倫理と思考実験
最も効率よく人を救う者が隣人を見捨てる
最も効率的に人を救おうとした者が、やがて隣にいる友人を見捨てることになる。これは倫理学の暴走ではない。善意の正確な帰結だ。 膝丈の水 ピーター・シンガーが1972年に書いた論文 "Famine, Affluence, and Morality" に、ひとつの思考実験がある。 出勤途中、膝丈の浅い池で幼い子どもが溺れている。周囲に誰もいない。あなたは新品のスーツを着ている。助けるか。当然、助ける。スーツが台無しになっても、会議に遅刻しても、子どもの命には代えられない。ほとんどの人がそう答える。 ではシンガーは問う。遠い国で同じ年齢の子どもが飢餓で死にかけているとき、あなたはなぜ同じように行動しないのか。数千ドルの寄付で救える命がある。あなたは昨日、同じ額を何か別のものに使った。 物理的な距離は、道徳的に何かを変えるのか。シンガーの答えは明快だった。変えない。 この論理を受け入れた瞬間、日常は足元から崩れる。友人への贈り物も、旅行も、趣味に使うお金も、すべて「救えたはずの命」との引き換えになる。あなたはもうボタンを押している。ただ気づいていないだけで。 これが効果的利他主義