシリーズでは、写真にまつわる現象を物理学の言葉で記述する。「なんとなくそうなる」を「なぜそうなるか」に変換することが目的である。

同じ白いシャツが太陽光では自然に、蛍光灯では青白く、安価なLEDでは黄ばんで見えるのは、光源の分光分布と人間の色覚の構造から物理的に説明できる。光源が物体色に与える影響を定量化する「演色性」と、異なる分光分布が同一の色知覚を生む「メタメリズム」は、いずれもこの構造の帰結である。本稿では、CRI・TM-30による評価体系と、三刺激値の零空間に基づくメタメリズムの数学的定式化を扱う。

演色性の定義

演色性(color rendering)とは、光源が物体の色の見え方に与える影響を表す概念である。より正確には、ある試験光源のもとで物体の色が、基準光源のもとでの色とどれだけ一致するかを評価する尺度だ。

基準光源は以下のように定義される。

  • 相関色温度(CCT)が5000K未満の光源に対しては、同じ色温度のプランク放射体(黒体)
  • CCTが5000K以上の光源に対しては、同じ色温度のCIE昼光

この定義が意味するのは、白熱電球や低色温度のLEDは黒体放射と比較され、昼光色のLEDやストロボはCIE昼光と比較されるということだ。色温度と黒体放射で導出したように、黒体放射とCIE昼光はいずれも連続的で滑らかな分光分布を持ち、人間が長い進化の過程で適応してきた光に近い。演色性の評価とは、人工光源がこの「自然な光」からどれだけ逸脱しているかを測ることにほかならない。

CRI(Ra)の計算方法

CIEが1965年に制定し、1974年に改訂した演色評価数(Color Rendering Index, CRI)は、光源の演色性を数値で表す指標であり、一般に $R_a$ と表記される。上限は100で、色差が大きい光源では負値を取ることもある。計算の手順は以下のとおりだ。

基準光源の決定

まず試験光源のCCTを求め、そのCCTに対応する基準光源を定める。CCT < 5000Kならばプランク放射体(黒体)、CCT $\geq$ 5000KならばCIE昼光が基準となる。

テストカラーの照明

CIEが定めた8つのテストカラーサンプル(TCS01〜TCS08)を、基準光源と試験光源のそれぞれで照明する。8色はいずれもマンセル色票から選ばれた中程度の彩度のパステル調の色であり、色相環を均等に分割するように配置されている。

色差の計算

各テストカラーについて、基準光源下と試験光源下でのCIE 1964 $W^*U^*V^*$ 均等色空間上での色差 $\Delta E_i$ を算出する。色順応補正(von Kries変換)を適用した上で、両光源間の色度のずれを除去する。

特殊演色評価数と一般演色評価数

各テストカラーに対する特殊演色評価数 $R_i$ は次の式で計算される。

$$ R_i = 100 - 4.6 \times \Delta E_i $$

色差がゼロならば $R_i = 100$、色差が大きくなるほど $R_i$ は低下する。係数4.6は、色差1単位あたりの知覚的な重みとして経験的に定められた値だ。

一般演色評価数 $R_a$ は、8つの特殊演色評価数の算術平均である。

$$ R_a = \frac{1}{8} \sum_{i=1}^{8} R_i $$

$R_a = 100$ は基準光源と完全に一致すること、すなわち最高の演色性を意味する。一般に $R_a \geq 90$ は優秀、$R_a < 80$ は不十分とされる。

CRIの限界

CRIは半世紀以上にわたって照明業界の標準指標であり続けてきたが、いくつかの本質的な限界を抱えている。

パステル色への偏り

TCS01〜TCS08はすべて中程度の彩度を持つパステル調の色だ。高彩度の色、とりわけ深い赤(TCS09に対応する $R_9$)は計算に含まれない。CIEは補助的に $R_9$ から $R_{15}$ までの拡張指標を定義しているが、$R_a$ の算出には使われない。

これが実用上どう問題になるかというと、CRI = 90を超えるLEDであっても $R_9$(深い赤)が極端に低いことがある。肌の赤みや唇の色、赤い花の色を忠実に再現するには $R_9$ が高い必要があるが、$R_a$ だけを見ていてはその欠陥に気づけない。

単一数値による情報の喪失

$R_a$ は8つの $R_i$ の平均値であるため、個々のテストカラーに対する偏りが平均化されて見えなくなる。たとえば、ある光源が7色については $R_i = 98$ だが1色だけ $R_i = 60$ という場合でも、$R_a$ は約93になる。数値上は「優秀」だが、特定の色が大きく歪んでいるという事実は隠蔽される。

色域の変化を評価しない

CRIは色差のみを評価し、彩度の変化の方向を区別しない。基準光源より彩度が上がる場合も下がる場合も、等しくペナルティとなる。しかし実用上、彩度がやや増加する光源は「鮮やかに見える」として好まれることがあり、彩度が低下する光源は「くすんで見える」として嫌われる。この非対称性をCRIは捉えられない。

色空間の古さ

CRIが使用するCIE 1964 $W^*U^*V^*$ 色空間は知覚的均等性が低い。色空間の数学で詳述したCIELABやCIEDE2000と比べると、同じ色差 $\Delta E$ でも色相によって知覚的な差異の大きさが異なり、精度に劣る。

TM-30による新しい評価体系

IES(Illuminating Engineering Society)が2015年に発表し、2018年・2020年に改訂したANSI/IES TM-30は、CRIの限界を克服するために設計された新しい評価方法である。

99色の評価サンプル

TM-30はCRIの8色に対して99色の色評価サンプル(CES)を使用する。これらは自然物、肌色、テキスタイル、塗料、プラスチック、印刷物、色票の7カテゴリから選ばれた実在の物体の分光反射率データに基づいている。99色という母数により、統計的な代表性と信頼性がCRIと比べて大幅に向上している。

忠実度指数 Rf

忠実度指数 $R_f$ は、CRIの $R_a$ に対応する指標である。99色すべてについて、CAM02-UCS色空間上で基準光源と試験光源の色差を計算し、その平均から算出される。スケールは0〜100で、$R_f = 100$ は基準光源との完全一致を意味する。

CAM02-UCSはCIE 1964 $W^*U^*V^*$ よりも知覚的均等性が高い色空間であり、色差の計算精度が向上している。

色域指数 Rg

色域指数 $R_g$ は、CRIにはなかった新しい指標だ。試験光源が基準光源と比べて色の彩度を全体としてどう変化させるかを定量化する。

$R_g = 100$ は、平均的な彩度が基準光源と同等であることを意味する。$R_g > 100$ は彩度が全体的に増加していること、$R_g < 100$ は彩度が全体的に低下していることを示す。

$R_f$ と $R_g$ の分離により、「色は正確だが地味に見える光源」と「色は正確だが鮮やかに見える光源」を区別できる。

カラーベクトルグラフィック

TM-30はさらに、16の色相ビンごとの色差と色域変化を視覚的に表示するカラーベクトルグラフィック(CVG)を提供する。基準光源に対する彩度の増減と色相のシフトが矢印で示されるため、光源がどの色相域で問題を抱えているかを一目で把握できる。

メタメリズムの厳密な定義

メタメリズム(条件等色, metamerism)とは、異なる分光分布を持つ2つの色刺激が、同一の三刺激値 $(X, Y, Z)$ を生成し、同じ色として知覚される現象である。このとき、この2つの色刺激をメタメリックペア(条件等色対)と呼ぶ。

色とは何かで定義した三刺激値は、色刺激の分光分布 $S(\lambda)$ と等色関数 $\bar{x}(\lambda)$, $\bar{y}(\lambda)$, $\bar{z}(\lambda)$ の積を可視光域にわたって積分して得られる。

$$ X = \int_{380}^{780} S(\lambda) \, \bar{x}(\lambda) \, d\lambda $$

$$ Y = \int_{380}^{780} S(\lambda) \, \bar{y}(\lambda) \, d\lambda $$

$$ Z = \int_{380}^{780} S(\lambda) \, \bar{z}(\lambda) \, d\lambda $$

物体色の場合、$S(\lambda) = I(\lambda) \cdot R(\lambda)$ である。ここで $I(\lambda)$ は光源の分光分布、$R(\lambda)$ は光と物質の相互作用で導入した物体の分光反射率だ。

2つの色刺激 $S_1(\lambda)$ と $S_2(\lambda)$ がメタメリックペアであるとは、$S_1(\lambda) \neq S_2(\lambda)$ であるにもかかわらず、3つの積分値がすべて等しいことを意味する。

$$ \int S_1(\lambda) \, \bar{x}(\lambda) \, d\lambda = \int S_2(\lambda) \, \bar{x}(\lambda) \, d\lambda $$

($\bar{y}$, $\bar{z}$ についても同様)

この等式を差の形で書き直すと、$\Delta S(\lambda) = S_1(\lambda) - S_2(\lambda)$ として

$$ \int \Delta S(\lambda) \, \bar{x}(\lambda) \, d\lambda = 0 $$

$$ \int \Delta S(\lambda) \, \bar{y}(\lambda) \, d\lambda = 0 $$

$$ \int \Delta S(\lambda) \, \bar{z}(\lambda) \, d\lambda = 0 $$

が成立する。

メタメリズムが成立する数学的条件

上の条件を線形代数の言葉で表現すると、メタメリズムの数学的構造が明確になる。

分光分布を波長の関数として連続的に扱う代わりに、$n$ 個の離散的な波長サンプル点で表現すれば、分光分布は $n$ 次元のベクトル $\mathbf{s} \in \mathbb{R}^n$ となる。等色関数は3本あるから、これらを行として並べた $3 \times n$ 行列 $\mathbf{A}$ を構成できる。

$$ \mathbf{A} = \begin{pmatrix} \bar{x}(\lambda_1) & \bar{x}(\lambda_2) & \cdots & \bar{x}(\lambda_n) \\\ \bar{y}(\lambda_1) & \bar{y}(\lambda_2) & \cdots & \bar{y}(\lambda_n) \\\ \bar{z}(\lambda_1) & \bar{z}(\lambda_2) & \cdots & \bar{z}(\lambda_n) \end{pmatrix} $$

三刺激値への変換は行列ベクトル積 $\mathbf{t} = \mathbf{A} \mathbf{s}$ で表される。メタメリズムの条件 $\mathbf{A} \mathbf{s}_1 = \mathbf{A} \mathbf{s}_2$ は $\mathbf{A}(\mathbf{s}_1 - \mathbf{s}_2) = \mathbf{0}$ と同値であり、差分ベクトル $\Delta \mathbf{s} = \mathbf{s}_1 - \mathbf{s}_2$ が $\mathbf{A}$ の零空間(null space)に属することを意味する。

行列 $\mathbf{A}$ のランクは3(3本の等色関数が線形独立であるため)であるから、零空間の次元は $n - 3$ である。可視光域を1nm刻みで離散化すれば $n = 401$ であり、零空間は398次元に達する。

これが意味するのは、任意の色に対して、その色と同じ三刺激値を与える分光分布が事実上無数に存在するということだ。人間の色覚は、$n$ 次元の分光情報をわずか3次元に圧縮している。圧縮の過程で失われる $n - 3$ 次元の情報が、メタメリズムの源泉である。

あなたには何も見えていないで論じたように、知覚は世界の忠実な写しではない。メタメリズムはその不忠実さの、最も精密に記述可能な一例だ。人間の眼の光学で解説した3種類の錐体細胞というハードウェアの制約が、物理的には異なるものを「同じ」と判定する。

光源メタメリズム

メタメリックペアが成立するかどうかは、光源に依存する。ある光源のもとでメタメリックペアであった2つの物体が、別の光源のもとでは異なる色に見える。これを光源メタメリズム(illuminant metamerism)と呼ぶ。

その数学的な根拠は明快だ。物体色の三刺激値は $I(\lambda) \cdot R(\lambda)$ と等色関数の積分で決まる。2つの物体の分光反射率を $R_1(\lambda)$ と $R_2(\lambda)$ とし、光源Aのもとで

$$ \int I_A(\lambda) \, R_1(\lambda) \, \bar{x}(\lambda) \, d\lambda = \int I_A(\lambda) \, R_2(\lambda) \, \bar{x}(\lambda) \, d\lambda $$

が成立していたとする。光源をBに変えると、$I_A(\lambda)$ が $I_B(\lambda)$ に置き換わる。$I_A(\lambda)$ と $I_B(\lambda)$ の分光分布が異なれば、被積分関数全体の形が変わり、等式は一般には成立しなくなる。

直感的には、ある光源で「たまたま」同じ色に見えていた2つの物体は、波長ごとの反射率の違いを光源が異なる重みづけで拾い上げることで、色の一致が崩壊する。光源の分光分布が滑らかで連続的であるほど、こうした崩壊は起こりにくい。逆に、鋭い輝線スペクトルや特定波長域に欠損のある光源ほど、メタメリックペアが崩れやすい。

写真における演色性の実践的影響

LED照明のスペクトル欠損と肌色

LED照明は省電力で色温度の選択肢が広く、写真・映像の分野で急速に普及した。しかし、LEDの発光原理に由来する分光分布の特性は、演色性に固有の課題をもたらす。

白色LEDの多くは、青色LEDチップの上に黄色蛍光体を塗布し、青色光と蛍光体からの黄色光を混合して白色光を得る方式を採用している。この方式では、分光分布に2つの特徴が現れる。

  • 450nm付近に青色LEDの鋭いピーク
  • 480〜520nm付近(シアン域)にスペクトルの谷間(ディップ)

このシアン域の欠損は、肌色の再現に影響する。肌の分光反射率はシアン域にも成分を持っており、この波長帯の光が不足すると、肌の赤みと血色感が失われ、不健康で青白い印象を与えることがある。$R_a$ が90を超えていても、シアン域の欠損がある限りこの問題は解消されない。

高演色LEDでは、赤色蛍光体の追加や、複数の蛍光体の配合調整によってスペクトルの谷間を埋め、CRI 95以上を実現している製品もある。TM-30の $R_f$ と色相ごとのベクトルグラフィックを確認することで、こうした改善がどの色相域に効いているかを定量的に判断できる。

ストロボと太陽光の分光分布比較

写真用ストロボ(キセノンフラッシュ)が「太陽光に近い」と言われる根拠は、その発光原理にある。ハイスピードシンクロとフラッシュ同調の物理で扱ったキセノンガスのアーク放電は広帯域の連続スペクトルを生成し、分光分布の全体的な形状が昼光に類似する。一般的な写真用ストロボのCRIは95〜100の範囲にあり、高品質な製品では98以上に達する。

ストロボ撮影で色がずれる理由と対策で詳述したように、ストロボの分光分布はキセノン固有の輝線スペクトルが連続スペクトルに重畳した構造を持つ。この輝線成分は全放射エネルギーに占める割合が小さいものの、出力変更時にプラズマ条件が変化すると連続スペクトルと輝線スペクトルの強度比が変動し、CIE色度図上でプランキアン軌跡からのGreen-Magenta方向のずれ($\Delta uv$)として観測される。

太陽光もまた完全な連続スペクトルではなく、太陽光と大気の物理学で詳述したフラウンホーファー線と呼ばれる吸収線を含む。太陽大気中の元素が特定波長の光を吸収するためだ。ただし、これらの吸収線は非常に狭く、写真の色再現に実用上の影響を与えることはほとんどない。

ストロボの演色性が高い理由を整理すると、次のようになる。

  • 連続スペクトルが可視光域全体をカバーしている
  • スペクトルの谷間や欠損がほとんどない
  • CCTが5500〜6000K付近であり、基準光源(CIE昼光D55〜D60)と近い

ストロボの発光管はなぜ変色するのかで解説したように、発光管の経年劣化(ソラリゼーションやスパッタリング)は分光分布を変化させ、演色性を低下させる。定期的な発光管の交換が色再現の維持に不可欠である理由は、この物理的メカニズムに帰着する。

プリント時のメタメリズム

写真のプリントでモニター表示と印刷物の色が合わない原因の一つに、メタメリズムがある。

ディスプレイの物理学で解説したように、モニターは赤・緑・青の3原色の加法混色で色を表示する。その分光分布は、3つのピーク波長を中心とした狭帯域の光の組み合わせだ。一方、印刷の物理学で扱ったように、印刷物の色は染料や顔料の分光反射率によって決まり、そのスペクトル構造はモニターの発光スペクトルとまったく異なる。

モニター上のある色と印刷物上のある色が、モニターのバックライト(あるいは自発光パネル)のもとでは同じ三刺激値を生んでいたとしても、それは特定の観察条件下でのメタメリックマッチにすぎない。印刷物を異なる光源(たとえば窓からの昼光やオフィスの蛍光灯)のもとで観察すると、光源の分光分布が変わるため、メタメリックマッチが崩れ、色が異なって見える。

この問題に対する実践的な対策は以下の通りである。

  • 印刷物の色評価には、CRI 90以上の高演色光源のもとで、D50(5000K)の標準光源を使用する。印刷業界の標準であるISO 3664がこの条件を定めている
  • モニターのキャリブレーションを適切に行い、白色点をD50に合わせる
  • インクジェットプリンターの場合、インクと用紙の組み合わせごとにICCプロファイルを作成し、色域マッピングを最適化する

ColorChecker Passport × Capture One Pro プロファイル作成手順で扱ったカメラプロファイルの作成も、光源とセンサーとの間のメタメリズム的な色差を補正する営みの一つである。光電効果とフォトダイオードで述べたように、カメラのセンサーが持つ分光感度は人間の等色関数とは異なるため、センサーが「見る」色と人間が「見る」色の間にもメタメリズム的なずれが生じうる。カラーターゲットを使ったプロファイリングは、このずれを実測データに基づいて補正する手段だ。

まとめ

演色性とメタメリズムは、光源・物体・観察者の3者の分光特性が絡み合う現象である。本稿で得た知見を整理する。

  • 演色性は、試験光源と基準光源のもとでの物体色の差として定義される。基準光源はCCTに応じて黒体またはCIE昼光が選ばれる
  • CRI($R_a$)は8つのパステル色の色差平均から算出される。$R_i = 100 - 4.6 \Delta E_i$。単純で広く普及しているが、高彩度色の評価が不十分であり、色域変化の方向を区別しない
  • TM-30は99色で評価し、忠実度指数 $R_f$ と色域指数 $R_g$ を分離することでCRIの限界を克服した
  • メタメリズムは、異なるSPDが同一の三刺激値を与える現象であり、等色関数で構成される行列の零空間($n - 3$ 次元)にその数学的根拠がある
  • 光源メタメリズムは、光源の分光分布の変化によってメタメリックペアが崩壊する現象であり、LED照明やプリント評価で実用上の問題を引き起こす
  • ストロボのCRIが高いのは、キセノン放電の連続スペクトルが可視光域全体を欠損なくカバーするためである
  • プリント時の色の不一致は、モニターの発光スペクトルと印刷物の反射スペクトルが異なる分光構造を持つことによる光源メタメリズムの一形態である

色の知覚は、物理的な分光情報を3次元に圧縮する過程だ。その圧縮が不可逆であるがゆえに、同じ色に見えるものが物理的には無数にあり、光源が変われば一致が破れる。緑がずっと緑である保証はないと述べたように、私たちが見ている色の安定性は、知覚の構造と観察条件の偶然の上に成り立っている。

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