写真のしくみ ⑥ 画角と焦点距離が決める写る範囲の広さ
光はまっすぐ進み、レンズは世界をひっくり返す。写真と映像にひそむ小さな「なぜ?」を、数式なしで解き明かす全40回。
前の回で、焦点距離は「レンズから像ができる場所までの距離」だと学びました。では、この数字が変わると、写真にはいったい何が起きるのでしょう。今回は、焦点距離と写る範囲の関係を身近なたとえで解き明かしていきます。
「ズーム」って、結局なんの話?
カメラ屋さんのレンズ売り場を歩くと、箱にかならず書いてある数字があります。18mm、35mm、50mm、200mm…。この焦点距離が変わると、写真の何が変わるのか。
答えをひとことで言うと、こうなります。
焦点距離が短い(数字が小さい)ほど、広く写る。焦点距離が長い(数字が大きい)ほど、せまく写る。
これだけです。とてもシンプル。でも、「なぜそうなるの?」を知ると、カメラのことがぐっとおもしろくなります。今回は、そこを探検していきましょう。
窓からのぞくと、なにが見える?
いきなりレンズの話をする前に、ひとつ実験です。家の窓のそばに立ってみてください。
まず、窓にぐっと顔を近づけて外を見てみましょう。左右に広がる景色がたくさん目に入ってきますね。道路も、おとなりの家も、空も、ぜんぶいっぺんに見えるはずです。
では今度は、窓から2メートルくらいうしろに下がって、もう一度外を見てみてください。さっきまで見えていたおとなりの家が消えて、正面の景色だけが窓枠にぽっかり切りとられています。見える範囲がずいぶんせまくなったと思いませんか?
じつは、カメラの中でもまったく同じことが起きています。
カメラのセンサー(フィルムカメラならフィルム)は、四角い窓のようなものです。大きさは決まっていて動きません。そしてレンズは、窓の前に立つあなたの「目」にあたります。
焦点距離が短いレンズは、センサーのすぐ近くに像をつくります。窓に顔をくっつけた状態と同じですから、広い範囲の光がセンサーに届いて、広く写ります。
焦点距離が長いレンズは、センサーから離れたところに像をつくります。窓からうしろに下がった状態と同じですから、正面のせまい範囲の光だけがセンサーに届いて、せまく写ります。
これが、焦点距離と写る範囲の関係の正体です。むずかしい計算なんていりません。「レンズとセンサーの距離が近ければ広く、遠ければせまく」。これが本質です。
14mm、50mm、200mmで見る世界
では、焦点距離が変わると具体的にどのくらい写る範囲が変わるのか、のぞいてみましょう。ここでは35mmフルサイズという、もっとも基本的なセンサーサイズ(36mm × 24mm)を基準にして話を進めます。
14mm:目の前をまるごと
焦点距離14mmのレンズは超広角と呼ばれます。写る範囲は対角線で約114度。両手を左右にぐいっと広げたくらいの範囲が、1枚の写真におさまります。目の前の景色がほとんどまるごと入るような感覚です。
広大な山の風景や、せまい部屋を広く見せたいときに大活躍するレンズです。ただし、画面の端にあるものが引きのばされたように写りやすいという特徴もあります。友だちの集合写真を撮ったら、はしっこの人の顔がびよーんと横にのびてしまった、なんてことも起きるので注意が必要です。
50mm:見たままの空気感
焦点距離50mmのレンズが写す範囲は、対角線で約47度。14mmにくらべるとずいぶんせまくなりました。
でも、この「せまさ」がじつに絶妙なのです。50mmで撮った写真は、ふだん私たちが「あ、あそこを見よう」と意識を向けたときの感覚にとても近いものがあります。ものの大きさや奥行きの感じかたが自然で、見た人が違和感をもちにくいのです。だからこのレンズは古くから**「標準レンズ」**と呼ばれてきました。
スナップ写真やポートレート(人物写真)に幅広く使われるオールラウンダーです。
200mm:遠くの世界を手元に
焦点距離200mmになると、写る範囲はたった約12度。腕をまっすぐ前にのばして、にぎりこぶしをひとつ立ててみてください。こぶしの幅がだいたいそのくらいの範囲です。とてもせまいですよね。
でも、そのぶん遠くにあるものを大きく写せます。公園の池にいるカワセミの羽の色、サッカー場のむこう側でシュートを放つ選手の表情。肉眼では点にしか見えないものを、ぐっと引き寄せてくれるのが望遠レンズの力です。
運動会でわが子のアップを撮っているお父さんお母さんのカメラについている大きなレンズ、あれがまさに望遠レンズです。
きみの目は何ミリ?
ところで、私たちの目はカメラのレンズでいうと何mmくらいなのでしょうか。
じつはこれ、カメラ好きのあいだでも長年議論されてきた、なかなかややこしい問いです。
まず、人間の目が光を感じとれる範囲はとても広くて、左右あわせると約200度に達します。数字だけ見れば、どんな超広角レンズよりワイドです。ただし、端のほうはぼんやりしか見えていなくて、「あ、なにか動いた」程度しかわかりません。色もほとんど感じとれません。
私たちが「はっきり見えている」と感じている中心部分は、だいたい40度から60度くらいです。カメラの焦点距離に置きかえると、43mmから50mmあたりに相当します。
だから、50mm前後のレンズで撮った写真は「なんだか自分の目で見た感じに近いな」と思えるのです。50mmが「標準レンズ」と呼ばれてきた理由の核心はここにあります。
ただし、大事な注意点がひとつ。
これはあくまで**「注視している中心部分の画角が近い」**という意味です。「50mmレンズ=人間の目」と言いきるのは正確ではありません。人間の目はつねにきょろきょろ動いていて、脳がその情報をつなぎあわせて「広い世界」を組み立てています。1枚の四角い写真とはしくみがまるでちがうのです。
「50mmは人間の目に最も近い」と聞いたら、「ああ、注意して見ているときの中心部分の話だな」と理解しておくと、ちょっとくわしい人の仲間入りです。
画角を「度」で言いかえてみよう
ここまで何度か登場した「約114度」「約47度」「約12度」という数字。これを画角(がかく)と呼びます。英語では angle of view。レンズがどのくらいの範囲を写せるかを、角度であらわしたものです。
画角が大きいほど広い範囲が写り、小さいほどせまい範囲が写ります。焦点距離と画角はシーソーのような関係で、片方が大きくなればもう片方は小さくなります。
ちなみに「画角」と言ったとき、対角線の画角(対角画角)、横方向の画角(水平画角)、縦方向の画角(垂直画角)の3種類があります。レンズのスペック表やカタログに出てくる画角は対角画角であることがほとんどです。今回の記事でも、とくに断らないかぎり対角画角の数字を使っています。
この「対角画角」が基準になる理由はシンプルで、四角いセンサーのなかで対角線がいちばん長いからです。「このレンズが写せるいちばん広い範囲」を示すには、いちばん長い対角線の角度で表すのが合理的なのです。
ズームレンズの正体
ここまで読んで、「じゃあレンズを何本も持ち歩かなきゃいけないの? 重いよ!」と思った人もいるかもしれません。
その悩みを解決するのがズームレンズです。
ズームレンズとは、1本のレンズで焦点距離を変えられるレンズのこと。レンズの鏡筒(きょうとう)についているリングを回すと、中のガラスが動いて焦点距離が変わります。たとえば「24-70mm」と書いてあるレンズなら、24mmの広角から70mmの標準域まで、リングをくるくる回すだけで自由に行き来できます。
反対に、焦点距離がひとつだけに固定されているレンズを単焦点レンズ(たんしょうてんレンズ)と呼びます。箱に「50mm」とだけ書いてあったら、それは50mmの単焦点レンズです。
「ズームできるなら、ズームレンズだけでよくない?」と思うのは自然なことです。たしかに利便性ではズームレンズが圧倒的です。でも、単焦点レンズにもちゃんと出番があります。焦点距離がひとつだけなぶん構造をシンプルにできるので、小さく軽くつくれたり、明るく(光をたくさん集められるように)設計できたりします。背景がとろけるような大きなボケを出しやすいのも、単焦点レンズが得意とするところです。
この回のまとめ
今回は、焦点距離と写る範囲の関係を見てきました。大事なポイントをふりかえりましょう。
- 焦点距離が短いレンズは広い範囲を写します(広角)。焦点距離が長いレンズはせまい範囲を写します(望遠)。
- その理由は、レンズとセンサーの距離にあります。距離が近ければ光を広く受けとめ、距離が遠ければせまく受けとめます。窓のそばに立つか、離れて立つかのちがいと同じです。
- 14mm(超広角)の画角は約114度、50mm(標準)は約47度、200mm(望遠)は約12度。同じ場所に立っていても、焦点距離が変われば写る世界はまるでちがいます。
- 人間の目が「はっきり見ている」と感じる中心部分は約40度から60度。焦点距離に換算すると43mmから50mm前後です。50mmが「標準レンズ」と呼ばれる所以ですが、「人間の目=50mm」と言いきるのは単純化しすぎです。
- 画角とは、写る範囲を角度であらわしたものです。焦点距離が短ければ画角は広く、長ければ画角はせまくなります。カタログの数字はおもに対角画角です。
- ズームレンズは焦点距離を変えられるレンズ、単焦点レンズは焦点距離が固定されたレンズです。それぞれに得意分野があります。
レンズの焦点距離ひとつで、写る世界はまるで変わります。ところが実は、同じレンズをつけていてもカメラを変えると写る範囲がまた変わることがあります。次回はその理由、センサーサイズと画角の関係を探っていきましょう。