倫理と思考実験
草原で寝転びたい
草原に寝転びたいと思ったことがある人は、たぶん、その草原に行ったことがない。 あるいは行ったことがあるかもしれない。でもそこで実際に寝転んだとき、虫が這い上がってきて、地面は思っていたより固くて、日差しが強すぎて、十分もしないうちに起き上がったはずだ。それでも「また行きたい」と思う。正確に言えば、あの場所ではなく、一度も存在したことのない「あの場所」に。 なぜ草原なのか。なぜ海ではないのか。海は動いていて、音があって、塩の匂いがして、何より溺れる。草原は静かで、ほとんど動かない。もしかすると求めているのは草原ではなく、「静けさ」そのものなのかもしれない。だとすれば、この文章は静けさをめぐる長い寄り道のようなものだ。目的地は、たぶんない。 草の悲鳴 草原に寝転んだとき、あの匂いが好きだという人は多い。青くて透明な、あの匂い。正体を聞いても、好きなままだろうか。 あの匂いの正体は、植物が組織を傷つけられたときに放出する揮発性有機化合物だ。Green Leaf Volatiles(GLVs)と呼ばれる炭素6個と酸素を含む化合物群で、主に (Z)-3-ヘキセナールが含まれる。